第13話 テルルの手紙
「マリーダ・マーキュリー、只今帰還致しました」
「ご苦労さま、マリーダ。テルルはちゃんとヴァネディアに向かったかしら?」
「はっ。パローニ領の兵士から伝達があり、無事王都まで送り届けたと」
「そうですか。やはりお父様が兵を付けて送ってくださった様ですね。あの子なら一人で行くんじゃないかと思っていたけど」
「最近はヴァネディアの地方領地で治安が悪化しているらしいので。それで、別れ際にテルルよりこれを預かりました」
テルルの手紙を差し出すと、ゆったりとした仕草で受け取り中を確認する王妃様。読み終えると薄っすら微笑まれって、スッと立ち上がる。
「どちらへ?」
「王のところに参りましょう」
「王には先程報告致しましたが……」
「いいから、いいから。あなたもいらっしゃい」
言われるがままに王妃様に付いて再び王の部屋へ。王妃様だけ部屋に入られて、私は外で待つように言われたのでそうしていると、中で何やら話し声が。やがて王の声がして、中に入るように言われた。
「マリーダ、中に入るといい」
「失礼します」
部屋に入るとお二人はニコニコしておられて、近くに寄るように言われたので王の前まで行き、跪く。
「改めて、今回の任務ご苦労だったな。テルルも信頼するお前が一緒で、楽しい旅だった様だ。感謝する」
「身に余るお言葉にございます」
「お前がここに来てもう五年ほどになるな。近衛兵としてだけではなく、テルルやネオの面倒もよく見てくれている」
「でもね、テルルもヴァネディアに旅立ったことですし、あなたにもそろそろ別の役目を担ってもらおうと思うの」
「別の……役目ですか?」
「そうだ。マリーダ・マーキュリー、本日を持って近衛兵の任を解き、ニカールへの赴任を命ず」
「!?」
突然の王命でびっくりして声を失い、王妃様の方を見ると軽くウィンクされた。頭が悪いながら色々と考えを巡らせ、どうしていきなりこんなことになったのか……その理由がテルルの手紙にあることに思い至る。
「テルル……」
「フフフ、ローレンスも思い切りましたね、プロポーズとは。マリーダはどうしたいですか?」
「それは……私は騎士ですし、私の様なものが彼に釣り合うのか自信がなくて……」
そう言うと王妃様がゆっくり私の元にこられて、私の手を取り立たせてくださる。
「あなたは素敵な女性よ、自信を持ちなさい。そしてこのチャンスを逃してはダメよ」
「王妃様……」
「但し、あなたの様な優秀な騎士をみすみす手放してしまうのは惜しいですから、仕事は継続してちょうだい」
「はっ! 拝命致します」
それから一週間、ニカールに赴任するに日に。王と王妃様にご挨拶をしてから向かおうと思っていると、王宮では王妃様の馬車が準備されていた。
「マリーダ、待っていましたよ」
「王妃様、これからどこかに行かれるのですか?」
「私も別件でニカールに向かいますので、護衛をお願いしますね」
「はい」
近衛兵の仲間たちが何人か護衛に当たっていて、私もそれに加わることに。急なことでバタバタしたが、見送りに出てこられた王になんとか軽く挨拶をすることはできた。拍子抜けというか、ペースを狂わされたと言うか、ニカールに赴任してどういう仕事に当たるのか少しドキドキしていたのだが、予想外にいつも通りの騎士の仕事を命ぜられて次の仕事を考えている暇もない……いや、これは王妃様が不器用な私に気を使ってくださってのかも知れないな。
前回テルルと進んだときよりもゆっくりと移動し、五日後にニカールに到着する。ニカールには大きな役所の建物があり、その一部が王と王妃様の部屋となっていた。主にここに来られるのは王妃様で、それは王妃様がニカールの統治に大きく関わっておられるから。役所の人間も慣れたもので、王妃様がこられても大袈裟に歓迎したりはしない。王妃様は皆に軽く挨拶をしながら建物の中を進み……いつもはご自分の部屋に向かわれるが、今日は治安部隊の部屋へと向かっておられるようだ。
