第23話 退屈な日々
ここ数日、王宮内が慌ただしい。明日は我が弟ファーラスの息子がここにやってくるからだ。王である私の前で宣誓することで、正式に王位継承権が認められる。私も十五歳の時、父である先王の前で宣誓したな。私とルティーシャの間には子供ができなかった。ルティーシャの希望でファーラスの娘アメリアを養子として迎えたが、アメリアはファーラスの息子と双子の兄妹。明日が久々の再会になるわけか。
実は私には隠し子がいる。ルティーシャの側仕えの令嬢に手を出したわけだが、彼女を私の側室にすることにルティーシャが猛反対した。私とその令嬢の間に男児が生まれたので、王位継承権が発生することを嫌ったのだろう。彼女とその息子は王都で暮らしているらしいが、彼女たちと会うことさえ禁止されている。私が王だと言うのに……ルティーシャには敵わないな。
ルティーシャは王宮での権力を手放したくない様だが、私は王位にそれほど執着はない。生まれた時から王となることが宿命だったので、それに向けて努力はしてきたが……なってみれば案外つまらないものだ。平和なこの世の中では争いも少ない。地方の領地が干ばつで不作だったとか、王都内では貧富の差が激しくてスラム化している居住区があるとか。それは王である私が判断をくださなくても、政を実際に動かしている大臣たちが考えて動けばいいではないか。隣国との関係も問題ないし、王と言うのはいわば国の飾り物でしかないのだ。
「あなた、お話があります」
そんなことを思いながらボーッとしていると、ルティーシャが訪ねてきた。
「何だ? 何か欲しい物でもあるのか?」
「いえ。この度王位継承の宣誓をする、王弟殿下のご子息についてです」
「クロム……だったか?」
「その際にお願いなのですが……」
ルティーシャはまたとんでもないことを言い出した。彼女は娘のアメリア、もしくはその婿となる人物に王位を継がせたいと言うのだ。ヴァネディアでは王位を継ぐのは男子と決まっているのだが……だからこそ双子の兄妹であっても、王位継承権の宣誓はファーラスの息子だけが行うのだ。
「今までに女王がこの国を治めたことはないぞ」
「あなたは王なのだから、その様な慣習をなくしてしまうことぐらい可能なのではなくて?」
「いや、私の一存でなんとかなるものでもないしな」
王が簡単に決まりを捻じ曲げてしまっては、それこそ民に示しがつかないだろう。王位にさほど興味がないとはいえ、私でもそれは分かる。そしてその様な決め事は大臣たちが決めるわけでもない。国の根幹に関わる部分は、我が国の四大名家が大昔に決めたことなのだ。だからその変更には今でも四大名家の同意が必要となる。これは恐らく、ヴァネディア家に独裁させないための仕組みだ。
「ではアメリアの兄がいなければ、アメリアの婿となる人物に王位継承権が発生するのは、よろしいのですか?」
「それはそうだろうな。王位継承権の一位は我が弟のファーラス、そしてその次がアメリアの婿となる人物と言うことになるだろう。我々が養子を迎えたり、ファーラスが養子を迎えたりすればまた別の話だが。いや、実際ファーラスには息子がいるのだから、そんな話をするだけ無駄か」
その後、暫く考えたの後にルティーシャが発した言葉には、流石に耳を疑った。しかし彼女はどうやら本気の様だ。そこまでして権力に……この王宮にい続けることに拘るのか? 王座など、座ってみれば退屈だと言うのに。
しかしまあ、私の後に王座に座る人間のことなど大して興味がないのも事実。ルティーシャがそう望むのであれば協力してやろうか。アメリアは驚くだろうが黙らせることは難しくないだろう。ああ、もう全てが面倒くさい。誰が王位継承権を持つとか持たないとか、そんな話は自分の時に経験したことだけでもう充分だ。後はルティーシャの好きにするといい……ああ、退屈だ。何かもっと、刺激的なことは起こらないものだろうか。
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