第11話 新スキルのコレジャナイ感


 レベリングのおかげで僕の"読書家"のレベルはさらにあがって、Lv10に到達した。


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ロディオ・ヘイロー

ジョブ 読書家:Lv10

スキル 読書家:

     ┣【速読術】

     ┣【記憶整理術】

     ┗【魔法防護】

系統外スキル ―

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 ステータスの表記方法が変わっていることに、気が付かない人はさすがにいないだろう。


 これは一部だけを切り取って見せる方法の応用みたいなもので、表記される情報の取捨選択ができるのだ。

 誤解のないように言っておくと、これは特別な行為とかそういうものではない。


 なにしろ生年月日や登録番号なんて、アカウント登録するサイトも口座もない今のこの文明では使う機会はない。晒しているだけ損になるので、これくらいに省略するのが普通らしい。



 ……うん。

 まあわかってる。


 とりあえず、スキルが増えたことを喜ぼうか。

 レベル10になるまで、一つもスキルが増えなくて、変化のなさに飽きていたところだ。



 …………コレジャナイ。


「今はそれじゃないんだよォォ!!」


 【魔法防護】。

 その能力は、魔法の効果を受けにくくなること。

 それだけだ。シールドとか張れるわけではない。



「いや、確かにマッドサイエンティストが生まれるのに欠けているのは防御の方だって言ったよ?! でも、魔法使いたいだろ?? せめて防護魔法だったらよかったんだよ。なんだよ魔法から守りますって、応用範囲狭すぎかよ!」


 【魔法防護】というのは、いわゆるパッシブスキル系のスキルだった。

 なので、おそらく今回のこれも"読書家"を外すと発動が無効になってしまうスキルなのだろう。

 その中でも防御系というのが、「ほら、欲しかった防御系の技術だぞ? よろこべよ」とでも言われている気までしてくる。


 まあ確かに将来的には欲しいスキルかもしれない。けれどそれは、あくまで将来の話。まだマッドにもサイエンティストにもなってない僕には無用の長物だ。

 しかも、将来的に"読書家"を外すかもしれないことを考えれば、なおさら今はいらないスキルとなってしまう。


 本当に、どうしてこうなったんだ……。



 バタンと音を立てて、僕の部屋に入ってくる者がいた。まあ主人の子息がなんか大声を出していたら、何事かと踏み込んでくるのも無理はない話だ。


 僕が叫んでいたのを聞きつけて、現れたのはメイルダだった。

 彼女はもう半分くらい僕の専属になってる気がする。


「……どうされましたか。お坊ちゃま」

「スキルが……」

「スキルが?」

「スキルが増えたけど、魔法じゃなかったんだよォ!」


 メイルダはそんな僕の叫びを聞いて、あきれたような顔。


「はあ……、魔法ではないスキルの方が多いかと思いますが」

「そうだけど、そうじゃないんだ……。ってかそうだったんだ知らなかった」


 思わず、"そうだ"の活用形が三つも並んでしまった。

 けれど、確率的に魔法じゃない方になりやすいとか、今はそんな話じゃない。



「【魔法防護】のスキルですか」


 僕がステータスからそのスキルを見せると、メイルダは一瞬顔をしかめた。

 あけすけにステータスを見せられることに抵抗があるのかもしれない。


「よいスキルではないですか。基礎的な能力が向上するスキルは貴重ですし、強力ですよ」

「でも魔法が使えるようになるわけじゃないよね。今の僕に必要なのは、できることを増やせるスキルなんだ」


 ステータス底上げ系って最終的に強くても、ゲームのメインストーリー攻略中に取ってもあんまり楽しくないよね。

 しかも防御力アップって地味もいいところだよね。せめて攻撃力アップなら火力が出せて面白いとかあるのにね。


 ていうか、【魔法防護】ってなんだよ。

 ギリギリで外しすぎでしょ。

 なんでちょっと魔法にカスってるんだ。



「まあ、でも魔法を使えたところで、坊ちゃまもお持ちの普通のスキルとそんな変わらないですよ」

「そんなの使える側の意見なんだよ! あ゙ぁもう、僕は魔法が使ってみたいだけなんだよォォ!!」

「それは、さきほどの坊ちゃまの叫びでも聞きました」


 僕が「ボク、マホウ、ツカイタイ」と、ブルブルしながらヘドバンしている間も、メイルダの声は平坦だった。

 あれ、というかさっきの僕の叫び声を聞いていたって、メイルダはどこから聞いていたんだ?

 まさか、マッドサイエンティストの下りまで聞かれてないよな。



「まあいいや、次に期待しよう」

「急に冷静になりますね」


 そうだ。今回は僕の思い通りにならなかったけど、別にこれが今際の際というわけじゃない。

 Lv10の時点で3つ目となると、最初から持ってるのが一つ、Lv5でもう一つといったところだったのではないだろうか。

 そこから、レベルが5つあがるごとにスキルがもらえると考えると。


「次のスキルって、今までの傾向からすると、レベル15とかかな」

「あの……、ロディオ坊ちゃま。申し上げにくいことですが、3本目のスキルツリーがでた今。"読書家"で魔法関連のスキルは難しいかと」

「えっ」

「通常、一つのジョブで授かれるスキルツリーは3つほど。あとはすでにあるスキルの派生となります」

「そ、そんな……」


 スキルツリーというのは、察するにステータスで"読書家"から伸びているスキルの線のことにちがいない。

 何気なしにスキルツリー方式に表示を変更したが、結構大事な表記方法だったのかも。


 しかし、メイルダが言うには、いくつかのスキルがジョブから生えると、それ以降は派生的なスキルしか出ないということらしい。

 僕の持っているスキルを例にすると。

 【速読術】から、より早く読めるような新しい速読術が得られたりしても。【速読術】、【記憶整理術】、【魔法防護】の三つから大きく外れたようなスキルは、"読書家"ではもう手に入らないということだ。


「もちろん、いくらスキルが派生だけになってしまうといっても、坊ちゃまが新しいジョブをご取得になれば何の問題もありませんよ」

「でも、それっていつになるのかもわからないでしょ……」


 伺神祭で祝福をもらっている子供はそう多くなかった。

 それを考えると、ジョブは流石にそんなポンポンと貰えるものじゃないと思う。


 加えて言うと、もし仮にジョブをもらえたとして、今度は魔法をもらえるとも限らない。


 魔力を使うスキルを手に入れたのに、一向に魔力なるものの実感を得られる気配はないのだ。

 僕には才能がないのかもしれない。才能がなければ贈られるジョブもないだろう。

 やっぱり普段から科学者とか言っているから、魔術とは相性が悪くなってしまったのだろうか。



 そんなネガティブになっている僕に。


「はあ、期待させてしまったのもわたくしですし、仕方ないですね」


 と、メイルダはため息をつきながら言った。

 そして、覚悟を決めたように僕に向き直る。


「……いいでしょう。ただし、いまから教えることは秘密ですよ」


 秘密を守れますか?とメイルダは念を押す。

 僕はさっきのヘドバン以上の速度で首を縦に振った。



 これはつまり、メイドさんとの秘密のレッスン……。

 何だかいい響きだ。


 マッドサイエンティストに秘密はつきもの。垂涎ものだ。

 期待を胸に、僕は口の中にたまったツバを飲み込んだ。



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