第20話 集結

 まったく、フランシアめ。手紙一通で親をこき使いおって。しかしまあ、私もこの国を変える良いタイミングだと考えていたから今回は大目に見てやるぞ、娘よ。この国の第一王子に婚約破棄されて、隣国に嫁ぎたいと言い出した時には『どうかしてしまったのか!?』とさえ思ったが、よもやここまで考えていようとはな。お前のことがお気に入りだった先王様が亡くなられて久しいが、これでようやく安心されることだろう。


「パローニ卿。ファーラス、只今参上しました」

「おう、ファーラス。良く来てくれた」


 ファーラスは現王であるラザフォーの弟。第一位の王位継承者ではあるが、ラザフォーの……いや、王妃のルティーシャの策略で王宮を追い出され、おまけに娘まで養子に取られてしまった。フランシアの進言で我がパローニ領に身を寄せており、王弟ながら私には息子の様な存在だ。


「クロムはどうしている? 王都で元気にやっておるのか?」

「はい。下っ端の兵士として王宮で日々を過ごしている様です」

「そうか。もしかすると、もうテルルとも会っているかも知れんな」


 世間話などをしている内に、また別の来客。連れ立って現れたのはスキャディー卿とギャリアム卿だ。私を含め、この四家が揃うことは、この国ヴァネディアにとって大きな意味を持つ。


「ファーラス殿下、パローニ卿、ご無沙汰ですな」

「うむ、お主らも変わらんな。前回会ったのは確か……」

「五年ほど前、王宮で会ったのが最後かのう。できれば今回も王宮で再会したかったもんじゃが……我々を集めたと言うことは、いよいよなんじゃな?」

「そうだ。済まないがフランシアがまだ到着しておらん。もう少し待ってやってくれ」


 この四人を待たせるとは、とんでもない娘だ。しかし私以外の三人は……いや、私もだがフランシアのシンパ。そうでなければ呼びかけに応えてここには来ていないだろう。そもそも、このことはフランシアが婚約破棄される以前からスキャディー、ギャリアム両家と話を付けていたらしいから、私が今回やったことなど根回しにも入らんな。


 しばらく待っていると部屋の扉が開き、フランシアが入ってくる。


「お父様、只今戻りました。ファーラス、それにスキャディー卿とギャリアム卿も、お呼び立てして申し訳ございません」


 静かに部屋に入ってきて我々に挨拶し、ニコニコしながら席に着いたフランシア。しかし、ゲストの三人は緊張した面持ちだ。大体の予想が付いているとは言え、お前の腹の中を察することほど難しいことはないからな。


「それで、フランシア嬢。我々を呼び出して、盟約の盾まで持ってこさせて……揃って王に意見するおつもりか?」

「確かに、最近国内の情勢は悪化する一方だし、王の権力を一部制限しててでも我々で改革に動くべきなのかも知れんな」


 スキャディー卿とギャリアム卿の話を静かに聞いていたフランシア。ファーラスを王宮に戻して、政を仕切らせるつもりか? フランシアならそれぐらいのことを言い兼ねん。


「フランシアよ、我々も大体の覚悟はできておる。お前の考えを申してみよ」

「有り難うございます、お父様。それでは……ラザフォーには退位してもらって、ファーラスに新しい王となって頂きましょうか」

「……」


 全員驚きすぎて、口をあんぐり開けたまま固まっていた。その様子を楽しそうに見ているフランシア。


「いや、待て待て待て! それはあまりに急ではないか!? ヴァネディアの長い歴史の中でも、王を退位させたなど聞いたことがない!」

「お父様、ヴァネディアの国内情勢は待ったなしの所まできているのですよ。我々が今動かなくても、近い内に国内の有力な貴族が王家に反旗を翻すことでしょう。そうなったら、皆様はどちらに付かれますますか?」

「それは……」


 誰一人、王家に付くとは明言しない。もしフランシアの言う通りになったとしたら、下手をすれば四大名家全てが国民の敵と扱われる可能性すらあるのだ。その様な最悪のケースを私も考えていなかったわけではない。しかしどこかで、四大名家は絶対の権力を持っている……そんな驕りがあったのかも知れない。


「これはストランジェの王妃として希望することでもあるのです。もちろん我が王トーリも了承済みのこと。隣国の内情がこじれてストランジェにまで飛び火するようなら、我々も防御一辺倒ではないと言うことです。そのために商業を強化し、ヴァネディア以外の周辺国家との関係も改善して参りました。この意味がお分かりですね?」


 まったく、ここにきて隣国の王妃として振る舞いおって。そんなことを言われれば、他の者が否と言えるわけがあるまい。もしここでヴァネディアが国内問題として対処しなければ、ストランジェを中心にした周辺国家がヴァネディアを落とすこともやむなし……そう言うことだな。


「お前……まさか、婚約破棄されたことの復讐のためにそんなことを言っておるのではあるまいな?」

「復讐? フフフ、ラザフォーに婚約破棄されたから私はトーリと結ばれることができたのですよ。感謝こそすれ、復讐など考えておりません。これは先王様とのお約束を果たすため……皮肉なものですが、ラザフォーに引導を渡せるのは私しかいないでしょう? それにアメリアとも約束しましたからね、家族を取り戻すと」

「フランシア様……有り難うございます。ファーラス・ヴァネディア、そのお話、謹んでお受け致しましょう」

「うむ。我々も異存はない……異存はないが、もう少し老体を労ってくだされ。驚きすぎて寿命が縮む思いじゃ」


 ようやく少しだけ場の空気が和み、今後のことなどが話し合われる。我々が王都に向かうのは、ファーラスの息子クロムが王位継承権を宣言するその日。まさかこの様な歴史的瞬間に立ち会うことになろうとは思ってもみなかったが……我が娘ながらよくもまあ、こんな大胆なことを考えつくものだ。

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