第29話 女子乗馬倶楽部

 今日は休日なのでアカデミーの授業はないけれど、すごくいいお天気なのでプラティナと一緒にお散歩したいわ。そうだ! ジーナもたまには一緒にどうかしら? 今まで一緒に馬に乗ったことはないけれど、テルルにお願いすればきっと彼女に合う馬を用意してくれるはず。


 さっそくジーナに伝えるとオーケーをもらえたのでテルルの元へ。馬たちを放牧しながら大きな木の下で本を読んでいる姿はもうお馴染みね。


「テルル!」

「アメリア! それに今日はジーナも一緒なのね」

「たまにはアメリアと一緒に乗馬するのもいいかと思ってね。馬を貸して頂けるかしら?」

「もちろん……みんな、おいで!」


 テルルの呼びかけてで巨大な黒いホーン種のジンクを先頭に、プラティナと残りの三頭もこちらへゆっくりと戻ってきた。


「この子がティーンで、この子がレッド、そしてこの子がイアンよ。ジーナには……そうね、レッドがいいかしら」


 テルルがポンポンとお腹を叩くとブルルルと嬉しそうにしている赤毛の馬。彼女の手入れのおかげで、プラティナもこの子も、もちろん他の子たちもすごく毛艶が良い。


「どうだわ。テルルも一緒にどうかしら? アカデミーのことも色々おしゃべりしたいし」

「アメリアはプラティナとの時間を過ごしたいんじゃないの? 私が一緒で問題ない?」

「プラティナもきっとテルルが一緒だと嬉しいと思います」

「じゃあ、みんなで行きましょうか。ちょっと待ってて、準備するから」


 テキパキと馬具を準備してプラティナとレッド、そしてジンクに取り付けるテルル。その手際の良さにジーナも感心しきりだった。直ぐに出発できる様になり、私とジーナが前を歩き後ろにはテルル。と、その後ろから残りの二頭も着いてきている。フフフ、こんな光景は以前なら絶対あり得なかったわね。テルルは隣国ストランジェの王女様だからいずれは国に帰ってしまうけれど、可能ならいつまでもこの馬たちと一緒にいて欲しい……なんて考えてしまう。


「テルルはストランジェではどんな生活を?」

「うーん、王宮にいる時はジンクたちを放牧して、私は本を読んでたかな……今と一緒よ」

「フフフ、あなたらしいわね」

「あと、一年の内何ヶ月かは遊牧に同行してたわ」


 それを聞いて私もジーナも驚いたけれど、とても彼女らしいとも思う。テルルの話を聞いていると、ここヴァネディアの王都とは違ってとてもゆっくりとした時間の中、自然に囲まれて暮らしていたのは想像に難くないわね。


「卒業後はやはりストランジェに? 王位を継ぐとか?」

「弟がいるから王位は継がないかな。馬たちに囲まれて、たまに遊牧にでかけたりしながらのんびり過ごせればいいと思ってるわよ」


 ブレないなあ、テルルは。でもそういうところが彼女の魅力でもある。いつも自然体で飾らない彼女には、私やジーナとは違ったものがあって、きっとクロムもそんな彼女に惹かれているんだと思うわ。


「クロムと婚約すると言うのはどうですか? そうすれば私と義姉妹ですよ」


 冗談半分にそんなことをいってみる。クロムからは良くテルルとの出会いとのことを聞かされていて、王位継承権宣誓の儀の際も彼女に助けられたのよね。クロムははっきりとは言わないけれど、きっとテルルのことが好きなんだと思う。


「私みたいな野生児よりも、ジーナの方が彼の婚約者に向いてるんじゃない? 公爵令嬢だし」

「!?」


 驚いてジーナの方を見ると、薄っすら笑っただけで特に驚いている様子もない。ジーナとは姉妹みたいな感覚だったけれど、公爵令嬢である彼女がクロムの婚約者と言う可能性もあるんだわ!


「うーん、ジーナとは元々姉妹の様なものだし……でも、クロムと婚約すれば本当の姉妹になれるのよね? うーん」

「何を勝手に悩んでいるの、アメリアったら。私はあなたの方が心配だわ。以前叔母様はあなたに適当な相手をあてがって傀儡にしようと企んでいたのよ。ファーラス様が王になられてそんなことはなくなったでしょうけど、あなただって王女としていずれ誰かに嫁ぐことになるんですからね。アカデミーにいる内に目ぼしい相手を見つけておきなさい」

「フフフ、姉妹と言ってもジーナはアメリアの保護者みたいね」

「そうなのよ、テルル! この子はホワっとしてるから、放っておくと危なかっしくて!」

「もう、二人とも酷いです!」


 とは言え、タイプは違うとは言えしっかりものの二人に比べて私が頼りないのは事実。私も王女としてもっとしっかりしなくちゃ!

あと

 その後もお喋りに花が咲いて、やがて話題は野外学習のことに。この話題になるとテルルのテンションが明らかに上がったのが分かった。以前家が燃えてしまった時、自分でテントを張って生活していたものね。


「あー、早く野外学習の日にならないかなあ!」

「わ、私はちょっと不安です。外で寝たことはないですし、お料理なんかも全然できませんし」

「私も同じだわ。と、言うかアカデミーに通ってる生徒で野宿したことがある人なんて、テルル以外いないんじゃない?」

「そう? 自然の中で寝るのもいいものよ。あ、そうだ。ジンクも一緒に行けるかしら? できれば連れて行って上げたいんだけどなあ」

「クラス内で班を作って、班ごとに目的地に移動するってことだったから、大丈夫じゃない? 私たちは馬車で行くと思うけど」

「ほんと? 班分けがあるんだ」

「テルルもジーナも一緒の班だと、ちょっと安心できますね」


 とは言え初めての経験。私はテルルの様にワクワクするよりも不安の方が強い。と、とにかあとく班分けが希望通りになることを望むばかりだわ。


 お喋りしている内にあっという間に城の周りの小道を一周してしまった。今まで一番短く感じた乗馬かもしれないわね。でも、すごく楽しかったわ! その後もテルルの家で紅茶を頂きながら再びお喋りに興じ、また皆で乗馬することを約束してお開きとなった。野外学習については不安だけれど、この二人とこうやって一緒に入れることにはとても幸せを感じている。本の一ヶ月ほど前までは苦しい時間を過ごしていたなんて嘘みたい……私は現状を当たり前とは思わず、感謝を忘れてはダメね。テルルやジーナを見習って私も王女として強く生きなくちゃ。

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