第41話 魔道具工場の近況と転機
モネが"モネ・ルーティア"としてステータスのシステムに登録されてから、しばらくが経った。
最近は彼女の病気の克服のためにかかり切りだったが、その間、色々と様々に放置してしまっていたつけを払っている日々だ。
どれくらい放置していたかと言えば、マドニス女史に呆れられるくらいだ。
もちろん僕がモネの世話をしている間、時間が止まっていたわけもなく。僕抜きの人々による進捗が見られた。
最たる例は、奴隷少女たちだろう。
彼女たちには長く魔道具の生産を任せていたけれど。マドニスに教えられて、特に数人に関しては、ついには魔法まで習得してしまった。
これ以上、彼女たちに『魔石残量インジケータ』や『手投げ閃光グレネード』などの量産型魔道具の生産を続けされるのは、無駄というものだろう。他の仕事を覚えさせ始めた方がいい。
となると新しい発明品か何かが必要となりそうなところ。僕がモネにつきっきりだったため、放置されていた。
まあ、でも。悪いことばかりではないと思う。
たしかにシステム制御系の魔道具の設計は僕にしかできないが。普通の魔道具に関してはまだ僕は素人同然だ。
餅は餅屋ということで、マドニス女史の本業たる魔道技師としての加工技術に関しては、僕に聞くよりマドニスに聞いたほうが速くて正確となっている。
僕の発明品、という偏った技術に、いっそ傾倒させるならともかく。彼女たちを魔道技師として使える労働者とするためには、通常の魔道具に関する知識も身につけさせたほうがいいはずだ。
本業といえば、マドニス女史の今の仕事はイリーゼ姉さんの家庭教師のはずだけど、なんであんなに時間があるんだろう。
意外と暇なんだろうか。
宙に浮かんだ金属塊が、遠心力に引き伸ばされるように回転しながら円盤状に形を変えた。
さらに側面となる金属板が接合されることで、潰れた円柱という僕の設計に近い形となる。
そこに今度は、ごつごつとした凹凸を持った内部モジュールが収められ、次いで青い水晶玉のような石と、順々に次々と、内部のパーツがはめ込まれていく。
最期には、最初と同じ金属板が被せられることで、それは人で抱えるほどの大きさの分厚くしたコインのような形に行きついた。
「組み立て段階はこのような形でいいでしょう」
「円盤とかの外装パーツは、この段階に作成するので問題ないの?」
「ええ。単純な形状であれば、わざわざ製造工程を増やすより、その場で作成した方が速いですから」
僕の新しい発明品……、というには前世の製品の丸パクリの新製品はこうして一応の完成をみた。
新製品、それはル〇バもとい、自動掃除ロボットである。
この僕のいる国周辺の文化圏での認識や、用いている素材を考慮すると、『自動掃除ゴーレム』といったところだろうか。
この世界には、動く巨岩という見た目の"ゴーレム"という魔物が存在している。
例のごとく僕の翻訳の問題で、前世のゴーレムという言葉にはうっすらとあった、人工物といった意味は一切なく。
岩などが意思を持って動いているような魔物だ。
主に固体を動かすものが総称としてゴーレムと呼ばれるけど。
正確には、同じように岩でできている魔物に見えても、一枚岩で作られているか、礫が集まった塊なのかで名前が異なるし。そのうえゴーレムといっても範囲は微妙で、泥はマッドゴーレムか? 流砂はサンドゴーレムと訳すべき? といった問題が、僕の中で噴出している。
そのような血の通っていない魔物を分類する"無機類"という区分もあるのだけれど、コチラにはスライムなども同じ仲間に含まれてしまう。
実際、ちゃんと調べてもスライム=ゴーレムみたいな結論が出てもおかしくないのだ。
まあそんなことはどうでもいい。
このルン……『自動掃除ゴーレム』にゴーレムと名付けた理由の大きな理由の一つが、ゴーレムが素材として使われていることだ。
重要なのは、ゴーレムの魔石ではなく、ゴーレムそのものが使われているということだ。
実はこの掃除ゴーレムには、ゴーレムを殺して採取した魔石ではなく、ゴーレムのコアとなる生きている部分がそのまま引っこ抜かれて持ってこられている。
早い話、『自動掃除ゴーレム』に搭載された魔石に似た石は、まだ生きているゴーレムなのだ。
なので正しく表現するのなら、これは魔道具ではなく"道具に改造された魔物"となる。
つまり、『自動』で『掃除』する『ゴーレム』そのものなのである。
一通りの製造工程を終えたマドニス女史の前には、完成品となる掃除ゴーレムが残った。
まだ、中身の掃除機となる魔道具には。魔力の供給源となる魔石を搭載していないため、今回はゴーレムの部分だけのテスト製品だ。
ゴーレムは何か動力をいれるでもなしに、ひとりでに動きはじめた。
ゴツンゴツンと机に外装をぶつけながら、フラフラと部屋をさまよう。
「なんだか可哀そうになってきましたよ」
「まあ、実際やってることは結構ひどいかもね。ニンジンをぶら下げた馬にずっとニンジンを食わせないようなものだもの」
「なるほど……。なるほど?」
このゴーレム式掃除機、構想自体は結構前から考えていた。
しかし、それは今に至るまで実現できなかった。
思うようにゴーレムを制御できなかったからだ。
"魔物使い"のような魔物を使役するようなジョブやスキルがあれば、それで『自動掃除ゴーレム』を使役して解決するかもしれないが。そんなスキルを持っている人は世間には多くはない。
すると売り込める範囲が狭まってしまう。あと僕が使えない。
なので僕には、生きたゴーレムを利用した魔道具を実現させるのに、だれでも使えるようにする策を考える必要があったのだ。
ただ、問題もやはり多かった。
石の肉体を与えると、そのままフラフラどこかに行ってしまうし、とても掃除にはならない。それに反逆される危険性もある。
かといってゴーレムのコアをそのまま魔道具の外装に設置しただけでは、ただの肉体がないゴーレムになるだけ。
コンセプトから見直して、他の方法でどうにか自動化を推進したいとおもっても。現状、自立制御が行われる魔道具はアーティファクトを利用していてコストが嵩むし、オリジナリティがない。
結局、自動で掃除するように仕向けるには、生きたゴーレムに働かせるための、別の仕組みが必要となったのだ。
そしてこの度は、その発明に成功した。
その仕組みこそが、この製品の付属品となる"ゴーレムの欠片"だ。
現在も、ウロウロと動き始めた『自動掃除ゴーレム』の周りを囲うように、ある程度距離を取って配置されている。
一見、四隅に盛り塩された儀式みたいにも見えるが、別に今回は呪術とかは関係ない。
単純な仕掛けで。
ゴーレムコアには、このゴーレムの欠片に吸い寄せられるように移動し、元の体に戻ろうとする性質がある。
これは。その性質を利用した製品だ。
ちなみにこの移動にはコア自身の魔力が使われるが、そのうち魔力が尽きて死んでしまう。
そうなる前にゴーレムの主食となる魔石を与えてやる必要はあるけれど。
ちょっとしたペットのようで、これが意外と楽しい。
「問題は、ちゃんと部屋を網羅して移動できるか。だけど……」
「特に監視すべきなのは、魔道具が単調に欠片の間を往復することになっていないか、でしたっけ?」
「そうだね」
フラフラと移動する掃除ゴーレムは、部屋の四隅に置かれたゴーレムの欠片を目指して移動を繰り返した。
しかし、ぶつかるほど接近しても、いつまで経っても復活できない様子に、また別の欠片を目指し……、とさらに繰り返し。
適度なランダムさが加わった動きによって、欠片を結んだ線以外の空間も十分に通過する。
ゴーレムはおおむね、僕の思い描いていた通りの運動機能を発揮した。
ゴーレムの復活の話が出た。
単にゴーレムの素材を使っていると言っても、普通のゴーレムであればその辺にある石や砂などを材料に復活してしまうところ。このゴーレムはそのような様子が見られない。
というのも、『自動掃除ゴーレム』に用いているゴーレムは、ダンジョンにいたゴーレムだったからだ。
ダンジョンに生息するゴーレムたちは、一見、普通の岩製のゴーレムに見える。
けれどもその実態は、ダンジョンの特殊な素材を材料にした石片を自身の素材に選んでしまったため、単なる周辺の岩だけでは復活できなくなってしまっていたのだ。
ゴーレムも、本当に周辺からすべて取り除いてしまえば、自身を構成する素材にリセットが入ったりするのだが。
それも付属品として時折、近づければ素材を改めようとはしなくなる。
結果、掃除する範囲の四隅に置いたゴーレムの欠片を追って、フラフラと部屋中を右往左往移動する道具が実現するのだ。
さて、今回のこの『自動掃除ゴーレム』は、これまでの僕の発明品と違い、悲しいかな模倣が可能な製品になると思われる。
しかし、それについても問題はない。
仮に模倣するとしても、ダンジョンからゴーレムを輸入しなければならない以上。
実はその分、ヘイロー家の利益となるのである。
どうでしょう。この完璧な道筋は!
『自動掃除ゴーレム』試作品は、僕の野望を載せて、フラフラとゴーレムの欠片の間をあっちこっちと彷徨った。
まあ実のところ、このゴーレムは画期的か、と言われると疑問が残る。
まず、生きたゴーレムを使っているため、この発明を掃除以外のシーンで生かすというのは難しい。
つまりは、技術の応用性に乏しい。
例えば、配膳ロボットが欲しいとなったとしても。今回の発明はあくまで掃除以外では役立たず。自分で考えて配膳まで行ってくれるような改造をさらに施すのは困難を極める。
次に、すでに存在するモノの廉価版でしかないことだ。
アーティファクトにはもっと人に従順な自律的な思考を持つパーツも存在するため、真新しさはない。
そんな風に僕的には発明品として不満は結構残っているが。
それでも、一応は販売可能な程度の製品となったため、ヨシとしよう。
今回は、通常の魔道具を作れるようになった工場の奴隷少女たちのために、とりあえず練習も兼ねて生産させる試験的な事業だとでも思っておこう──
──と思っていたが、案外売れたので。
うちの魔道具工場に、また人手不足が発生した。
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