第13話 アウトドアと家でぬくぬくを天秤にかけて


 実は亜人種だったメイルダの特訓で、魔法のような何かを身に着けた僕だが、別にそれで他の魔法が手に入ったりはしなかった。

 この原始魔法の技術から魔法は派生していったらしいのだけど、どうにも何か他のことができるようになる気はしない。これが数千年の技術の重みというやつだろうか。


 まあでも、体感として魔法を使っているように感じるか感じないかで言うと、使っていると感じる方だ。

 見えない何かではあるが、検知可能な物体を僕の腕から自由に伸ばせるのだ。魔法と言えよう。

 はたから見れば虚空を見上げて喜んでる危ない人だが、魔力が様々に形を変えれるのは面白い。


 あ、ちなみにだけど、眼に見えないのになぜだか形も感知することができる。

 視界にダブって見えるという感じではなく、なんとなくそうある感じがするのだ。目には依存しないので、たとえ後ろにあっても感じ取ることができる。


 なんだかここまで聞くと、有用な技術のような気がしてしまうけれど。攻撃の察知という意味での魔力の探知であれば、もっと有用なスキルがあるらしい。

 でも、特にスキルに頼らなくても身につくのはいいことだ! と、僕個人としては思っている。


 ◇


 そうして僕が、地道に原始魔法を練習している最中だった。


「ロディ!! 【魔法防護】なんてステキな戦闘スキルを手に入れたって聞いたわよ!!」

「うわっ!!」


 ドバタンッと、僕の部屋の扉をダイナミイックにローリングソバットで蹴破って入ってきたのは、目が覚めるような金髪が特徴的な少女、僕の姉さんだった。腹違いの方で、ヘイロー家全体では次女にあたる。


「てか、えぇ……。なんでそこまで洩れてるの……」

「秘密よ!!」


 イリーゼ・ヘイローというのが彼女の名前で、ヘイロー家でも生粋のアウトドア派だ。

 当然、インドア派で陰気な僕と彼女との相性は悪く、僕のスキルの情報は彼女には伝わってほしくなかった。

 有酸素運動付きの外歩きに連れていかれること間違いなしだからだ。



 前に手に入れたスキルは【速読術】に【記憶整理術】と、どう考えても戦闘に役立たないスキルだったため、さすがにイリーゼも遠慮したらしい。

 しかし今回の【魔法防護】は戦闘用のスキルということで、文字通りきたようだ。


 【魔法防護】のことは、まだメイルダにしか話していないし、彼女が洩らすとも思えない。

 となると、どこから洩れたのかという疑問は残る。


 それにしても、戦闘用スキル?

 【魔法防護】って言うほど戦闘用か?


 ◇


 ただまあ、イリーゼについていくのには、何のメリットもない訳ではない。

 イリーゼの場合、外歩きといっても、散歩とかショッピングとかをするわけではないのだ。


 何をするのかと言えば、狩りである。


 異世界らしくこの世界には、魔物とかモンスターとか言われる、狂暴で人類種と分かり合えそうにない生物が存在している。


 細かく言えば。

 定義として、魔物は魔法生物のことで、魔法の力により通常の動物から明らかに逸脱した強力な生物全般のことを指している。

 一方、分かり合えないのがモンスターだが、たとえ魔物と分かり合って住み分けができたとしても、彼らも飢えてくれば田畑を荒らす潜在的な敵なので、結局そんなに区別はされてない。


 そんな魔物ひしめく森を開拓して生活圏としているこの世界の人類は、結果として己が種族の存亡をかけて魔物と対峙している。

 という事情で、戦う力を持つ者には、プロのハンターではなくとも、スポーツ感覚や小遣い感覚で森から町へと攻め入ろうとする魔物たちの狩猟が奨励されているのだ。


 将来作られるだろう動物保護団体とかには卒倒されそうな行いだが、そうしなければ現行人類は生きていけないので仕方ない。

 まあせめて、絶滅するであろう生物種の研究とか再生のための資材は、僕が早めに確保して保存しておいてあげるとしよう。



 さて、狩りに出向くのが趣味ということで、イリーゼは我が姉ながら強い。

 それはステータス的な意味でも、彼女自身の才能という意味でもそうだ。


 前に、レベルアップの経験値を獲得する方法について、魔物を倒すことでも獲得できるという話をしていた。

 思い出す度、戦闘職有利な世界だなぁと感じるものだが、その通りに戦闘職を持つ者となると、どうなるか。



 イリーゼのもっているジョブには、少なくとも"魔剣士"と"闘士"というのがあることを、僕は知っている。

 どちらもまぎれもなく戦闘職だ。

 この二つのジョブの経験値獲得条件は、基本全てのジョブに共通する『魔物を倒すこと』に加えて、それぞれ『魔法を纏った剣を振るうこと』と、『戦闘を行うこと』となっている。


