異世界男子による不可能ミッション〜禁書(?)を手に入れろ〜

ココですココ、ここ

最強の2人

 ここはとある世界の、とある国にある魔法学校。

空では箒に乗った魔女が風に乗り、山の奥では竜が口から火を吹く。

我々の世界とはまるで異なる不思議で不可思議な魔法世界。


 しかし普遍というものはある。

どの世界においても変わらぬものがこの世界には確かにある。


 魔法学校の中等部の二年生の教室、その一つで目を輝かせる少年が二人。

授業が終わったばかりの彼らは魔法広告の記事の一つを穴が開くほど見つめていた。


———茶髪で活発的な少年の名がビリー•バー。つり目と八重歯が特徴的なバカヤロウが口癖の、口が悪いけど気のいい男。


———黒髪でニヒルに笑う少年がリズム•ニール。もじゃもじゃ頭と目の下のクマがトレードマークで、何を喋るのにも鼻で笑ってから話し始めるような奴。


 二人は不思議と気が合うみたいでいつも一緒にいた。



 広告記事に書かれている内容は…ある女性がホログラムグラビアにデビューをしたというもの。それもトップレス。


 ホログラムグラビアとは、現代の魔法技術の粋を集めて作り出された究極のグラビア。

本を開ければ、モデルが目の前にいるかの如く飛び出し、世の男性を虜にする。


 広告に映る女性は…黒髪でグラマラスなボディをした女性の名前はマリアンヌ。

幼少期彼らの家の近所に住んでいた憧れの女性だった。


「おいおい…嘘だろバカヤロウ…これマリ姉ェだろ? モデルやってるとは聞いてたけどよ…」


ビリー•バーが隣のリズムに語りかけながら八重歯の奥で唾を飲んだ。


「はっ。こんな仕事までやるとはな」


リズムは鼻で笑っていたが、広告を握る手がワナワナと震えている。


「二人とも! 何か面白いニュースでも出てるのー?」


同じクラスの幼馴染の女の子、クレアが二人に明るく問いかけた。

純真無垢なその目が二人には眩しかった。


「はっ。女には分かんねーよ」


もじゃもじゃの頭を掻きながらリズムが冷たく言い放つ。


「おうコラ、リズムこの後の予定は?」


「お前ともあろう者が聞かなきゃ分かんねーか? ビリー•バー」


二人は同時に席を立ち、決意を秘めた眼差しで教室を後にした。



———二人が住む街で一番巨大な魔本屋。

ありとあらゆる魔道書物を取り揃えるこの本屋の前に立っていた。


「おう…覚悟はいいか⁉︎」


「はっ。当然だろ?」


 勢いよく乗り込んだ本屋の奥の方、禁書コーナーに例のエロ本は置いてあった。


 あとの問題はただ一つだけ…年齢だ。

二人はまだ背も伸び切らない十四歳…エロ本の購入は無理がある。


とりあえず作戦会議を行うために、通い慣れた路地裏へ入った。


ビリー•バーが廃棄された樽の上にどかっと座ってリズムに語りかけた。


「おうコラ、どうする⁉︎ 引き寄せの魔法で盗み出すか⁉︎」


「NOだ。店の入り口には魔道防壁の設置が義務付けられてる」


「防壁をぶっ壊す」


「NOだ。魔道防壁の破壊には上級並みの魔力がいる。少なくとも破壊に五年はかかる」


「認識誤認魔法」


「NOだ。カウンターにも恐らく防壁がある」


 リズムが淡々と答えるのを聞いてビリー•バーが舌打ちをした。


「クソが! 完全に手詰まりじゃねぇか」


「NOだ! どれだけ困難に見える道にも解決法はある」


 ビリー•バーが諦めたように吐き捨てた言葉に、リズムがクマだらけの目に強い意志を光らせて反論した。


「バカヤロウ、結局根性論じゃねぇか」


「はっ。嫌いじゃないだろ」


二人は拳を撃ち合わせて再び本屋に向かった。



———本屋に一人の老人が入ってきた。やけに動きが軽やかな老人だった。


「最初の作戦は変身魔法。攻撃系統じゃないから魔道防壁が発動しない可能性が高い」


 リズムの読み通り魔道防壁は発動しなかった。

老人の姿になったビリー•バーは見事に本屋に侵入してみせた。


八重歯を見せてニヤリと笑った。


 そのまま一切の無駄のない動作でエロ本を手に取りカウンターへと向かう。

その様子をリズムは片側の口角だけを持ち上げ、ニヒルな微笑みを浮かべながら見ていた。


 カウンターへとエロ本を差し出すビリー•バーの動きは流れるように華麗だった。

誰の目から見ても老人には見えないほどに。


「お…お客様…当店の店内で変身魔法は…」


店員がそう言いかけたところでビリー•バーはエロ本を離して走って店外へと逃げ出した。



「バカヤロウ! 簡単にバレたぞ!」


店から逃げ出したビリー•バーが、元の茶髪の少年姿に戻り怒鳴りつけた。


「はっ! バカはお前だ! あんなジジイがいてたまるか! ダンサーみたいになってたぞ、お前‼︎」


「キョドッて怪しまれちゃいけねーと思ったんだよ! バカヤロウ!」


リズムとビリー•バーはひとしきり怒鳴り合ったあと、次の作戦へと行動を開始した。



———本屋の前に立ったビリー•バーはリズムとの路地裏での会話を頭の中で反芻した。


「いいか? まずは根本を見直そう。何でも魔法に頼ろうとするのは魔法修道生の悪しき習慣だ。俺たちが頼るべきは先人の知恵…サンドイッチ作戦だ」


「サンドイッチ作戦? おうコラ、なんだそれ」


「はっ。いかにも関係のなさそうなくだらねー難しい本で例のブツを挟む。そうすりゃ店員がブツを見落としてレジを通しちまうってわけだ」


「やってやろうじゃねぇか! コノヤロウ!」


 ビリー•バーが反芻を終えて、店内に入り三冊の魔本を手に取り、カウンターへと向かう。

一冊目がレジを通る…問題は次だ。


———通れ! 通っちまえコノヤロウ!