「お待ちしておりました、王妃様!」
そこには隊長と、数名の女兵士たち。まだ若い様で私の見知った顔はなかった。一方隊長は私が以前ニカールにいた頃からの知り合いで、私が来たことに驚いていないところを見ると既に王妃様から何かしらの伝達があったのだろう。
「ご苦労さま。この子たちが、お願いしておいた者たちかしら?」
「はっ! ここ三年の間に入隊した者たちであります」
「それでは……」
王妃様に促されて、彼女とともに女兵士たちの前に立つ。
「ニカールの街もここ数年で随分安定して、治安も良くなりました。以前は商人ギルドも男性ばかりでしたが今は女性も多く登録していますし、この役所でも女性が多く働いています。そしてあなたたち兵士や騎士にも女性が増えてきたのは嬉しい限りです。私はここニカールを、男女の区別なく人々が活躍できる場所としていきたいと考えていますし、ここだけの話ですがいずれは女性の市長を置こうと考えています」
初めて聞くお話だが、王妃様のお考えとしてはごく自然なもの。このニカールがこれだけ安定しているのも、王妃様の存在あってこそなのだから。
「それに伴って、女性騎士や兵士の重要性も増すでしょう。男性の兵士たちを信用していない訳ではありませんが、女性の護衛は女性の兵士に任せたいと考えているのです。女性ならではの視点で気がつくこともあるでしょうし……マリーダ」
「はっ!」
「あなたには、ここで女性部隊を率いる隊長をして欲しいの。女性だからと言って、弱くて良いわけじゃないのはあなたが一番良く分かっているでしょう? 大変な仕事だけど、是非この子たちを鍛えてあげて」
「王妃様……承知致しました! その役目、拝命致します」
緊張した面持ちだった若い女兵士たちも笑顔になり、隊長には
「まさか、お前が新たな部隊の隊長として戻ってくるとはな。お手柔らかに頼むぜ、氷の女騎士様」
と、からかわれてしまった。しかし悪い雰囲気ではない。私が騎士として歩み始めたこの地で、今新たな一歩を踏み出せることと、そしてその様な機会を与えてくださった王と王妃様に感謝の念で一杯だ。
その後王妃様の執務室へと移動すると、そこには男性が……ローレンス!?
「お待たせしたわね、ローレンス」
「いえいえ、色々とご配慮頂いたのはこちらですので、恐縮です」
「フフフ、あなたたちを応援しないと、テルルに怒られてしまわ。ほら、マリーダもそんなところで突っ立ってないで。二人で並んでいるところが見たいわ」
「し、失礼します」
おずおずとローレンスの横に立つと、彼も少し照れくさそう。やはり私も彼も、王妃様には敵わないな……照れて無言の二人を、王妃様にはニコニコしながら眺めておらえた。
「とてもお似合いね。マリーダは私のお気に入りなのですから、泣かせる様な真似をしたら承知しませんよ、ローレンス」
「も、もちろんです! 全力で幸せにしてみせます!」
焦ってそんなことを口走った彼を見て、王妃様はコロコロと笑っておられた。ああ、王妃様の前だと言うのに、自分の顔が真っ赤なのが分かる。
「フフフ、問題はなさそうね。すぐにでも結婚式を執り行ってあげたいのだけれど、一つどうしても片付けなければならないことがあるのよ。あなたたちにも協力してもうらことになるけれど、いいかしら?」
「もちろん! ……例の件ですね。いよいよ実行を?」
「そうね。そろそろ潮時かと思って」
さっきまで照れていたローレンスが真顔になり、私も釣られて仕事モードに。その後王妃様が計画をお聞かせくださったが……それは想像以上に規模の大きなもので、気が引き締まった。隣国王都まで王妃様を護衛すること、これが私の部隊の初仕事となりそうだ。
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