本屋を救え!!

マチュピチュ 剣之助

本屋を救え!!

「うわ、なんだなんだ」

 駅前の通りに大きな人だかりができていたので、太郎は何か悪いことが起きたのかと焦った。今日は3月1日の水曜日。新しい月になったということ以外、何も特別なことはないはずの平日である。


「ちょっと太郎くん、見てよ!」

 声が聞こえたので振り向くと、近所に住む同級生の美穂がいた。

「突然、建物が消えたみたいなのよ」

 美穂がそう言って指を指す方向を見ると、大型の本屋である『尾張国屋おわくにや』があったはずの場所が空っぽになっていた。

「え、なんで・・・」

 太郎は思わず大声をあげてしまった。尾張国屋といえば、日本最大手の本屋チェーン店であり、太郎は毎日のように通って、雑誌や参考書や新しい小説を探すのを楽しみにしていた。駅前の尾張国屋の店員さんとも顔見知りになっていたので、友達に会いに行く感覚で本屋に向かうようにもなっていた。


「こんなこと、あってたまるか・・・。それに、店員の宮田さんはどうなったのだろう・・・」

 太郎はまず店員の一人である宮田の顔を思い浮かべた。彼女は、シングルマザーとして二人の子供を育てるために、毎日本屋で働いているとのことであった。

「あれ・・・?」

 人だかりの隅に、宮田がいることに太郎は気が付いた。表情はとても暗くてうつむき加減であり、ちょうど別の場所に向かっていこうとしているところであった。

「ちょっと、宮田さん!!」

 太郎は大声をあげて、宮田さんの方に進んでいった。

「え、どうしたの、太郎くん?」

 突然走って別のところにいったことに驚いた美穂の声が聞こえるが、太郎は足を止めることなくひたすら宮田の方に進んでいった。


「あ、太郎くん・・・」

 太郎の叫び声に気が付いた宮田が、申し訳なさそうな顔をしながら返事をした。

「ちょっと何が起きたのですか?信じられないのですけど・・・」

 太郎がそういうと、宮田はボソッとつぶやいた。

「本たちによるストライキみたいなものかな・・・」

「え、どういうことですか?」

 太郎にはさっぱり宮田の言っていることがわからなかった。すると、宮田は詳細を話し始めた。

「太郎くんも知っていると思うけど、若者の本離れが進んでいて、尾張国屋でも客足がどんどん鈍くなっていたんだよね・・・。そしたら、今日尾張国屋の社長さんがすごい剣幕で来て、本屋全体に謎のスプレーをかけたの」

 太郎はやはり宮田の言っていることがわからなかった。わからないというより、本屋ごとなくなっている現実と宮田の内容がつながらなかった。

「するとね、スプレーをかけられたら、つぎつぎと本が暴れ始めてどこかへと走っていたの。挙句の果てには、建物自体も本を追いかけてどこかへと行ってしまった・・・。社長さんは、私たちがサボっているから本たちが怒ってストライキをしたんだ、って言っていたのだけど・・・」

 宮田の言っていることは信じられない内容であったが、彼女は嘘をつくような人物ではないことは、太郎が良く知っていた。それに、本屋が突然なくなるというあり得ないことが現実に起きている以上、何か特殊なことがあったのは受け入れるしかないと、太郎は考えるようになった。


「それで、どうしたら本屋はもとに戻るのですか・・・」

「社長さんが言うには、解決策は一つしかないんだって・・・」

 宮田の話に、太郎は思わず息を吞み込んだ。



 ~~~ 一年後 ~~~

「いらっしゃいまs・・・あ、太郎くん!」

 太郎が尾張国屋に入ると、宮田が満面の笑みで迎え入れてくれた。

「尾張国屋が元に戻ってからすごく順調みたいですね。お店も、以前よりも生き生きしている気がします」

「何を言っているの、これもすべて太郎くんのおかげだよ」

 そう宮田が言うと、お互いに目を合わせてフフッと笑った。

 この一年間は、太郎にとって過酷な期間であったが、本屋を救うという大きな使命を果たしたという満足感に今はあふれていた。


 さて、どうやって太郎は本屋を救ったのだろうか?

 それを語るには、まだ時期尚早じきしょうそうである。

 今は、皆さんのご想像にお任せするとしか言えないのであった。

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本屋を救え!! マチュピチュ 剣之助 @kiio_askym

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