「お客様、失礼ですが年齢を確認できるものはお持ちで…」


ビリー•バーは店員が話し終えるより早く風のように店内を後にした。



「バカヤロウ‼︎ あんなもんで騙せるわけねぇだろ‼︎」


ビリー•バーが再びリズムを怒鳴りつける。

その様相はもはや鬼気迫る程だった。

彼の八重歯が牙に見える。


「俺だってそうかと思ったけど先人がアレで通るって言ってんだよ!」


「どこのどいつだ⁉︎ ぶん殴ってやる!」



———こうなったら最終作戦だ。

今まで俺たちは騙すことに拘りすぎていたのかもしれない。

ずばり、シンプル•イズ•ベストだ!


 大きい本屋を離れ、街の外れにある老人が店主をやってる魔本屋へと向かった。


「結局最後は正攻法。王道に勝る正道なし。あんな耄碌ジジイからすりゃ十四も二十四も対してかわらねぇはずだ」


ビリー•バーはそんなリズムの話を信じて、カウンターへと向かった。


「君ねぇ子供がこんなもん買っちゃいかんよ」


「おいおい爺さん、俺は立派な成人だぜ? コノヤロウ」


「ん…身分証」


老人の店主はめんどくさそうに手を出して催促した。



———ビリー•バーは走って店から逃げ出して路地裏へと向かいリズムを殴りつけた。


「バカヤロウ‼︎ お前の考える作戦とやらは全部ダメじゃねぇか‼︎」


確認するまでもなく、その目は怒りに燃えていた。


「はっ! お前の態度に問題があるんじゃねぇか? ガキ臭さが滲み出てんだよ!」


反論しながらリズムがビリー•バーの頬を殴り返した。


「仕方ねぇだろうが! バカヤロウ、実際ガキなんだよ! こっちは‼︎」


「はっ。開き直ってんじゃねぇよ!」


「こっちのセリフだ! コノヤロウ!」


ビリー•バーがリズムの腹を蹴り上げた。

たまらずリズムがもじゃもじゃ頭を地面に擦り付けた。


リズムを見下しながらビリー•バーが叫んだ。


「俺はよぉ本気でやってんだよ! 遊びでやってんじゃねえんだ‼︎ クソが!」


リズムがもじゃもじゃの頭を起こして、目だけでビリー•バーを睨みつける。


「は…はっ。こっちだって…命懸けでやってんだよ‼︎」


「だったら死んででも手に入れてこい! バカヤロウ‼︎」


「はっ。死んだら手に入るのか?」


 口では勝てないと思ったのか、ビリー•バーがリズムの髪を持って無理矢理立たせて殴ろうとした。



———そんな時に、ビリー•バーの目にふと…ある物が飛び込んできた。


「…おい…あれ…嘘だろ?」


 ビリー•バーがそれを見て冷や汗をかき、リズムの頭からゆっくりと手を離した。

それは、念願のエロ本だった。


「なんで…コイツがこんな所に? はっ。欲しすぎてよ…幻でも見ちまったか?」


 リズムもエロ本を見つけて飛びついた。

手にとって確認してみても、やはり例のマリアンヌが乗ってるエロ本に間違いない。

幻じゃない。


「ちげーよバカヤロウ…。神様がよぉ、俺たちの努力を見てたんじゃねぇか」


ビリー•バーのつり目から涙がボロボロと流れ落ちた。


「はっ。涙まで流しちまってよ。そのなりで神様なんて信じてんのか?」


「バカヤロウ…お前も泣いてんじゃねぇか」


気がつけばリズムもクマだらけの目から涙を流していた。



——— 二人は気持ちを落ち着けてから念願の本を開いた。

光が煌めき、ホログラム上に半裸のマリアンヌが映し出された。


マリアンヌは美しく麗しかった。

迷いのない目で真っ直ぐと前を見つめ次から次へとポージングを決めていた。


とにかく…カッコよかった。

期待していたエロさではなく、美しさが際立っていた。


 そこに映る女性は幼少期に憧れた女性とは全然別の、どこか遠い世界の人のような気がした。


「おう…コラ…なんかよ…」


「…何も言うな。もう夜だ。帰ろう」


恐らく同じ気持ちのビリー•バーの言葉をリズムが遮った。



———次の日の朝、リズムは学校へと向かう道を黙って歩いていた。

途中合流したビリー•バーも何も言わずに黙って歩いていた。


「おはよー! 二人とも! どうしたの? なんか今日変な感じだね。大人しいって言うか…」


いつの間にか後ろにいたクレアが二人に声をかけた。


「バカヤロゥ…大人になったって言えや」


「何それ? 何のこと?」


いつもよりも大人しいビリー•バーにクレアが首を傾げた。


「はっ。宝物ってのはさ、探してる時が一番楽しいってことさ」


そう言ってリズムは空を見上げた。

いつもより雲が近いところにあるような、そんな気がした。

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