第15話 逆恨み
クソッ! どうして俺が減給処分なんだ。まったく下手しやがって。あれほど分からない様にやれと言ったのに、こともあろうにあの厩務員の女にバレるとは。馬が暴れて怪我人でも出れば、厩務員もただでは済まない。上手くやればあの女を追い出すこともできただろうに。
「タンタール! あなたに任せるとは言いましたが、どうして他の、しかも貴族の令嬢に手を出したのです!」
「申し訳ございません。馬を少し暴れさせるだけの予定だったのですが……」
「とにかく、あなたは暫く大人しくしておきなさい。アメリアとジーナは、あなたと私の関係も疑っている様子でした」
「はっ!」
しかも王妃様にまで叱られる始末。ああ、腹が立つ。一体あの厩務員は何者なんだ。暴走した馬も落ち着かせて、結局誰も怪我することはなかったと聞く。王妃様の命令通りにやっていたと言うのに、俺もクビになった兵士も骨折り損ではないか。しかし、今派手に動くわけにはいかない。今度失敗でもしようものなら俺のクビも危ないからな。あの厩務員に復讐したいのはやまやまだが、ここは暫く様子見と行こうか。こうなったら、意地でもここから追い出してやるからな!
王妃様の部屋から出ていく俺と入れ違いで、どこかの貴族令嬢が王妃様の部屋へ。確か今年のアカデミー入学者の中にいたはずだ……メンダリー伯爵家のご令嬢だったか? 伯爵は王妃様とアカデミーの同期で、王宮に品々を納めている。俺と同様王妃様の派閥に属しているので面識もあるが、まさかその娘まで使おうとは……おおかた、俺の代わりに厩務員に嫌がらせをさせるために呼ばれたのだろう。まったく、王妃様も執念深いことだ。あの厩務員の女は許せないが、次から次へと王妃様に嫌がらせされることには若干同情するね。
正門横にある兵士の詰め所に戻ると兵士どもは何か言いたそうな顔をしていたが、俺に逆らう者などいない。俺に逆らうと言うことは王妃様に逆らうも同然。俺の命令に従ってクビになったあの兵士について何か言いたいのだろうが、それを口にすれば自分たちもただでは済まないことも分かっているのだろう。そうだ、お前たちは何も言わず、黙って俺の命令を聞いていればいい。
翌日、朝早くにメンダリー伯爵とその令嬢がやってきて、馬車から降りるなり俺を呼びつけた。
「タンタール、例の厩舎と言うのはどこにあるのだ?」
「はい、そこの小道を奥に進んだところです」
「そうか……それにしても、今回は下手を打ったな。小娘一人に随分と手を焼いている様じゃないか」
「面目ありません」
「フン、まあ良い。私たちがさっさと片付けてやるから、感謝するんだな」
「有り難うございます」
まったく、王妃様のお陰で商売が上手くいっているだけのクセに偉そうに! 馬車から同時に降りてきた娘の方も俺を見下す様に見やがって。父親同様、性格の悪さが顔に出ているぜ。普通なら王妃様にこんなことを命令されれば嫌がりそうだが、この親子はどこか楽しそう……これが成功すれば、王妃様に気に入られてまた儲かるとでも考えているのだろう。人のことは言えないが、王妃様の周りはこんなゲスな連中ばかりだな。
俺に嫌味を言った後、令嬢は父親から何かを受け取って一人で厩舎の方へ。父親はいやらしい笑みを浮かべて馬車の中に戻っていった。暫くすると令嬢が父親と同じようないやらしい笑みを浮かべて戻ってきて馬車に乗り込むと、そのまま王宮を出ていく。その後を追う様に厩務員の女といつもの下っ端兵士がやってきて、彼女だけ王宮を出ていった。その表情には変わったところは見受けられず、嫌な予感がする。いや、まさかあの伯爵が失敗するとは思えないが……
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