第21話 王妃の提案

「お母様! あまりにも酷いではありませんか! 家を燃やしてしまうなんて!」

「そうですわ、伯母様。流石にあれはやりすぎです」


 すごい剣幕で私の部屋に乗り込んできたアメリアとジーナ。


「一歩間違っていれば、テルルさんも馬たちも命を落としていたかもしれないのですよ!」

「ちょ、ちょっと待ちなさい、アメリア。何のことを言っているの?」

「厩舎横の家に火を放ったのはタンタールの部下でした。先日、私たちの親睦会で問題を起こした兵士です!」

「伯母様の命令か、タンタールの命令ではないのですか? 私たちは知っているのですよ、伯母様が令嬢たちに嫌がらせをするためにあの家に住まわせていたことを」

「……」


 火を放ったですって!? 火事があったことは聞きましたが、まさかその様な……タンタールには先日の親睦会以降何も指示を出していませんし、彼も処分に懲りて何もしていないはず。とにかく、これに関して私は無実です。


「コホンッ、令嬢たちを住まわせていたのは事実ですが、今回私は何も命令しておりません。きっとその犯人の個人的な恨みだったのでしょう」


 私も流石に命の危険がある様なことはしないし、アメリアの大事にしている馬を危険に晒す様なこともしない。それを話すと二人は多少納得した様だが、まだ不満そうでもある。


「燃えてしまった家は建て直してもよろしいですね、お母様。それと、もうこれ以上ちょっかいを出すのはやめてください!」

「分かりました。もう下がりなさい」

 

 二人を下がらせた後、段々腹が立ってくる。どうして私が娘や姪に文句を言われなければならないのか。二人の話では厩務員をやっている少女は厩舎横にテントを張って暮らしているとか。その雑草の様な根性はなんなのかしら!? そもそもそこまでして馬の世話をしたがる理由が分からない。家が燃えたならさっさと王宮を出ていけばいいじゃない。嫌がらせの内容はタンタールに任せていたけれど、そのどれも厩務員の少女には効果がなかった様子。配下の伯爵令嬢にアクセサリーの盗難をでっち上げさせたのも不発だった。『失敗した』とだけ言ってその娘はアカデミーへの入学も辞退してしまったし、もうわけが分からない。


 ストランジェ出身の田舎娘らしいが、まったく腹が立つ。そもそもストランジェからはフランシアの娘が来るはずだったのに、これでは何一つスッキリしない。しかし、普段は何も言わないアメリアたちにあそこまで厳しく意見されてしまっては、これ以上何かするのも……結局、その田舎娘に完敗ということだ。いや、発想を変えればいいじゃない。いつも貴族令嬢にしていた嫌がらせが通じないなら、逆のことをすればいいのよ!


 良いことを思いついてしまった。今回は負けを認めて嫌がらせを止めるにしても、負けっぱなしなのは癪だ。せめて一矢報いるぐらいのことはしておきたい。来週には王位継承権を宣言するために王弟の息子、つまり私の甥でアメリアの双子の兄がここにやってくる。これは私にとって由々しき問題。このままではいずれ王位がそちらに……私の手の届かぬところに行ってしまうのだから。王位はなんとかアメリアか、アメリアの婿となる人間に継いでもらわなければ、私が王宮にい続ける計画が崩れてしまう。こちらの件を最優先で対応しなければならないから、隣国の田舎娘に構っている暇はない。


 早速アメリアとジーナを呼び戻して、田舎娘に対する提案をする。


「その厩務員は随分と苦労をしたことでしょう。火事は私も知らなかったとは言え、私からタンタールにもっと厳しく言っておけば良かったのかもしれません」

「お母様……」

「厩務員の家はすぐに建て替えを手配すればいいですが、その少女をお茶会にでも招待してはどうですか? 前回の親睦会もダメになってしまいましたし、アカデミーの入学者にも声を掛ければ良いでしょう。私は出席できませんが、私の命で、王宮の場所や使用人たちを手配致しましょう」

「伯母様、よろしいのですか!?」

「ええ。せめて、それぐらいはさせてちょうだい」


 二人の顔が明るくなったのを見て半分はホッとし、もう半分は心の中でニヤリと笑う。王妃主催のお茶会はそうそう開かれるものではないし、開かれたらそれこそ名だたる貴族が国中から集うことになる。アカデミーに入学予定の若者が参加できることなど滅多にないのだから。そして、そんな場所に作法も何も知らない田舎娘が連れてこられたらどうなるか。二人はそのことに気が付いていない。


「私は早速テルルさんにお伝えしますね!」

「では、私はアカデミーの寮生に伝えます!」


 さっきとは真逆で、ウキウキしながら部屋を出ていった二人。そちらに構っている余裕はないけれど、結果はまた誰かに聞けばいい。田舎娘がどんな顔をしていたか、今から聞くのが楽しみだわ……これで確実に一矢報いられるはずなのだから。

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