金髪ヤンキーの蘭堂さんはゴスロリを着て女の子らしくなりたい

あおき りゅうま

第1話 金髪ゴスロリお人形さんを助けてみた

 クラスメイトのカツアゲの場面に遭遇してしまった。


「オラ、ぶつかっておいて謝罪もなしかよ?」

「ドラ、てめぇしかもさっき俺の頭叩いたよな?」

「ボラ、なんとかいったらどうなんだよ、綺麗なおべべを来た嬢ちゃんよォ!」


 リーゼント、スキンヘッド、パンチパーマのガラの悪い奴ら……ウチのクラスの田中、鈴木、渡辺だ。


 クラスの何処にでもああいう不良はいるが、あの三人は特にひどい。もう令和だというのに昭和を生きている。

 彼らは裏路地で一人の人間を囲んでいた。


「……………」


 女の子だ。

 赤いゴシックロリータのドレスを着た、金髪のお人形さんのような女の子。

 一人の女の子相手に三人で囲んで脅迫って……格好悪すぎるだろ……。


「ハァ……おぉ~い、田中、鈴木、渡辺ェ!」


 そんなものを見過ごせるほど、この島本来人は情けなくはない。

 俺は仕方がないから、不良三人組に向かって手を振った。


「オラ? てめぇ! 島本ォ! どうしてこんな場所にいやがる!」

「ドラ! てめぇ何の用だ⁉ こっちはこっちで大事な話してんだよ!」

「何ならテメェも慰謝料はらうか、ボラァ!」


 三人がゴシックロリータの女の子から、俺に矛先を向ける。


「慰謝料って、別に何もされてないだろ?」

「アァンッ⁉ 舐めてんのかテメェ?」

「舐めてな……近ぇ! 顔近ぇよ! お前!」


 田中が俺の顔のすぐ目の前でメンチを切ってくるが、それは確かに〝怖い〟が別の〝コワイ〟がある。

 何らかの拍子で顔が田中の顔が接触してしまったら、恐ろしく気持ち悪い結果が生まれれてしまう。


「ドラ! テメェは前から気に入らなかったんだよ! 俺たちに対して全然ビビらねぇし! やっぱ舐めてんだろ⁉」

「舐めてないよ。鳴き声が変だから〝ジョジョ三兄弟〟って言って馬鹿にはしてるけど」

「ボラァ⁉ それの何処が舐めてねぇって言うんだよ⁉」

「……………ッ」


 心配そうに俺を見つめるゴスロリの女の子に、アイコンタクトを送る。

 目を横にスライドさせ、裏路地の出口を指し示す。


 ————今のうちに逃げて。


「…………ッ!」


 ゴスロリの女の子は僕の気持ちに気づいてくれたようで頷いて、駆け出した。


「ふぅ……」

「何が「ふぅ……」だ話はまだ終わってねぇぞ⁉ オラァ!」 


 リーゼントの田中が僕の胸倉をつかむ。


「もう我慢ならねぇ、テメェは一回ぶん殴ってやらないと気が済まなかったんだよな! ドラァ!」


 スキンヘッドの鈴木が拳を握り、


「ボラァ!」


 パンチパーマの渡辺がナイフを取り出した。


「いや、ナイフを取り出すのは流石にダメだろ。つーかそんなもの学生なのにどこで買ったんだよ?」

「アウトドア用品で普通に売ってんだよ、ソロキャンするっつったら普通に買えるんだよ」

「うわぁ……人の良心に付け込んだ悪質な買い物……まぁいい、とにかくそれ、しまって。あと、逃げた方がいいよ」

「ドラ? てめぇまさか仲間引き連れてきたんじゃねぇだろうな?」


「いや、普通に———警察呼んだ」


「おい! カツアゲをしているというのは君たちだな! 何をやってる!」


 裏路地の入口から二人の警官がこちらに向かってきていた。


「やっべ! 〝ヒネ〟だ!」


 田中が警察を見て縮み上がり、鈴木は拳を解いて、渡辺は慌ててナイフをしまおうとしたせいで、間違えてその場に落としてしまった。


「〝ヒネ〟が来たぁ! 逃げるぞ、ドラ!」

「ボラァ! 俺の5670円がァ!」

「いいから、オラァ‼ 〝ヒネ〟に掴まるのはヤバい!」


 「ポリ」「サツ」「マッポ」……全部警察の呼び方だ。

 高校に入って知った事なのだが、そういった警察の俗称には〝地域性〟と〝世代性〟があるようで、流行り廃りのように地域ごとで変わる。

 僕たちの世代では警察のことを〝ヒネ〟と呼ぶらしい。ひねくれ者の〝ヒネ〟だ。この辺の悪童は警察のことをそう見ているらしい。

 脱兎のごとく逃げていく〝ジョジョ三兄弟〟。

 一人の警官が「コラ待ちなさい!」と追いかけていくが、もう一人の方はこの場に残り、僕に気づかったような笑みを向ける。


「大丈夫かい? 君が通報してくれた子だね?」

「えぇ……赤いドレスを着た女の子とすれ違いました?」

「ん? 赤? 白だったと思うが……あぁ、多分その子も「君を助けてくれ」って言ってたよ。心配そうだった」


 警官のリアクションが思ったのと違う。


「———? まぁ、無事に逃げられたみたいで、良かったです……あ……」


 少し、警官から視線をスライドさせると、なぜ彼が俺の期待したリアクションじゃないのか理解した。 

 地面にボタンが外れた真っ赤なケープが落ちていた。


 なるほどな。


 俺は赤いケープを見ていた。その下のブラウスが真っ白であることを注視せずに。

 あのゴスロリの少女は今、真っ白なブラウスだけで、この都会の街を歩いているのだろう。


 ———これが俺、島本来人と彼女との出会いとも呼べる瞬間だった。

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