龍門書店
単三水
龍門書店
「…何、ここ」
私はある怪しい店の前に立っていた。店の名前は『龍門書店』。見た目は普通の本屋だ。だが私の記憶では、ここは空き地の筈である。ここは通学路だ、平日に毎回通っている私が今の今まで見逃していたとは考えにくい。私は好奇心でドアに手をかけた。
カランカランとベルのいい音が鳴る。中は別に何の変哲も無い本屋だ。少し古風というだけであろうか。
「…いらっしゃいませ」
カウンターに座っていたのは、黒縁のメガネを掛けた女の子。
「…あの、この店って前からありましたっけ?」
「いえ…私の店は移動式なので、今日ここに移ってきました。そして、今日次の所へ移ります」
「今日」
移動式と言われても、店自体は基礎工事がちゃんと済んでいるようだった。少なくともキッチンカーのような車型ではない。工事をするにもそれなりの時間がかかる。が、現にこの店は昨日まで無かった。なら、本当に移動式なのだろう。どのような原理かは分からないが。そう考えているとふと女の子の名札が目についた。龍門 春というようだ。龍門書店の由来はこの名字だろうか。
「あなた、今日此処に来れた運の良いお客さんなので…奥に案内しましょう」
そう言うと女の子は、カウンターの奥のドアを開けてこちらを手招きした。
手招きに誘われ、入る。そこは外から見た店の大きさよりも遥かに広い、本が無数にある部屋だった。中央の螺旋階段は無限に続くように感じる。
「平行世界の歴史が全て書き連ねてある本の書庫です。これを」
そう言って龍門は一冊の本を渡してきた。中をめくってみると、私の今までの人生が書かれ、今現在も文字が増え続けている。
「この世界のあなたの歴史です。未来のことを書くとその未来は固定され、思い通りの人生を歩むことができますが…どうします?」
私は何もせずに本を返し、店を後にした。明日になると、何事も無かったかのように店は消えていた。
龍門書店 単三水 @tansansuiriel
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