赤い本

イリュウザ

第1話 ある男の軌跡

 俺は、目の前に在る小さな古本屋の扉をくぐり、古書特有の臭いを嗅いで落ち着きを取り戻した。

 俺は、死に場所を求めて彷徨っていた。

 俺は、宗教にハマって可怪しくなった一家で育った。

 いわゆる二世信者だ。

 俺は、親に虐待を受け、世間から疎まれて生きてきた。

 家にも、社会にも居場所がなく、良く学校の図書室や図書館で過ごしていた。

 そのためか、古書の臭いが落ち着く臭いとして刷り込まれいた。


 死に場所を探していたのは、親が作った大量の借金と俺の名前を使って大金を借りていた。

 お陰で、極貧生活を強いられてきた。


 そのクソ両親は、2世信者の救済に尽力しているNPO団体を襲い、人を殺しやがった。


 そのせいで、仕事を解雇され、アパートを追い出された。


 絶望し、生きて行く気力もなくし、彷徨ってい、この古本屋にたどり着いた。

 落ち着くと、あのクソ両親のせいで死ぬのがバカバカしくなってきたが、どうしたら新たな道を歩めるのか分からない。

 そんな事を思いながら本棚を見ていると1冊の赤い表紙の本がある。

 その本には、タイトルも作者も書かれていなかった。

 ただ、値札が張ってあり、500円だった。


 表紙をめくり、1ページ目に書かれていたのは、ページ中央に「新たな道を望む者よ。この本を手に進むが良い。」と書かれていた。

 次のページをめくると、白紙だった。

 次々とページを送るが全て白紙だ。

「これ、ノートかよ。」と思い本棚に戻すも、どうしても気になり、全財産の500円を持ってレジで購入する。

 店番をしていた婆さんから「困ったら、その本を読むといい。」と謎の言葉を貰って、店を出た。


 そう、店を出て東京の雑踏に戻ったはずったのだが、そこは森の中だった。

 後ろを振り返っても、森だった。


 右も左も分からない森の中を彷徨い、喉が乾いた。

 困った、本当に困った。

 どうしよう。

「もうちょっと進めば、森を抜けれるかな。」と思い歩み続けていたが、森を抜ける気配はない。

 中天に居た太陽が居なく成り、茜色の雲が木々の隙間から見える。

 困り果てて視線を落とすと、赤い本を持っている事に気付いた。

 本を持っていたのに、今まで気づかないって、どれだけ動転していたんだ。


 ふと、古本屋の店員の言葉を思い出し、本を開くと、2ページ目に水と食料となる植物の情報が書かれていた。

 俺は、その情報を元に、水と食料を探し、空腹を満たす事が出来た。


 その後、森を3日彷徨い、森の側にある村にたどり着いた。

 その村は、RPGとかで出てくる中世位の文化水準の村だったが、何故か日本語が通用した。

 村人は、人当たりの良い人達で、俺の事もすんなりと受け入れてくれて、この地で生活させて貰う事になった。


 あの赤い本は、無くしても火に焚べても、気がついたら手元に戻っていた。

 俺には読めるが、他人からは白紙の本でしかなった。


 それから3年。村で畑を開墾しながら細々と暮らし、農家の娘と恋仲が、親父さんから認めて貰えなかった。

 流行り病で、大勢の村人が倒れた。

 その中には、その娘も含まれていた。

 薬は、非常に高額で、とても買えるシロモではなかった。


 俺は、赤い本で対策を調べると、薬の材料と作りかたと材料が載っており、森に入って薬の材料を集めて薬を作って、彼女に飲ませた。


 数日後、回復した彼女と共に、森に入って薬草をとって、薬を作り、村人に配った結果、多くの村人が回復した。


 流行り病の薬の噂が広まり、欲しがる人が増えた。

 村のガラの悪い奴や、商人からは、儲け話を振られたが、無視して広めた。


 そして、村で薬草を栽培して、薬を作り、販売した。

 遠方からも、商人も来るようになり、村は少し豊かになった。


 その功績が認められて、その娘と結婚できる事になった。

 その婚礼まで、あと1ヶ月という所で、王城から使者が来て、王城に呼びたされ、王の御前に居る。

 王からは、王子が流行り病に掛かり、村の薬で多少改善したが、治らない。

 王城の薬師達では、治療出来ない為、流行病の薬を作った俺が呼びされたのだった。


 薬だけを作れと言う王城薬師に対して、王子を診察させて欲しいと申し出たが、なかなか許可が降りまで数日が掛かった。

 実際に、王子を診察させて貰った結果、流行り病と別の病気だった。

 赤い本で、確認すると、薬の材料と作り方は分かったが、問題が出た。


 その事を、王城薬師に相談するが、「此処にある薬草で作れ」というばっかりで話しにならず、更に数日が過ぎ、王の前に呼び出されたので、全てを話した。

 当然、王城薬師は、自分達が正しいと主張し続けたが、連れ出された。


 その上で、必要な薬草を手配すると言ってくれたが、この薬草の効果が、摘み取って半日しか持たない事と、村の側でしか取れない事を改めて話した。

 村と王都まで、馬車で1週間掛かるので、どうしても薬草を持ってくることが出来ないのだ。


 王が下した決断は、病気の王子を俺達の村に滞在させて治療させる事だった。

 近衛騎士と共に村へと帰ってきた俺は、村人に事情を説明し、薬草を探して貰う。


 王子は、キャンピング馬車みたいな物で移動と療養する事になった。

 薬草は、翌日には見つかり、薬を作って、王子に飲ませた。


 数日後、王子は病気から回復した。

 そして、王子は王都に帰っていった。


 そうして、ようやく俺は結婚し、平穏な日常が戻ってきたと思ったのもつかの間、再び王に呼び出された。


 王に呼び出された理由は、褒章のためだった。

 王からは、爵位と領地と王城薬師を与えると言われたが、全て断った。

 その代わり、村の税の減額を願い出た。


 王に理由を聞かれたので、

 自分は薬師としてやっていける程薬を知らない事。

 今回の病気は、たまたま知っていた為、薬を用意できた事。

 平民である自分が、貴族は務まらいし、領地も治めることが出来ない事。

 お金を貰っても、盗まれる未来しか見えない事

 それならば、村が豊かになる方が良いと思える事

 言葉に詰まりながらも答えた。


 王は、呆れていたが、村の減税を了承してくれた。

 それどころか、薬草作りを奨励してくれた。


 こうして、村での薬草栽培を行い。

 商人に卸す事で、村は少しずつ豊かになっていった。


 俺も、子を授かり、貧しいながらも心穏やかに過ごす事が出来た。


 そして、今、子供達とその妻、孫達に囲まれ、穏やかに死に行く。

 此処には、俺が求めた家族の愛が有った。

 それだけで、十分だった。


 あの赤い本は、俺の死と共に消えた。

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赤い本 イリュウザ @Iryuza01

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