第二回本屋対抗魔導書ビブリオバトル

不明夜

第二回本屋対抗魔導書ビブリオバトル

 時刻は午後三時。本の香りが立ち込める店の中で、バイトと称してスマホを弄る仕事へと没頭していた僕に対して、背後から声がかかる。

「今日も今日とて暇そうだな、バイト君。まあ丁度いい、一つ頼まれてくれないか?」

「何です?暇なのは店の立地のせいだと思いますよ。何を思ってこんな山奥に本屋なんて建てたんですか、店長」

 前々から思っていた疑問を投げ掛けながら、わざとらしくため息をつく。と言うのも、店長が何かしら僕に頼む時は、決まってどうしようも無い厄介ごとだからだ。

「何、簡単な話だ。この本屋を代表して大会に出る。どうだ、簡単だろ?」

「大会……この本屋には僕と店長の二人しか居ないのに、代表も何も無いですよね」

「まあ黙って聴け。何たって歴史ある大会だからな、出られるだけで名誉な事だぞ」

 本屋を代表して、の時点でイロモノの大会だとは思うのだが、出られるだけで名誉なんて言われてしまうと、正直かなり興味がそそられる。

「そう、その名も”第二回本屋対抗魔導書ビブリオバトル”!」

「二回目のくせに歴史あるなんて言ったんですか!?」

 口をついて出たツッコミは間違いなく的外れだったが、そんな所を問題視している場合では無い。僕は仕方なく、そしてできる限り冷静に質問する事にした。

「……そもそも、魔導書って何なんです?あのゲームとかに出てくるやつですか?」

「大体その認識で良いぞ。そもそも、この本屋はそうした本を集めるために開いたからな。取り敢えず、この店にある魔導書を見に行こうじゃないか」

 ずんずんと店の奥へと進む店長についていきながら、改めて魔導書について考える。本当に存在する物なのか、存在したとして何が書いてあるのか、期待と不安が入り混じった感情のまま、気づけば店の最奥まで来ていた。

「着いたぞ。この棚にあるのは大体魔導書だが、どれも扱いには気を付けろ。特に危険なのは……この本だな」

「危険?ただの本にしか見えませんが……何か仕掛けがあったりします?」

 魔導書と聞いて表紙に大きな五芒星が描かれている様な、一目で魔導書と分かる物を想像していたが、店長が手に持っている本は表紙が読めなくなってしまっただけのただの古い本にしか見えない。

「ああ。魔導書なんて言うくらいだ。この本はなんと発する」

発?!そんな危険物のそばに居たんですか?!僕は死なんて嫌ですよ!」

「大丈夫だ。この本はとある単語を五回言わない限りはただの本だからな」

 正直な所、この時点で嫌な予感はしていた。尤も、僕には何も出来なかったのだが。

「とある、なんて言われると発が怖くて喋れなくなるじゃ無いですか!五回まで大丈夫なら教えてくださいよ」

「そう言われても……おい、ちょっと待て。何回発って––––あ」

 赤く光った本を見て、一目散に走り出す僕。何故か本を持ったまま追ってくる店長。

 かくして、僕達の”第二回本屋対抗魔導書ビブリオバトル”は不戦敗という散々な結果で終わったのだった。


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第二回本屋対抗魔導書ビブリオバトル 不明夜 @fumeiyo

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