深夜の本屋 ~本の主人公たちのマウンティング~
タカナシ
第1話
ここは深夜の大型書店。
2階のマンガコーナーも今は昼間の混雑も無くなり、誰もいない売り場は気持ち悪いほど静まり返っていた。
非常灯のわずかな明かりだけが、うっすらとマンガの背表紙を映し出す。
そんな中、人間には聞こえない声で、
「よっしゃー! 夜が、キタァァァッ!!」
声優が喋るようなハッキリとした声。
それと共に半透明の人物たちが書店に溢れる。
彼らは一様にその目に信念の輝きを灯し、特徴的な見た目をしている。
あるものは帽子を常にかぶり、またある者は警察の姿。比率として学生服姿の男女がやたら多いがそれは彼らの特性上仕方ないことだった。
「うっし! 今日もオレは平台だな」
帽子を被った青年はそれだけ確認すると、書店内を自由に動き回り、名セリフを所かまわず述べる。
「いやぁ、流石、一億部越えはすごいなぁ」
そんな声がどこからか漏れる。
そう、彼らはマンガ本が具現化した姿。その姿はほとんどがそのマンガの主人公たちだ。
そして、売り上げや人気がここでの立場に直結する。そんな書店内では帽子の彼のような最強や警察のあの人のようなレジェンド以外、当然マウントの取り合いが発生して……。
※
「あれれ~、オカシイなぁ? キミ、新刊のはずなのに、新刊コーナーにいないんじゃあないのかい?」
最近隆盛している異世界ファンタジーのマンガの具現化でもあるガイコツが、学生服を着こみ眼帯をしている人間を嘲笑う。
「…………一応、居る」
いまにも消え入りそうな声で、眼帯はなんとかそれだけ口にする。
「んん~、どこかなぁ? あぁ、これか、新刊の棚に押し込められていたのか、僕気づかなかったなぁ。ほら、やっぱり新刊は平台に居ないとねぇ。僕みたいに」
ガイコツが表紙のマンガは平台の中央に位置していた。
この位置取りは、書店員からすると、そこそこに注目商品だ。
反対に棚に押し込められていた眼帯は、そこまで注目されておらず、書店員が売れるとも思っていない位置取りだ。
このことからも差は歴然。しかもガイコツはすでにアニメにもなっている。
現代ファンタジーにマウントを取る事など簡単だったろう。
「ふはははっ! これこそが異世界ファンタジーの力よっ!! 所詮、現代ファンタジーなど足元にも及ばぬわっ!!」
「ああ、そうだな。思えば、昔は勝ったり負けたりで、どっちが平台の右下に行くかで争っていたよな。お互い切磋琢磨して磨き合った。お前は口は悪いけど、お前がいたから頑張れた。だから、俺も全力で勝ったときにいは喜んだし、お前を罵った」
「ん? どうした眼帯? いつもみたいな悔しさで顔を歪ませるか、言い合って怒声をあげるかしてこんのか?」
いつになく、神妙な眼帯の様子にガイコツは面喰らう。
「お前だって、なんとなく察しはついてるんだろ。同じ週刊誌だしな。俺、打ち切りだってよ。20巻続いた結末がそれっていうのも悲しいけど、これが現実なんだ……」
「おいおい、バカ言うなよ! まだ決定じゃ――」
眼帯は静かに首を横に振る。
作者にはかなり早い段階から打ち切りの連絡が来る。そして、それが覆ることはほとんどの場合、ない。
「たぶん、数か月後には返本されるだろう」
「そ、そんな……」
どんよりとした暗い雰囲気。
私はそんな雰囲気に耐えきれず一歩前に踏み出そうとすると、
「おっと、やめとけやめとけ、そいつぁ野暮ってもんだぜ、本屋エッセイよ」
「貴方は、編集部マンガ!!」
書店員やそれに関わる編集者をエッセイにした私こと、
「俺やお前には、あいつらの行く末がある程度分かっているが、そいつぁネタバレだろ? ネタバレは――」
「万死に値する」
それは創作界隈においては絶対の摂理。
私は歯がゆい思いをしながら、現代ファンタジーの眼帯と異世界ファンタジーのガイコツの別れを眺める。
い、言ってあげたい。でなければ数か月後にお前ら憤死するぞっ! だって、眼帯、お前、ネット版の方に移籍になるだけなんだもんっ!!
深夜の本屋 ~本の主人公たちのマウンティング~ タカナシ @takanashi30
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