ムジナは踊る

Planet_Rana

★ムジナは踊る


 本屋を訪れる度に、気になっていたことがある。


 それは平積みになる書籍の選出基準だったり、壁に張ったポスターを何年も替えない理由だったり、店舗によって看板猫がいることだったりした。


 不況だからこそ本屋を巡ると様々な工夫や特徴が見えてくる。他店より専門書を揃えていたり、絶版になった本ばかり並べていたり、文具の品ぞろえが画材屋に負けず劣らずだったり、CDやDVDを売る棚が併設されていたりするのだ。


 故に本屋を訪れるお客さんの目的は書籍購入のみとは限らない。


 しかし、本屋は書籍を売るから本屋なのでは?


 本屋にやってきて書籍を購入しないお客さんはちょっとだけ変わっていると思うのは、私だけだろうか。意地悪な私が胸中で囁いた。


 すっかり定着した足取りで人が居ない順番に棚を巡り肩を落とす。ほんの少し意地悪なことを考えたからか、めぼしい本は見つからなかった。


 店員に調べて貰うと、どうやら予約した本もまだ届いていないらしい。うーむ。やはり、床抜けを心配する格安家賃の一人暮らしには「ワンタップで即購入&手荷物増えず」な電子書籍が向いているということなんだろうか。


 しかし、私は紙本が好きなのだ。


 思考から戻る。

 今はレジの前に居る。


 店内を数周した上に予約本の情報も聞き終えたのだから、もう私には用事が残っていないはずだった。だがレジにまで店員さんを引っ張って検索を頼んだあげく、結局何も買わずに退店するというのも心苦しい。


 何かないか。何か。

 本を購入できずとも、お店に一円くらい落とせる買い物ができないか。


 目線が明後日の方向へ滑る。


 温かい飲み物とが入ったボックス、フードロス削減のポップが貼られたお菓子棚。


「――っと。はちみつレモンと、そこの細長いのど飴。ひとつずつ下さい」


 言い終わって、何だか居た堪れない気持ちになる。


 マスクに苦笑を隠すと、ムジナは肩を丸くして財布の紐に手をかけた。




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