第2話 今時珍しいヤンキー・蘭堂鈴

 ———4月の3週目。


 もうすぐ高校に入って初めての一月ひとつきが過ぎようとしている。この頃になると初対面のクラスメイト達にも慣れていって、段々とつるむグループが決まっていく。

「よう、来人らいと。今朝は結構遅かったじゃないか」


 背中から声をかけられる。


「おはよう進藤。ちょっとやることがあってさ」


 振り返るとジャニーズ系のようなイケメンがいた。 

 進藤隆之しんどうたかゆき。俺の後ろの席の気のいい男だ。女子から非常にモテるが「ふしだらな付き合いは苦手だ」と言って女を遠ざける気があり、ホモじゃないかと疑われているが、俺は気に入っている。


「そうか、もしかして勉強か? うんざりするな。この学校、あと一か月後には中間テストなんだからな。せっかく受験勉強から解放されたのに、もう勉強をしなければいけない」

「そんなことを言って、進藤は頭がいいじゃないか。入学式で成績優秀者で一年生代表に選ばれていたくせに」

「まぁ、な」


 フッと笑う進藤。褒められて、認められて嬉しいようだ。

 進藤隆之は頭がいい。どうして平均的な成績で入れるウチの学校に来たのかわからないほどだ。


「進藤ならもっといい学校行けたのに、どうしてウチの学校来たんだよ」

「特に理由はない。家が近かったからだ———だが、正直に言うとこの学校に来たのは失敗だった、何故なら———」


「「「チィ—————————ッス! 蘭堂さん‼」」」


 教室の入り口でジョジョ三兄弟がある人物に向けて挨拶をしている。


「……………」


 綺麗に染まった金髪が、教室の扉からすらりと流れる。


 不機嫌そうに細められた目。尖らせている唇。時代遅れの古臭い長スカート。


 それらのマイナス要素全てを打ち消す美貌を持った少女が、頭を下げるジョジョ三兄弟の間を通って教室に入る。


「来たわよ、蘭堂さん……」

「怖い……けどクールよね……」

「番町みたいで、昭和を感じられていい」

「令和やぞ」


 その光景を見つめながら、クラスメイト達はそれぞれのリアクションを見せる。

 彼女の凛とした様子にため息を吐いて見惚れる者、この令和の時代にツッパル彼女に男気を感じて憧れる者。単純に怖がっている者


「———ハァ、僕がこの学校に来て後悔しているのは、あんな時代遅れの不良がまだいることだ……あの女を見ると僕は小学校に僕を虐めていたノリカちゃんを思い出すから嫌なんだ」


 進藤が全身を震わせる。

 彼は、不良が嫌いだった。

 彼には悲しい過去があり、小学校のころ、スキンヘッドにピアスをしたヒャッハー系の女子に会うたびにプロレス技をかけられたり、靴を盗まれたり、リコーダーを盗まれたりと、散々な小学校生活を送ったため、すっかりそう言った服装が乱れているいわゆるヤンキーが苦手になっていた。


 特に———、


蘭堂鈴らんどうりん。蘭堂空手道場の一人娘で中学全国空手大会の優勝者。推薦でいい高校に行くかと思えば、普通に受験し、何を思ったか高校に入ると空手を止めて放蕩三昧。プライドが高く格闘術を学んでいる彼女はこの学校の不良共をシメて誰からも恐れ、憧れられている番長となっている……本当に一昔前の悪しき遺物だ。ああいうヤンキー女は本当に嫌……おい、来人! どこに行く⁉」


 つらつらと蘭堂鈴を嫌いな理由を説明している進藤を置いて、俺は蘭堂鈴の元へ向かう。


「お、オラァ! また手前ェか島本ォ!」

「ドラァ! 気やすく蘭堂さんに近寄ってんじゃねぇぞ!」


 彼女に近寄ろうとすると、すかさずジョジョ三兄弟がカットに入る。


「ボラァ! 蘭堂さんに話があるんならなぁ! まず舎弟の俺達に話を、」


 ドカッ!


 ジョジョ三兄弟の一人———渡辺の背中が蹴られる。


 蘭堂さんだ。


 彼女がヤクザキックで思いっきり渡辺を蹴り飛ばし、彼は床を「うべしっ!」

と奇妙な声を上げながら転がっていく。

「……てめぇらは舎弟じゃねぇ、ただのクラスメイトだ」

「「そんなぁ……蘭堂さぁん」」

「うっせぇ! 失せな!」

「「ヒ、ヒィ————————!」」


 蘭堂さんに脅されて、ジョジョ三兄弟は散っていく。

 そして、彼女は鼻を鳴らし、


「フンッ、それで……あたしに何か用かよ? あんたは確か…島本来人しまもとらいと だったよな?」

「そうだよ。覚えていてくれて嬉しいよ」

「ハッ、クラスメイトの名前くらい、覚えるもんだろうが」


 口調はぶっきらぼうだが、顔が若干赤い、照れているのか……。


「蘭堂さん」

「何だよ」

「今日、学校終わったらウチに来てよ」


 ざわっ、


 いきなり、ただの普通の男子生徒がクラスで一番の不良……ヤンキーの彼女をみんなの前で家に来るように誘う。

 それがどれだけ命知らずなことか。


 そう———思われているだろうな。


「………おう」


 だが、蘭堂さんは同意した。

 恥ずかしそうに少し頬を赤らめながら。


「「「え———————————————————————‼‼‼」」」


 教室が驚愕の声で埋め尽くされるが、俺は知っていた。彼女は決してこの頼みを断らないということを。


 何故ならば———、

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