本屋にいってくれ
水円 岳
☆
「マサシ」
「ああ、センパイ」
「本屋にいってくれた?」
「うんにゃ」
「そっか……」
ものすごく寂しそうな顔してるけど、できないもんはできないよん。
「いっても意味ないし」
「わかってる」
これでもかと肩を落としたまま、センパイがとぼとぼ行きすぎた。で、センパイと入れ替わるようにしてハナが来ちまった。ついてない時にはバッドタイミングでかぶるんだよ。センパイを足止めしときゃよかったと思っても、後の祭り。
「やふー、マサシ」
「はあ」
「どしたん。元気ないじゃん」
「うんにゃ。平常運転だよ。元気ないのはセンパイ」
「ほ?」
「いや、勇気ないから代わりにコクってくれってさ」
「なにそれ。論外じゃん」
だよなあ。コクるっていうのは一大イベントなんだから、対面で堂々とやらんと意味ないと思うんだけど。まあセンパイだからなあ。
「てか、マサシ。もし代わりにやれって言われたら、すんの?」
「冗談ぽい。やだよ。あたしゃどノーマルなんだし」
「ううぶ。つまらん」
「コクリにおもしろさを求めんでくで」
「ふうん」
にやにやしてやがる。ハナもなあ。外見はともあれ中身はちょーエグい。センパイもようやるわ。
「てかさ、マサシ」
「なんじゃ」
「あんたはどうなのよ。よくセンパイと絡んでるけど」
「絡んでないよー。絡まれてるけど」
「ふうん」
「だいたい名前がマズいんだよ。あたしが馬刺。あいつが洗盃。あんたが本屋。ネーミング設定が全力でバグってるとしか思えんし」
「女子高だしねえ。てかあいつ、まだわたしのこと『ほんや』って言ってるんだよなー。ブックストア扱いは嫌いなんだけど」
「しゃあないやん。正規に『モトヤ』だと男名になっちゃうから。あいつなりに気を遣ってんだよ」
「むぅ。あんたは男のあだ名でいいわけ?」
「あたりまえよん」
目の前で拳を固めてみきみき言わせる。
「あたしをバサシって本名で呼んだらブッコロス!」
【おしまい】
本屋にいってくれ 水円 岳 @mizomer
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