Trip From the Bookstore 〜赤ずきん〜
魁羅
第1話 本の中に
凍える寒さの冬が明け、菜の花が咲き出した春頃、俺、本田大助はやることが無い。最近のゲームには飽き、買ってある漫画は全て読んでしまった。
『外出すれば』と親からも言われるけど、正直出かけたくない。理由は単純である。近所に遊ぶ場所がないからだ。俺が住んでいるここは、『ド』が10個付くほど田舎なので、ゲーセンやカラオケ、ボーリングなどは全くない。
そういった場所は、地元の駅から7駅離れているから、交通費や時間がかかる。だから、できるだけ外出は控えたい。
駅で思い出した。あそこの近くに古本屋があった。今の時間は、午前10時12分。この時間帯だと、どこも開店しているはずだ。せっかく思い出したのだ。俺は今から古本屋に行くことにした。
自分の自転車を用意し、リュックを背負い、古本屋に出発した。周囲は畑だらけなので、農道がいくつもある。
自転車だと駅まで大体10分弱という距離。出てから約4分くらい経ったから、もうすぐ着くだろう。大通りに出て、車の数が一気に増えた。騒がしい音と共に自転車を漕いでいく。すると、坂道に入り、スピードが落ちる。亀のようにゆっくり進んでいき、下り坂に来た。そして、坂を下った。下っている途中に駅が見え、やっと着いたと感じた。スピードも落ち着いてきて、駅に到着した。
北の方に道路がある。そっちに向かうと十字路に出る。その左側に本条書店と看板があり、店の入口に自転車を止める。
店の見た目は、錆が所々あり、色が朽ちている。中に入ると思いの外、本はあった。人気はなく、国道沿いから離れているため、とても静かだ。いろんな本棚を見ても、知らない本が多い。しかし、しばらく経つと、見たことある漫画があった。
『青い猫』や『頭のない騎士』など名作中の名作が置いてあった。つい手に取ってしまい、立ち読みをしてしまった。夢中になって読んでいて、「あっ」と意識が戻ったかのように読むのを止め、元の位置に本を戻す。
その隣を見ると、グリム童話があった。知らない話もあったが、『シンデレラ』や『ヘンゼルとグレーテル』、『ブレーメンの音楽隊』など知っている作品もある。
この中で目に止まったのが『赤ずきん』である。昔、お婆ちゃんがよく読み聞かせていた思い出がある。そのせいだろう。久々に(読んでみるか)と思い、読み始める。
最後のページを読み終わったら、何やら栞?が挟んである。不思議な柄で裏に『赤ずきん』と書いてある。独り言で「赤ずきん?」と言ってしまった。すると、その栞が突然明るく光り出して、持っていた『赤ずきん』の本も光り出した。
「え!?なっ何!?何で光ってるの!?」
こんなのビックリしないわけがない。突然の出来事に慌てる俺。周りを見ても誰もいない。
「だっ、誰かいませんか!」
大きな声を出しても返事はない。アタフタしていると、突然頭痛がしてきた。
「いたっ。もっ、もう何なんだよ。」
そこで俺の意識が飛んだ。
小鳥の声が聞こえてくる。(天国か?)そう思った瞬間、ハッと目が覚めた。気が付くと、俺は何処かの森に寝っ転がっていた。
「ここは、何処だ?さっきまで古本屋にいたはず。」
あの後の記憶が全くない。どういうことだ?とりあえず、立ち上がった。周りは勿論、木。家なんて無い。
「ハハッ。笑えねぇ。ほんとに、どうすりゃいいんだ。」
視界を足元の方に向けると、自分のカバンがある。
「もしかたら、スマホが入ってるかも。」
漁ると、スマホ、飲み物のジュース、財布があった。とりあえず、スマホのホーム画面を開く。すると、圏外。
