入鹿島からの帰還
「そもそも、お前が病院でロボットだってことを誤魔化せたと言った時に気づくべきだったんだ」
「はいはい」
「電脳体が出てこないのもおかしかったし……死体が出ているのに自然と謎解きをする流れになったのも出来すぎてると思うべきだったんだ」
「お前、朝から何回言うつもりだよ」
己龍に言われて、俺は渋々ながらもやっと口を閉じた。
騙されていたことをとやかく言うつもりはないのだが、探偵を名乗っていて、最後まで気づかなかったことへの言い訳を必死に朝からしていると思うと自分が惨めに思えてくる。
十一時になって現れた砂浜には、源太さんが言っていた通り、石碑があり、そこにはパノラマの砂浜のヒントとなる文字が刻まれていた。
どうやら、俺と己龍以外のメンバーは割られたガラスや死体として使われたロボットなどの回収や掃除があるらしいので、俺たちの見送りは大丈夫だと断っておいた。
「もし、一般人相手にも同じように騙してやるのならクレーム待ったなしだよ、あんなの……」
「そりゃそうだ。腰抜かして、部屋から出てこなくなるんじゃないか?」
あとで今回の入鹿島に関するアンケートと言う名の報告書を星乃里研究所で書くことになっているが、その時にきちんと「やりすぎだ」と書かなくてはいけない。
「おお、あんたたち、あの入鹿島からよく帰ってこれたな」
フェリーから初日に入鹿島に行くと人魚に足をとられると教えてきた男が降りてきた。
「もう演技も必要ないと思うんですけど」
「まぁ、いいじゃねぇか。最後まで入鹿島の雰囲気に浸ってろよ」
己龍が慰めるように俺の肩を叩く。
入鹿島の都市伝説が作られた物だとするのならば、都市伝説に関して教えてくれた船頭も今回の謎解きゲームの仕掛け係だろう。
もう今更、演技をされても全部分かっているのだが。
フェリーの船頭は、笑い声を漏らすとズボンのポケットから出したものを俺に渡してきた。
「プロデューサーの
あの入鹿島調査ノートの最初のページに書いてあったのはプロデューサーの名前だったのか。
ここに来て、やっとあの入鹿島調査ノートの最初の謎が解けたわけだ。
「今回の入鹿島の謎解きは楽しんでいただけましたか? まぁ、その様子だと刺激が強すぎたみたいですね」
「当たり前ですよ。あそこまでリアルにする必要がどこにあるんですか」
入鹿さんもどうやらやりすぎだというのは分かっていたみたいで、俺たちをフェリーに招き入れながら「すいません」と少しだけ申し訳なさそうに謝っていた。
「元々、私の祖父母は入鹿島に住んでいたんです」
「確か、入鹿島の島民の皆さんは台風の時に本島に移住したんですよね?」
「はい、そうです。私は祖父母から入鹿島の話を何度もされました。だから、入鹿島がひっそりと誰にも知られずに廃れていくのが我慢ならなかったんです」
本当に入鹿さんはプロデューサーだったらしく、フェリーの運転は他の人がしてくれるみたいだった。
フェリーが出発する中、俺は入鹿さんからもらった名刺を眺めていた。
そういえば、巫女の日記の中で、巫女が「いるかさん」と言っているご飯をくれる人がいると書かれていたが……。
俺は入鹿さんを振り返る。
「入鹿さん」
「はい」
「どこまでが本当の話なんですか?」
俺の質問に入鹿さんは少しだけ悩んだ振りをしてから、にこりと微笑んだ。
「全て謎を明かしてしまうと楽しくないでしょう?」
俺は入鹿島に関して、最後のため息を肺の中から全て吐き出すと、遠ざかっていく入鹿島が消えるまで眺めていた。
幽霊探偵は入鹿島にいる 砂藪 @sunayabu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます