第23話 ターニングポイントに立つ新事業


 『魔石残量インジケータ』の売れ行きは悪くない。

 いや、それどころか、売れすぎた。



 どれくらい売れたのか。

 それは、これを見てくれたらわかるかもしれない。



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ジョブ 魔道技師:Lv13 発明家:Lv1

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 新しいジョブが二つも生えたのか、という驚きもあるけれど。

 注目すべきは、そのレベル差だ。


 "魔道技師"は魔道具を作った数が経験値となるらしく、流れ作業で製作している今では僕の中でも2番目にレベルの高いジョブとなってしまった。

 1番目となる日も近いかもしれない。


 対する"発明家"のほうなんて、発明品一つ当たりの経験値なんて基準になっているらしく、未だにレベルが一つも上がらない。これを育てるのは相当に大変になるはずだ。



 さっきのはかなり端折ったステータスだったけれど、今の僕のその他のステータスはこんな感じになっている。


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ロディオ・ヘイロー

ジョブ 読書家:Lv22 魔道技師:Lv13

    祈祷師:Lv9 発明家:Lv1

スキル 読書家:

     ┣【速読術*】【速読術+】

     ┣【記憶整理術*】

     ┗【魔法防護】

    魔道技師:

     ┣【魔道具製作】

     ┣【精密操作】

     ┗【作業効率化】

    祈祷師:

     ┣【祈祷療術】

     ┗【占術】

    発明家:

     ┗【試作再現】

系統外スキル 【祈祷療術】【魔道具製作】

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 "読書家"が20レベルを越えたときに手に入れたのは、メイルダが前に言っていた通りに派生スキルだった。

 しかも【速読術+】だなんて、これはハズレの部類だろう。


 その効果は【速読術】よりもさらに読書が速くなる、というそれだけの効果だった。

 使えないこともないけれど反応に困る。同じタイミングで【速読術】がジョブなしに発動できるようになったのでそっちがメインなんじゃないかと思うほどだ。

 まあスキルの熟練度はステータスのシステムとは関係ないはずなんだけど。


 ついでに言うと、"*"という表記でアスタリスク(に似たこの世界のマーク)がつけられたスキルが、熟練度がマックスとなってジョブを外しても使えるようになったスキルとなっている。僕は【速読術】【記憶整理術】にマークがついたので、これらは完全に習得済みだ。

 身に着けた感想はというと。まあ確かにもうかなり長い間使っていて、仕組みをそれなりに深く理解してるし、補助なしで使えと言われれば使えるかもしれないなぁというくらいだ。実感は薄い。

 そんなあいまいなものをどうやって把握しているのかはちょっと怖いけど、まあ便利なので気にしないことにしよう。



 "魔道技師"で手に入れたスキルを説明していくと。

 【魔道具製作】は、もはや魔道技師を手に入れるのに必要な条件に近い。"祈祷師"の【祈祷療術】と同じだ。ハッキリ言って、手に入れる前と後で違いを感じたことはない。

 【精密操作】は魔力の制御の補助スキル、だと思う。手作業ゆえのブレとかが抑えられている感じがする。まあジョブを外して検証するほど、いろんな面で現状に余裕はないのでそんなところだ。

 最後の【作業効率化】は、実はこれは【記憶整理術】に近い感じで、一度行った作業を繰り返すことに特化している。脳死でできるのが便利だけど、結局手は開かないのであんまり意味を感じていない。


 ここまでで、すでに三つのスキル系統が手に入ってしまったわけだが。

 個人的に"魔道技師"のスキルを評価するなら。

 魔力の操作系ばかりで、物体を加工するようなスキルが欲しかったなぁと感じた所存だ。


 今後の僕的には、魔道具の製作関連の研究は、もう少し機械系の発明へとシフトしていきたいと考えているからである。

 まだ、多少は魔石単体で成立する魔道具の案は残っているけれど、前世の知識を活かすなら断然モノとして成立している魔道具の方だ。



 "発明家"の【試作再現】というのは、結構面白いスキルで。

 自分が発明したものを魔法で再現して使うことができるというスキルだ。

 早い話、消耗品のアイテムをいくらでも使えるというものである。

 ある意味、マッドサイエンティストに求められているものかもしれない。さすがは"発明家"というこれまでで一番マッドサイエンティストに近いジョブなだけはある。


 ぶっちゃけ本来は、実験のためとかに使うのかもしれないが、魔法とかいう不確定要素が入っている時点で、僕的にはその面での評価は微妙だ。

 再現性という点で信用ならないし、条件を少し変えていくような大半の実験に対応できるとは思えない。

 再現性があっても、試作品の細かな個体差が反映されず同じ結果にしかならないのなら、それはそれで実験のN数稼ぎにすらならない。


 僕の目指す強くてカッコいいマッドサイエンティスト像にはもってこいだろうけど。

 残念ながら本来の使い道とはかけ離れて、もっぱら戦闘用となっていくにちがいない。



 あ、"祈祷師"に【占術】なんてスキルが増えたのを忘れてた。

 興味ないからほとんど試してない。

 あたるもあたらぬも八卦な占いが、多少あたりやすくなってもそんなに興味は持てなかった。

 ウリアはきっと興味を持つんだろうけれど。



 ◇


 カシャコカシャコと、ピタゴ〇スイッチばりにそこらへんにあるもので作った生産ラインを、魔石が流れていく。


 目の前を通った魔石に対して、魔道具を生成するための魔力を注いで。

 次の魔石が来たら魔道具を生成するための魔力を注いで。

 そのまた次の魔石が来たらまた魔道具を生成するための魔力を注いで。


「いや、僕は魔道技師じゃないんだけど!」


 というか、魔道技師ではないのはもちろん、読書家でも祈祷師でも発明家でもない。

 僕が目指してるのはマッドサイエンティストだ。


 そんな僕の思いとは裏腹に、『魔石残量インジケータ』の売れ行きのせいで、僕は社会の歯車と化していた。

 なまじ生産を半自動化してしまったせいで、なおさらそう感じる。

 気分は、目標をセンターに入れてスイッチする少年か、モダンなタイムスを生きるチョビ髭のオジさんだ。


 メイルダも同じような生産レーンを前にして、僕に協力してくれているんだけれど。

 もはや僕の叫びにも反応しないほど、目が死んでる。

 タコ足もあわせて同時に三つくらいの作業を並行しているので、僕の三倍働いているせいだろうか。



 このままじゃだめだ。

 ブラックに働くんじゃなくて、働かせる側にならなくては。


「生産の拡充が、人員拡充が必要だ……!」




 僕の現在の主要事業は『魔石残量インジケータ』だが、今後も商品を開発して世に出していく予定だ。

 それを踏まえたとき、僕のすべき人材投資はいくつかに絞られる。


 一つは、技能を持つ人材を引き入れること。

 次に、今は能力がなくても長期的な雇用を行える人材を育成すること。

 最後に、これはこの世界独自のもの(というか前世では禁止されていた)となるが、奴隷の導入である。


 それぞれのメリット、デメリットはさまざまだが。僕としては奴隷の導入を考えたい。




 理由の一つとして、僕の主要事業の特徴が挙げられる。

 僕の『魔力残量インジケータ』には、実はリバースエンジニアリングがしづらいが、製造現場の模倣が簡単という特徴があるからだ。

 だからこそ、人材を引き抜かれるというのが致命的になりうる。



 模倣の話になったが。この世界でも、当たり前のように模倣品というのは出回っている。

 むしろ多すぎて、オリジナルを開発する意味がほぼないくらいだろう。

 このあたりにも新規開発される魔道具が少ない理由がある気もするが、それは別の話だ。


 この魔道具の模倣というのは、ソフト面で行われている。まあこの憶測は、僕レベルの魔道具師目線での話とはなってしまうが、魔道具の製作過程を知ってる僕の目線は、あながち間違いではないはずだ。


 ソフト面で行われるとはどういうことか。

 それは、魔道具に導入する魔法は"どのようなことがやりたいか"をほとんどダイレクトに実行することができてしまうため、製品の目的さえ把握していれば模倣は簡単なのだ。


 例として、冷蔵庫の魔道具を発明し、売れた場合を考えよう。

 まず、冷蔵庫を販売するだけで、"冷やす"という製品目的が大衆に受けると知られることになる。

 そして、その目的さえ知られてしまえば。最悪、模倣者側に製品の実物すらなくても、"冷やす"目的を完遂する魔道具が他所でいくらでも作れてしまうのだ。


 まあ要するに、この世界では通常の魔道具の模倣は非常に簡単ですよ、という話だ。



 一方で、インジケータはこれらの魔道具とは大きく事情が異なる。

 それは、ソフト面での模倣が不可能だからだ。

 魔力残量を計るという目的さえ知られてしまっているものの、実は単にそれを魔法として導入した魔道具を用意しても意味がないのである。


 理屈を言うと、また技術的な話になるが。雑に言えば、稼働中の魔道具の魔石に対して干渉するような魔道具を製作することは通常、不可能だからだ。

 今頃、世の魔道具師は僕の『魔石残量インジケータ』の仕組みを再現しようと四苦八苦していることだろう。




 ここまでで、リバースエンジニアリングが難しいと説明してきたけれど、製造現場の模倣が簡単という話もする必要があるだろう。


 まあこっちは深く話し込まなければ話は単純で。

 僕が設計した生産ラインを使えば、『魔石残量インジケータ』の生産はとっても簡単なのである。

 それこそ、"魔道技師"のジョブすら持っていなかった僕でも生産が可能なくらいだ。


 つまりは、それだけ僕がスゴイという話である。


 しかしそれは、残念ながら裏切者が現れて、重要な情報をかすめ取っていけば、他所でいくらでも生産可能になってしまうということでもあるのだ。



 自画自賛もいい加減にして、人材投資の話に戻ろう。

 

 ここまでの話をまとめると。

 事業を独占的に続けたいのなら、産業スパイはもちろんのこと、持ち逃げされる危険のある引き抜きが怖いということになる。


 それを考慮すると。


 残念ながら、すでに技能を持っている人材をとってくる、というのはリスクが大きいだろう。

 今後やりたいことを実現するためにはこれが一番ベストなのだけれど、仕方ない。

 誰かの息がかかっていないとも限らないからだ。


 長期雇用を視野に入れた人材育成も同じだ。

 終身雇用が根付いた前世の企業が、転職で痛い目を見ていたのを反面教師とすべきだろう。

 性善説など掃いて捨てるべきもの。恩を仇で返す奴はどこにでもいるのである。



 そうして最終的に、奴隷の導入が消去法的にいいということになる。

 というか、だいたいの業種はこれに行きつくんじゃないだろうか。


 奴隷導入のデメリットは、初期投資が高くつくことと、やる気が低いこと、長期的に面倒を見るお金が必要なことくらいだ。

 初期投資の資金はすでにそこそこ溜まったし。やる気の方は、これくらいは経営方面でなんとかできるだろう。

 それに、いらなくなったら人体実験で使えばいいし(ボソッ)



 まあ、どうするにしたって、僕らはとりあえず目の前のノルマを達成しなければいけないんだけれども。



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