(どういうことだ?ここは日本じゃないということ、か。まじで、どういうこと?あーもう、考えるのは後だ。とりあえず、歩こう。)
そんなに時間が経たずに森から出れた。すぐ近くに家が建っている。造りはレンガで、煙突が付いている。洋風っぽい家だった。本当は、やっちゃいけないけど、窓からコッソリと中を覗く。誰もいない。というか、瓦礫だらけ。もはや、住める状態ではなかった。
首を右、左と振って、周囲を確認する。
「よし、誰もいないな。では、お邪魔しまーす。」
ドアがギーッと高い音をだし、ほんのちょっぴりビビる。ゆっくり歩いていき、棚の方に向かった。本があったからだ。手に取ると、表紙は文字が掠れすぎていたり、中は破れていたりと、まともに読めたもんじゃない。読むのを諦め、離れようとしたとき、1枚の紙切れが目に写った。この紙は、何故か状態が良く、しかも日本語で書いてあった。
『脱出する鍵は、物語。貴方は主人公。』ん?訳が分からん。まぁ、後は何も無さそうなので、外に出た。
よく見ると、丘っぽくなっている所があり、一度そこに向かう。すると、ちょっと離れた場所にもう一軒家がある。(何か情報が掴めるかも)と思い、すぐに向かう。歩いていると、奥の広い道から、人が歩いている。
(赤い帽子?いや違う。あれは頭巾。赤い頭巾、物語。そうか!ここは、赤ずきんの世界か。)
その人物を見て確信した。俺は赤ずきんの世界にいる。どおりでスマホが使えない訳だ。それって結構まずくないか。一旦、冷静に考えるとあの紙には、『物語が鍵』だと書いてあった。つまり、赤ずきんの物語に干渉すれば、脱出する手がかりが掴めると考察する。となれば、早速、赤ずきんに話しかけよう。
丘を下り、俺も広い道に出る。(これで会える。)そう思ったとき、赤ずきんは近くの家に入っていた。俺は急いでその家に向かった。家に着いたはいいけど、どう関わるかが分からない。勿論、赤ずきんは俺の事なんて知らないから、友達というか設定は使えない。
「どうすれば…。あっ!そうだ。いい事思いついたぜ!」
作戦はこうだ。
1 自分は旅人で空腹の状態という設定
2 食事をさせて欲しいと頼む
3 空腹なので倒れる
上手くいく保証はないが、やってみるしかない。ドアの前に立ち、ノックをする。トントントン。俺はその瞬間倒れ、来るのを待つ。すると、ドアが開いた。
「はーい。どちら様ですか。」
可愛らしい声が聞こえてきた。それと同時に反応する。
「あのー、大丈夫ですか?」
「突然すまない。俺は旅人で、数日何も食べてなくて。食事をさせてほしい。ゴホッ、ゴホッ。」
「はい。ちょっと待っててください。」
そう言って、一度中に戻った。正直めっちゃ緊張した。こんなこと一回もやったことないから、尚更だ。1分もしないうちに、戻って来た。
「はい、お母様が許可したので、中に入っても大丈夫だよ。」
「本当にすまない。では、お邪魔します。」
何とか会え、何とか話せた。第1関門クリア。かなりホッとする。こんなに上手くいくとは思わなかったからだ。
テーブルの前に案内されて、椅子に座る。
「ちょっと待っててくださいね。」
そう言って、また姿を消した。しばらく経つと、パンとサラダ、コーンスープみたいなのが食卓に並んだ。
「本当にありがとう。では、いただきます。」
挨拶を言った後、大人の女性が姿を現した。
「貴方が、旅人さんですか?」
「はい。旅人の本田です。」
「ホンダさんですね。私はあの子の母です。なぜ、空腹なのか聞いてよろしいですか?」
(そこまで考えてなかった!)
