妖怪本屋

ポンポン帝国

妖怪本屋

 夏の蒸し暑い夕暮れ時、人通りの少ない裏道をボクは慌てて走っていた。そして走った曲がり角の先、そこには一軒の古びた本屋さんがあった。


「ここは?」


 考えている間にも後ろから声が迫ってくる。


「くそっ。とりあえずここに逃げ込もう」


 古びたドアを開けて中に入ると、昭和に戻ったような古めかしい店内。鼻に古い本とカビ臭い匂いが入り込んできた。


「す、すみませ~ん」


 誰もいない店内。とりあえずレジの前で声を掛けてみるが一向に反応は返ってこなかった。


「うーん、あいつらがどこかに行くまでここで隠れさせてもらうか」


 せっかくなので本を物色させてもらおうと思い、ゆっくりと店内を歩き始める。


 すると、珍しそうな古本たちの中にタイトルが妖怪の名前しか書かれていない本が端っこの棚一つ分、並べられていたのだ。


 『口裂け女』『座敷童』『雪女』『天狗』『河童』――――。どれも日本では有名な妖怪から地方の聞いた事もないような妖怪まで様々な種類の本が置かれていた。


 興味が湧いてきたボクは、その中の適当な一冊を取り出して開こうとする。


「ヒッヒッヒ。坊っちゃん、危ないよ」


「うわっ!?」


 開きかけた本を閉じ、慌てて元の場所に戻す。そして振りかえってみると、そこには一人の老婆が立っていた。


「坊っちゃんは本日は何のようだえ?」


 ところどころ欠けた歯をこちらに見せながら嗤っている老婆。


「え、えっと。実は人に追われていて――――」


「ここにいるのか!?」


 お店の入口から、こちらに数人の男達が走ってやってきた。


「や、やばいっ」


 咄嗟に目の前の棚の本を全て相手に向かって投げた。


 すると、本の中からタイトルに書かれていた妖怪達が目の前に現れ、男達に襲い掛かっていった。


 慌てて逃げ出す男達。すると妖怪達はこちらを振り向いた。


「だから危ないって言ったじゃろ。ヒッヒッヒッ」


 ボクは二度と誰にも見つかる事はなくなったのだった。

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