第28話

 シーンとした室内。呼吸音だけが響く。

少ししてから竜平が口を開く。

「あの、鍛冶場にはある言葉が伝わっているんです。〈騎士の実力以上の鍛冶師を付けるべからず〉

鍛冶師の腕が良くても騎士の腕が未熟では業物もなまくらと化す。この言葉にしたがって鍛冶場では騎士の実力によってどの実力の鍛冶師を付けるかを変えているんです。なので、その…………」

「なるほど、そういうことでしたか。まだまだ未熟ですがよろしくお願いします」

「よろしく頼みます」

「いえ、こちらこそ、良い物を打てるよう頑張ります」





 「ではお二人の背丈、腕、足、手の測定、加えて刀の要望をお聞きします」

「あ、はい」

「では星川さんからお願いします」

「…………」



「次武田さんお願いします」

「…………」





 「では星川さんが平均より拳一つほど短く、武田さんが通常より少し多めに反りを付けるということでよろしいでしょうか」

二人して頷く。

「ではこれから作業に入ります。数日間お待ちください」

「あぁ、助かる」

「了解した」






 「なぁテル」

「どうした?」

「調査の要望どうなったんだろうな」

「まだ議論中だろうな。ただ、下の方でも見回りの範囲や魔物の数によってはそろそろ限界が近づいている所も在るだろうからな。魔物に加えて騎士が反乱し始めるととてもじゃないが耐えられないだろう。そこを考えると要望を受け入れるほかないと思う」

「反乱か……確かに上相手になら起こそうと思うヤツが出てくるかも知れないな……」

沈黙。廊下を歩く二人の足音だけが響く。

「しかし…勝てるとは思えねぇな」

「滝口か」

「そう。あれ相手に下が刃を向けても返り討ちでおわりだぜ」

「気の練り上げ方が全く違う上、五芒星の印を難なく描くから強さも一級品なんだよな」

「反乱を起こす危険性くらいは理解してるだろうからやらないとは思うけど……ここまで変なことが起こり続けたら調査をしないわけにはいかないよなー」

「上でも意見が分かれている可能性はある。さすがに明日には結論が出るだろうから待っておこう」





 「しかし柏尾くん。あまりにもこれは信じがたい」

机を囲んで数人の隊長·副隊長が眉を寄せて難しい顔をしている。

「しかし事実だ」

「前の調査では多量の人材と時間を投入したにも関わらず何の結果も出なかった。それに魔物の出没は主に夜だ。戦えない研究者の護衛に騎士を割けばその分他への対応が遅れることになる」

「だが最近の魔物はあまりにもおかしすぎる。今改めて調査をして見るというのも一つの手だと思うがな。前の時よりも技術は上がっている。ここで何か発見が有れば魔物の根絶の可能性も少しは上がるのではないか?」

「…………」

室内には重苦しい沈黙が横たわっている。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

日出国の騎士 立花夕口 @Subaru-kirakira-355

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