リサと本屋さん
白崎りか
第1話
「ああ、終わっちゃった」
リサは分厚い本をぱたんと閉じた。表紙には「終わらない物語」と書いてある。
「終わらないって書いてあるのに、終わっちゃったじゃない」
つまんないの。
リサはランドセルからノートを取り出して、宿題をすることにした。お母さんが帰ってくる前にやらなきゃ、叱られちゃう。
でも、学校で買った新品のノートを見つけて、思いついた。
「そうだ、私が書けばいいんだ! 終わらない物語」
リサは、真っ白なノートに鉛筆で思いつくままに物語を書いた。そこには、王子様やお姫様、妖精や不思議な生き物が出てきた。次から次へと頭の中から語りかけてくる彼らの声を、急いでノートに書き留めた。
お母さんの叱り声にも気が付かないくらいに、夢中になって書き続けて、やっと完成したノートには「絶対に終わらない物語」と題名をつけた。
次の日、お母さんと出かけた近所の本屋さんに、リサは自分が書いた本をこっそりと置いた。
「何してるの?」
リサは、宿題もしないで、リビングのテーブルで真剣に作業している娘に声をかけた。
「マンガ書いてる。わたし、将来マンガ家になる」
小学生の娘のアヤは、近頃、毎日イラストを描いている。
まだまだ、つたない、お世辞にも上手とは言えないイラストだけど。集中しているアヤに「宿題」と催促するのは、もう少し待とう。
「がんばってね」
そう言って、リサはノートパソコンを持ってきて娘の隣に座った。
「お母さん。まだ、投稿してるの?」
「そうよ。毎日書くわよ」
「ぜんぜん読まれてないのに?」
「いいのよ。終わらない物語を書くのが夢だったから」
小学生の時、初めて書いた物語は、近所の本屋さんから母親に返された。ちゃんと作者名を書いていたからだ。
謝罪する私達に、本屋のおばあちゃんは
「がんばって作家さんになってね」
と笑って、本をプレゼントしてくれた。
だから、今日も私は、終わらない物語を書く。
リサと本屋さん 白崎りか @yamariko
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