第3話 こうして蘭堂鈴はウチに入り浸るようになった。
「「ライちゃんが彼女連れてきたあああぁぁぁ~~~~~~~~~~!」」
玄関をくぐった瞬間、黄色い声に出迎えられて蘭堂さんがギョッとする。
「蘭堂さんは彼女じゃないよ。ああ、紹介するよ、俺の
「
「
「…………その随分と、凄い恰好をしているな」
島本玲譜姉さんはパンクなへそ出しファッションをしていて、島本愛歌はフリルだらけのゆるふわコーデで決めていた。
「姉さんモデルやってるし、愛歌もyoutuberやってるから、ファッションには気合入ってんだよ」
「へぇ~……って、メチャクチャすごくないか⁉」
「凄いんじゃないかな? 俺は二人ともレディースばかり取り扱ってるからあんまり興味ないけど……こっちだよ」
「お、おう」
靴を脱いで、廊下を歩く。
戸惑いながらも蘭堂さんは俺の後に続き、渡り廊下に出る。
「結構広い家に住んでんのな……」
「昭和の頃からあるボロ家だよ。俺の部屋は離れの小屋だからね」
サ○エさんに出てきそうな古い一軒家。それが我が島本家の家だ。その母屋から渡り廊下でつながった元倉庫。六畳一間の畳の部屋を俺の希望であてがわせてもらっている。
「なんで離れなんだ?」
「ここ、母屋から離れてるから、友達とちょっと騒いでも家の両親に迷惑を掛からないと思ってさ——」
「ああ……友達想いなんだな」
「そんなんじゃないけど……ほら、入って」
引き戸を開けて、中へと蘭堂さんを招く。
「うわあぁ……!」
ゲーム機や漫画が置かれている典型的な男の子の部屋だと思うが、なぜか蘭堂さんは感嘆の声を漏らす。
「どうしたの?」
「い、いや……兄弟でもない男の部屋に入るの初めてだから……よ」
「そう?」
恥ずかしがっているが、マナーとか何もないから気にしなくてもいいのに。
蘭堂さんは変わらず赤い顔で、俺が普段座っている座布団に腰を下ろすと、手を差し出した。
「ん!」
早く、〝アレ〟をよこせと言いたげに———。
「はいはい」
俺は机の引き出しから、〝赤いケープ〟を出して、その手に渡す。
「取れたボタンも治しておいたよ」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!」
嬉しそうに、蘭堂さんはその赤いケープを抱きしめた。
「やっぱり、蘭堂さんだったんだね。昨日のゴスロリの女の子」
「————ッ⁉ な、なんだよ。わ、わりいかよ!」
昨日ジョジョ三兄弟に絡まれていたゴスロリファッションの女の子。
それは、彼らが慕うウチの学園の番長———蘭堂鈴だった。
彼らは自分たちが慕っておきながら、彼女が可愛らしいゴスロリファッションに身を包むと全く同一人物と気づかずに絡み、カツアゲをしようとしていたのだ。
節穴過ぎるとは思う。
だが、学校だとぶっきらぼうなヤンキーとして振舞っているのに、ゴスロリ服で街を歩くとあんなにもお人形さんみたいな可愛らしくなる蘭堂さんも悪いと言えば悪い。
「別に悪くないよ。でも、蘭堂さん、ジョジョ三兄弟を殴ろうとしたでしょ?」
「—————ッ!」
「その時にケープのボタンを弾け飛ばしたんでしょ? ダメだよ、せっかく綺麗な服なのにそんな雑に扱っちゃ」
蘭堂さんの瞳が泳ぐ。
蘭堂さんが絡まれていた場所から少し離れていた場所に、赤いケープのボタンはあった。
ゴスロリ服というのは当然ながら激しい運動するのには向かない。喧嘩なんかもってのほかだ。生地は破れやすいし、精密に作られているから、パーツが外れやすい。
「わ、悪かった」
「別に謝る必要はないよ。ただ、これからもああいう格好をするんだったら気を付けて欲しいってだけ。やっぱ俺も姉と妹が服にうるさいから、そういうの大切にしてくれないと気になっちゃうんだよね」
ハハ……と苦笑する。
「これからもって……おかしいと思わなかったのか?」
「何が?」
「あたしみたいな、ヤンキーがゴスロリ来て街を歩いているの……あの田中達だっておかしいと思ったみたいでメチャクチャ威圧してきたし……まるでやめろって言ってるみたいで」
「おかしくないよ。可愛かったよ」
「~~~~~~ッ!」
顔を真っ赤に染める蘭堂さん。
あと、ジョジョ三兄弟は〝やめろ〟と威圧していたわけではなく、単純に蘭堂さんだと気が付いていなかっただけだ。
「あ、あのよぉ……島本……あんたに頼みがあるんだけどよ……」
「何?」
「あたしさ……不愛想で、顔も女とは思えないほど怖くて、クラスの嫌われ者だろ?」
「え?」
いやぁ……そういうわけじゃあないと思うけど……。
確かに進藤からは嫌われてるけど、あいつはただ単に小学生の頃にいじめられっ子だったトラウマがあるからというのが強くて、他のクラスメイト達からはどちらかというと憧れられている。
「本当はもっと、みんなと仲良くなりてぇんだよ……女子会とかしたいし、お泊り会とかもしたいし、クラスのみんなと友達になりてぇんだよ」
「そう、だったんだ……」
蘭堂さんは意を決したようにケープをギュッと握りしめた。
「だから、だからさ……! あたし……女らしくなりてぇんだ! あのゴスロリ服が似合うぐらい、女らしく! だから……島本、あんたにあたしのことずっと見解いてい欲しいんだよ!」
顔を真っ赤にして、彼女はそう言った。
だから———似合ってたって言ってんじゃん。
金髪ヤンキーの蘭堂さんはゴスロリを着て女の子らしくなりたい あおき りゅうま @hardness10
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