「えっと、食料が尽きてしまったのです。それで、ここ2日は水だけで何とかなりましたが、流石に限界でした。本当に食事をさせて下さって有り難う御座います。」
「いえ、お気になさらず。あのー、1つお願いを聞いてもよろしいですか?」
「はい。何でしょうか?」
「お婆ちゃんの家までついて行って欲しいです。これから、家に向かう所で、あの娘、道に迷いやすいので、お願いしたいです。」
この展開は、俺も望んでいる通りなので、勿論答えは決まっている。
「はい、お任せ下さい。」
そう言って、赤ずきんの付き添いをすることになった。すぐに食事を済ませて、行く準備をする。
「お母様、あたし行ってくるね。」
「はい、気をつけてね。では、よろしくお願いします。」
赤ずきんのお母さんにお辞儀をされ、こちらもお辞儀をした。
お母さんの情報によると、家は真っ直ぐ進み、右に曲がるとあるらしい。そんなに難しくなくて、ホッとする自分がいる。しかし、これからこの娘は狼に食べられると思うと、胸が痛くなる。なぜなら、この世界では赤ずきんは生きている。これから起こる事をよく考えたら恐ろしい。
あまり明るい顔をしなかったのか、赤ずきんちゃんが気にして声をかけてくれた。
「旅人さん、大丈夫?元気なさそうだよ?」
「心配してくれてありがとう。ちょっと眠いだけだよ。」
「ちゃーんと寝ないとママに怒られるよ?」
正論すぎる。子供の純粋な答えって結構説得力あるんだなと感じた。
「そうだね、俺が悪いね。ママに怒られないように今日から寝るね。」
赤ずきんちゃんと色々話をしていると、ここが本の世界だと忘れかける。話していると楽しいし、赤ずきんちゃんは可愛いし。しかし、忘れてはいけない、これからこの娘は食われる。でも、それをしたくない自分がいる。どうすれば回避できる?思いつかないまま、家に着く。
赤ずきんちゃんが、ドアに手を触ろうとしたとき、自然と赤ずきんちゃんの手首を握り、動きを止めた。勿論、優しく。
「なんで手首を握るの?」
「えーっと、それは。じっ、実はお婆ちゃん今出掛けているんだよ。」
咄嗟に出た嘘で、赤ずきんちゃんの質問を返す。
「それって、ほんと?」
「本当だよ。ママが言ってたよ。」
「そうなの?ママが言ってたなら、ほんとだね。」
この発言を(赤ずきんちゃんのお母さんのせいにして、すみません)っと心の中で謝っている。
「お婆ちゃんが帰ってくるまで待とうね。」
元気よく「うん!!」と返事をした。
時間はできたが、どうすればいい。何も思いつかない。赤ずきんで登場する人物を最初から思い出す。
『お母さん』『赤ずきん』『狼』『お婆ちゃん』『狩人』。
ぽんっと手を叩いた。ここの場面を突破する方法を思いついたのだ。
作戦はこうだ。
1 狩人が来るので、一度話しかけ、武器を取る
2 武器をない状態にして、赤ずきんちゃんの代わりに食べられる
3 食べられた狩人を助ける
大体こんな感じだ。作戦がある程度整理できたタイミングで、狩人らしき人物が来た。
「ちょっと、そこのおじさん。止まってください。」
俺の行動に疑問を感じている赤ずきんちゃんは、座って、じ~っと見ている。
「何だよ、少年。何か用か?」
「おじさんの武器がカッコいいから、ちょっと見せて欲しいなぁっと。」
「いいぜ。ほら。」
「結構重いですね。あっそうだ、おじさん。実はお父さんと喧嘩して、その仲介役をやって欲しいんだ。いいかな?」
「なるほど、わかった。じゃあ、中に入らせてもらうか。」
よしっ。上手くいった。武器も「返せ」って言われず、そのまま中に入るなんて、ラッキー。
赤ずきんちゃんには小声で
「家を守ってくれるって。」
「ほんと?お婆ちゃんも安心できるかな?」
「大丈夫。あの人強いって。心配はないよ。あっ。でも、ちょっとここで待てる?」
「うん!!」
よし。赤ずきんちゃんは中に入らず、狩人が死ぬルートになった。
そうして中に入る。狩人が先に入ったおかげで、ますます狼に食われやすくなった。そのまま奥の部屋に行き、寝室らしい部屋に来た。
「ここか。よし、入るぞ。」
「わかった。」
狩人が扉を開けて奥に入ったが、俺はすぐに閉め、開かないように手前に重い物をどんどん置いた。幸い、こちらの扉は引いて開くタイプだったので、重い物があると、簡単に閉じ込めることができた。
この行動に狩人は困惑し、中から「ギャーーー」と悲鳴が聞こえた。
俺は一旦外に出て、1時間くらい、赤ずきんちゃんとお婆ちゃんが帰って来るのを待った。
(ごめんよ、赤ずきんちゃん。お婆ちゃんは、狼に食われているんだよ。)
俺はもう一度中に戻り、荷物をどかし、狼の様子を見る。狼はぐっすり寝ている。いびきまでかいている。後は、物語通り、狼の腹を切ってお婆ちゃん達を助け、石を詰めるだけ。台所から包丁、寝室にあった裁縫道具で、その通りにする。
一度外に出て、赤ずきんちゃんに「石を拾ってきて欲しい」と頼んだ。
「わかった!けど、なんで拾うの?」
「それはね、遊びで使うんだよ。」
「遊び?わかった!拾ってくる!!」
そう言って川沿いの石を拾い始めた。正直、騙したくはないが、赤ずきんちゃんを物語に多少干渉させないと、俺が出れなくなる可能性もある。一人でやるのはリスクがある。だから、騙してでも関わらせるのだ。
寝室に行き、早速、腹を切る。グロいがやるしかない。狼はぐっすり寝ているからか、起きもしない。これなら安心して切れる。
バスケットボールが10個くらい入りそうな膨らんだ腹から、お婆ちゃんと狩人が出てきた。2人とも引っ張り出し、無事に助けた。外に引きずり、赤ずきんちゃんの方に行く。
「石結構取れた?」
「うん!見て!!」
すると、山のように積まれた石があった。これなら川に沈むと思い、この石を家に全て持ち込んだ。狼と分からないように、布地で顔を覆い、赤ずきんちゃんを連れてくる。
「この中に石を入れて欲しいんだ。」
「これ何?」
「これは、大きい布で、これで重い荷物を持った旅人ごっこをするんだ。今、人気の遊びなんだ。」
ここまで色々騙してきたけど、流石に下手になってきてる気がする。ばれるか?