 ここで僕はこう思うのだ。

 ……狩りでの戦闘とかみ合いすぎだろ、と。


 戦闘職は魔物を狩猟をするだけで、二重に経験値を獲得できてしまう。すると、戦闘職は戦闘で得られる経験値が単純に2倍だ。

 まだ今世の序盤も序盤なのに、職種間バランスの改善を願いたいほどである。


 だいたい元の世界では、ハンティングなんて黒歴史の一つになっているものだった。

 仮にも神を名乗ってるくせに、この世界の神々は、そんなに狩猟を奨励して大丈夫なんだろうか。



 そんな神々の御加護を頂戴している狩りを趣味にしていて、さらに貰うべくして貰ったようなジョブをひっさげた姉だが。さらに加えて、素人目に見ても才能がある。


 一度人生を経験した僕としては、一番の才能とは努力を継続できること、と言いたいところだけれど。努力する才能があるにしても、元来の才能は持っているに越したことはない。


 その点、イリーゼは恵まれている。

 まだ十歳にもなっていないだろうに、毎日のように魔物と戦闘して生き残る才能も持っているし。それを繰り返すことに、何の飽きも疲れも感じない性格。

 どれを切り取っても才能があると、言えるだろう。


 そういう訳で、僕が転生者として物心ついたころには森に通っていたイリーゼは、もうすでに相当な実力者なのである。


 ◇


 随分と話がそれたけれど、そんなイリーゼと一緒に森に行くことのメリットの話に戻ろう。


 それはズバリ、安全にレベリングできるということである。

 まあ早い話、寄生だ。

 ジョブをもらえる前はただひたすらに危ないだけだったが、今なら一応はレベルを上げるのに役に立つのだ。


 ここまで考えて、僕の気持ちは行く方に1%くらい傾いていた。

 残り99%は、行きたくないだ。



「どうやって僕の新しいスキルを知ったのかは聞かないでおくけど、今回は行かなくていいや。僕の"読書家"は、家でもレベル上げできるし」

「でもロディ、聞いたわよ。魔法を習得したいんですってね! それなら、なおのことハンティングはオススメだわ」


 キラッキラとした笑顔。

 断られるとは微塵も思っていない顔だ。……これまで何十回と断ってきたけど。


「魔法を使う職業でも、賢者とかは、別に魔物狩りはしてないでしょ。研究が本分だし」

「ひとっとびに賢者のジョブを授かれるわけないでしょう? 最初はみんな、普通に戦闘用の魔法から学んでいくんだから」


 適当に返事をしたら、返しようのない正論パンチを食らった。


 まさしく、新しいジョブが欲しいと思った時、やるべき行動は魔物狩りだと言われている。

 この世界の神を名乗る何某は、何度か言ったけれど狩猟を推奨している。それゆえ、習得条件みたいなものも、狩猟によって満たされるものが多いとされているのだ。



 だとしても僕は普通じゃない未知を行く。それがマッドサイエンティストたる者だから。

 と、カッコよくごちりたいところだけれど。


 最初に習得する魔法を、人や物に向けるわけにはいかないのもそれはそうだ。

 魔法は、前世で扱ったどの身体能力よりも大きい危険を秘めている。威力を間違えて、何か吹っ飛ばしてしまったらシャレにならないのだ。

 加えて僕は、その魔法のため、是が非にも新しいジョブが欲しい。そうなると、ジョブを習得する効率を考えたら、どう考えても狩りに出た方がいいだろうし。



 それらのメリットと、家の中でのぬくぬく読書レベリングを天秤にかけて。

 僕はしぶしぶ、イリーゼについていくことにした。


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