エピローグ ~『迎えたハッピーエンド』~


 時が過ぎるのは早いもので、半年の月日もあっという間だった。


 薬師の職業適性によってサーシャは自分の死期を把握している。とうとう最後の日がやってきたと、横になる彼女の傍にはレインの姿があった。


「もう少しだけ耐えてくれ、サーシャ」


 手をギュッと握りながら励ますが、握り返す彼女の手の力は弱い。サーシャは半年の間にさらに痩せ細り、握力が落ちていたからだ。


「今まで、ありがとうございました……私に持病があることを知りながら結婚までしてくれて……」


 サーシャが結婚に否定的だったのは、持病のために長く生きられないと知っていたからだ。だがレインはそれでも構わないと結婚を選択してくれた。そんな彼に感謝を伝えると、悲しみで手が震え始める。


「私はまだ君に生きていて欲しい」

「嬉しいです……私も、もっと生きたかった……」

「サーシャ……ッ……」

「でも最後に……一目でいいからお姉様に会いたい……」


 サーシャの目尻から零れた涙が頬を伝う。死ぬ間際に彼女が会いたいと願ったのは、父親でも母親でもない。血の繋がりはないが、誰よりも尊敬している姉だった。


「サーシャ!」


 部屋の扉をノックもなしに開いたのはマリアだ。修道服はボロボロになり、大聖女としての威厳は損なわれているが、彼女の顔は半年前よりも凛々しくなっていた。


「大聖女様、今までいったいどこに⁉」

「王国各地を回り、怪我人を治療していましたの。ケイン様の助けもあって、本当に大勢の人を救えましたわ」


 続くようにケインも入室してくる。彼もまた法衣が汚れているものの、身体から滲ませるカリスマ性の輝きは強まっていた。


「今の私ならきっと……」


 レインに退いてもらい、サーシャの手を握る。


「お姉様、会いに来てくれたのですね……」

「たった一人の大切な妹ですもの。当然ですわ」

「……っ……わ、私は幸せ者です……大好きなお姉様に看取られて天国へ行けるのですから」

「安心してくださいまし。あなたはこれからも私と一緒ですわ」

「お姉様?」


 治るはずがないと諦めているサーシャに、マリアは渾身の回復魔法をかける。目を細めるほどの光の奔流に包まれていく。完治したはずだと、光の収まりと共に確認する。


「そんな……」


 サーシャの顔色は良くなっていたが、しかし瞳の生気は衰えたままだ。無理だったのかと泣き崩れそうになった時、ケインが手を重ねる。


「諦めるのはまだ早いよ。今度は僕も協力する。二人で力を合わせればどんな困難も乗り越えられるはずだ」

「は、はい……っ」


 国内最高の回復魔法の使い手二人が、すべての魔力を消費して、癒しの輝きを放つ。暖かな光に包み込まれたサーシャ。そんな彼女に変化が生じたのは、魔法が発動して数秒後のことだ。


 痩せ細った手足が健康的な状態に復元し、瞳にも生気が宿る。かつての美貌を取り戻し、彼女の顔に笑顔の華が咲いた。


「お姉様、私――私……病気が治りました!」

「サーシャ……っ――あなたが生きていてくれて良かったですわ」


 完治した彼女をギュッと抱きしめる。恩人である妹を救えた喜びに彼女は身体を震わせた。


「ありがとうございます、大聖女様。妻を、サーシャを救ってくれたあなたは恩人です!」

「レイン様、お礼を言うのは私の方ですわ。これからも妹と幸せな家庭を築いてください」

「命に代えましても!」


 この半年間、レインはずっとサーシャの傍で看病を続けた。治療の決め手は回復魔法だが、彼の尽力がなければ、きっと妹の命を救うことはできなかった。


「愛する人がいるというのはよいものですわね」

「なら僕たちもどうかな?」

「え?」

「プロポーズしたんだが、通じなかったかな?」

「わ、私とケイン様がですか⁉」


 不意を打つような告白だった。だが驚きこそあれど、彼女の心の中で答えは出ていた。


「ケイン様となら喜んで!」


 マリアはケインと抱きしめあう。彼女の手には幸せなハッピーエンドが掴みとられていたのだった。



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[完結]家族から冷遇された大聖女 ~今更、家のために王子と結婚してくれと頼まれてももう遅い。ハッピーエンドは自分の手で掴み取ります!!~ 上下左右 @zyougesayuu

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