本屋にいってくれ

水円 岳

「マサシ」

「ああ、センパイ」

「本屋にいってくれた?」

「うんにゃ」

「そっか……」


 ものすごく寂しそうな顔してるけど、できないもんはできないよん。


「いっても意味ないし」

「わかってる」


 これでもかと肩を落としたまま、センパイがとぼとぼ行きすぎた。で、センパイと入れ替わるようにしてハナが来ちまった。ついてない時にはバッドタイミングでかぶるんだよ。センパイを足止めしときゃよかったと思っても、後の祭り。


「やふー、マサシ」

「はあ」

「どしたん。元気ないじゃん」

「うんにゃ。平常運転だよ。元気ないのはセンパイ」

「ほ?」

「いや、勇気ないから代わりにコクってくれってさ」

「なにそれ。論外じゃん」


 だよなあ。コクるっていうのは一大イベントなんだから、対面で堂々とやらんと意味ないと思うんだけど。まあセンパイだからなあ。


「てか、マサシ。もし代わりにやれって言われたら、すんの?」

「冗談ぽい。やだよ。あたしゃどノーマルなんだし」

「ううぶ。つまらん」

「コクリにおもしろさを求めんでくで」

「ふうん」


 にやにやしてやがる。ハナもなあ。外見はともあれ中身はちょーエグい。センパイもようやるわ。


「てかさ、マサシ」

「なんじゃ」

「あんたはどうなのよ。よくセンパイと絡んでるけど」

「絡んでないよー。絡まれてるけど」

「ふうん」

「だいたい名前がマズいんだよ。あたしが馬刺。あいつが洗盃。あんたが本屋。ネーミング設定が全力でバグってるとしか思えんし」

「女子高だしねえ。てかあいつ、まだわたしのこと『ほんや』って言ってるんだよなー。ブックストア扱いは嫌いなんだけど」

「しゃあないやん。正規に『モトヤ』だと男名になっちゃうから。あいつなりに気を遣ってんだよ」

「むぅ。あんたは男のあだ名でいいわけ?」

「あたりまえよん」


 目の前で拳を固めてみきみき言わせる。


「あたしをバサシって本名で呼んだらブッコロス!」



【おしまい】

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本屋にいってくれ 水円 岳 @mizomer

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