本屋にいくと、なる? ならない?

水乃流

結末は、■■■

 本好きの間では、「本屋に行くとトイレに行きたくなる」という噂がつとに有名である。曰く、本(特に新刊)の匂いが尿意便意を誘発するのだとか、いやいや本屋のあの独特の雰囲気がそうさせるのだとか、理由は判然としないが、そう感じる人は多いようで、噂は消えることはなかった。仲間内では本好きとして知られる俺なのだが、あいにく体質ではないらしく、本屋に行ってもトイレに行きたいと思ったことはない。毎日のように本屋に足を踏み入れているにも関わらず、だ。まぁ、個人的には、よくある都市伝説のようなものと思っていた。

 ところが。

 ある日、隣町に新しい本屋がオープンしたと聞いて、会社帰りによってみた。新しくできたショッピングモールの一画にひっそりと営業していたその本屋は、三〇堂とか有〇堂、くま〇わ書店のような有名な店ではなく、聞いたこともない名前の本屋だった。どうやらチェーン店ではないらしい。出版不況が叫ばれるこのご時世に、頑張っているのだなと勝手に好感を持った。

 店内に入ると、入り口近くの目立つ場所に新刊が平積みされていた。その奥に雑誌コーナー、単行本、文庫本の棚が並んでいる。比較的大きな面積をとっているのが、漫画コーナーで、一番奥の目立たない場所に専門書と、きわめてオーソドックスな本屋だった。

 俺は、新刊をぐるっと見渡した後、目的の文庫本コーナーへと足を運んだ。ふむふむ。背表紙を眺めながら、お目当ての作家を探してみる。まぁ、好きな作家の本はだいたい読んでいるんだけどね。とその時だった。

 急に、腹を刺されたような、絞られるような痛みが俺を襲った。やばい。急に来た。まだ何も買っていないが、とりあえず店を出てモールのトイレに駆け込もう。


「すいません、お客さん。ちょっといいですか?」


 店を出たところで、店員に声をかけられた。いや、よくない。急いでいるんだ。


「あなた、さっきから変な動きしてますよね?」


 そりゃね、我慢しているからね。


「事務所でお話、聞かせてもらえませんか?」


え? 何? 万引きかなにかと間違われているのか? とんでもないっ! そんなことしていないし、今はやばいんだ。荷物でもなんでも調べていいから、その前にトイレだけ行かせてくれ。


「そういって、盗んだものを隠そうとしているんじゃないか? あやしいな」


 そんな訳ないだろっ! と、声を上げて抗議したいが、力を入れると大変なことになりそうなので、俺の理性が止めた。理性、グッジョブ。


「いいから、事務所に来てくださいよ」


 だから、俺は潔白だってば。あぁ、なんで信じてくれないのか。これまでに万引き班に間違われたことなんてなかったのに、あれか、あの噂を都市伝説なんていっちゃったからか? それはあやまるから、たのむ、たのむよ。


「なにをモゾモゾして……やっぱり怪しい。いいから、こっちに来て」


 だから、これは、あれだよ、あれ。我慢してんのよ。頼むよ、な。ダメ? どうしても? トイレより先に事務所? あぁ、どうして信じてもらえないのか? 髪も仏もないものか。紙なら必要だけれども……って、そんなことを言っている暇はない。こうなれば、強行突破だっ!

 すばやく踵を返して、トイレへ向かおうとした俺の腕を、そうはさせ時と店員が掴んだ!





…………あっ。

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本屋にいくと、なる? ならない? 水乃流 @song_of_earth

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