本屋で行きたい気分
ふもと かかし
本屋で行きたい気分
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本屋と言えば青木まりこ、青木まりこと言えば本屋と言える位にその二つはセットで語られる。驚く事にそれは日本だけに留まらずに海外へも広がって行った。マリコ・アオキ フェノメノンで通じる位にである。
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僕は立ち読みしていた雑誌を棚に戻す。その時に少し前傾姿勢になる。その際に腰を屈め直腸の角度が変わる事が排便の時の姿勢を彷彿とさせて便意を促すのでは? というのが仮説の一つにあった。
「くそっ、青木現象が襲って来やがった」
僕は腹を押さえると、足早に本屋を後にして近くのコンビニへと向かうのだった。
▽▼▽
私は社会人一年目である。うちの会社では新入社員の皆が受けなければいけない資格試験がある。その参考書を買う為に、仕事終わりで近くの書店へとやって来たのだった。雑誌コーナーを進みコミックコーナを抜け小説コーナーにも目をくれずに最奥の参考書コーナーへとやって来た。
「ええっと、どこかしら」
割とメジャーな資格だから簡単に見つかると思っていたのだが、この辺りは所謂工業系の資格ばかりで私が探し求めている物は見当たらなかった。その時お腹に違和感を感じた。
「まりこ様がやって来たのかしら。そう言えば、仮説の一つに大量の本を前にして気持ちが昂るからではないかというものがありましたわね」
私はなるべく意識をしないようにしながら参考書探しを続行した。別の棚に向かい漸くお目当ての参考書を発見した。
ほっとしてレジへと向かう途中に漂うインクと紙の匂いが私の腸を刺激したように感じられた。
「これも仮説の一つだった筈だわ」
冷や汗を掻きながら会計を済ますと私は本屋を飛び出した。目指すは前にあるコンビニのトイレである。ゆっくり歩いている人達を抜き去りコンビニへと入る。
「あ、済みません」
余りに急ぎ過ぎて男の人にぶつかってしまった。だが、それ所では無いので手短に謝罪をするとトイレへ駆け込んだ。
▽▼▽
コンビニの自動ドアを抜ける。あと少しだ。踏ん張れ僕の肛門括約筋。
「お手洗い借ります」
店員さんに声を掛けるとトイレへまっしぐら。
「あぶね」
突如、女性がぶつかって来た。危うく力が緩む所だった。何とか締め直して事なきを得た。
「あ、済みません」
こちらを一瞥すると彼女はトイレへと姿を消していた。
「何だ、同志か」
イラっとし掛けたが、妙な連帯感が芽生えて心が暖かくなった。
「それ所じゃない」
僕は男子便所へと駆け込んで無事に事を済ませるのだった。
▽▼▽
「「はあ、スッキリした」」
トイレを出た私が漏らした心の声が、何故だかハモった。見回すとそこに先程ぶつかってしまった男の人がいた。
「あっ、先程は、えっと、済みませんでした」
油断した言葉を聞かれてしまい恥ずかしくくて、それだけ口にするのがやっとだった。
「お互い間に合って良かったですね」
彼は優しく微笑むと何事も無かったかのように去って行きお菓子コーナーでガムを一つ掴んでレジへと向かって行った。
私も丁度飴が切れていたので、好みの物を一袋手に取って会計を済ませた。
外に出ると前を彼が歩いていた。少し離れて歩いて行くが私の進む方向に彼も歩いて行くのだった。どうか気付かれませんようにと願いながら歩いていたのだけども、遂に彼が振り返ってしまった。
「あ、あの。違うのです」
変に誤解されたくなくて必死に弁解しようとした私を彼が遮った。
「奇遇ですね。貴女もこの辺に住まれてるのですか? って、済みません。住んでいる所を聞くなんて失礼でしたね」
私が困った顔をしていたせいか、彼は慌てて話を打ち切って歩き出したのだった。
「えっ?」
その時、彼の服を掴んだのは一体なぜだったのでしょうか。私にも分かりません。
ただ一つ言えるのは、ここから二人の運命の歯車が動き出したという事です。
本屋で行きたい気分 ふもと かかし @humoto_kakashi
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