「そうなんだ。じゃあ、あたしもやる。」
そう言って、次々に石を入れ、腹を縫っていく。縫い終わり、外に戻る。
「あっ。そろそろお婆ちゃん戻って来てるかも。見に行こう?」
「わかった!!」
裏の方に座らせて置いてある。そこで眠っているかのように。
後ろの方から、ドアが開く音がした。すぐに、赤ずきんちゃんを家の裏に移動させ、赤ずきんちゃんには悪いけど、少し待っててもらい、俺は様子を見に行った。
「あー、何か腹の中がゴロゴロするし、切られている痕もあるし、誰だよ、まったく。喉乾いたし、水でも飲むか。」
本当に水を飲みだした。よし、後はこのまま溺れるだけだ。
狼が川に近づき、水を飲もうとしたとき、腹の中が重いので、そのまま川の中に。
「だっ、誰か!!たすっ、けて。」
勿論、助ける訳もなく、そのまま死んだ。死んだ事を確認し、家の裏に戻る。すると、お婆ちゃん、狩人が、目が覚めていた。
「うー、俺は食われたはず…」
「私も、狼に食べられてしまったのに、」
目覚めた、2人。赤ずきんちゃんが側に駆け寄る。
「お婆ちゃん、大丈夫?お買い物に行ってたんじゃないの?」
「え〜、あっ、そうなの。ちょっと疲れてて、寝てただけだよ。」
「そんな所で、寝てちゃだめだよ。」
「そうだね、ごめんね。それで、この男の人は。」
お婆ちゃんが、指を指したのは、狩人の方だった。俺がこの場の説明をした。
「あっ。すみません。この人は、狩人さんであなたを助けてくれた人です。」
ここでも嘘をつく。俺がやったことを狩人にすれば『赤ずきん』という物語からは外れない。だから、狩人には色々悪いけど、擦り付けさせてもらう。
「あら、そうなの。助けてくれてありがとうございます。狩人さん。」
「あれ、そうだっけ?食われた、助けた…そうだ、思い出した、俺はあなたを助けました。これくらい、お安い御用です。」
赤ずきんちゃんは、話に追いついていない様子。きっと、頭の中に『?』と浮かんでいるのだろう。
俺は、あの人たちが会話しているうちに、そっとそばを離れた。
家を離れたが、何も起きない。物語は終わった。どういうことだ?(まだ続くのか)と思ったが、神殿みたいなのが、見えた。そこに引きつけられるように、自然と進んだ。中に入ると、ボロボロで、奥の方に1冊の本が置いてあるのが見えた。
ページを捲ると、一つだけ光っているページがあった。そしたら、自分のズボンのポケットも光だした。手を突っ込むと、あの時の、栞があり、それが光っている。自然とそのページに栞を近づけた。その時、頭痛がしてきて、意識が飛んだ。
気がつくと、あの古本屋にいた。外を見たが、夕方には、なっていない。時間も進んでいなかった。俺は、この不思議な出来事を一生忘れないと思う。
色々疲れたので、本屋を出て、自転車に乗った。
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