【KAC2023】本屋

だんぞう

本屋

 昔から本屋が嫌いだった。

 読書自体は大好きなのだが、本屋という場所がダメなのだ。

 本屋で働く方々や本屋大好きな方々には申し訳なく思うし、実際、本屋そのものはカケラも悪くない。

 原因はあいつら。

 本屋に集まる一部の連中のせいで、私は本屋に近づくだけで気分が悪くなる。

 本屋へ行くとトイレへ行きたくなる人は少なくないらしいが、恐らくその人たちの中にも私と同類がいるのではないだろうか。


 あいつらが何なのかは私も知らない。

「読んで」

 ただ商店街や商業施設を歩いているだけで声が聞こえてくる。

「読んで読んで」

 この声は本屋が近い合図。

「読んで読んで読んで読んで読んで読んで読んで」

 本屋へ踏み入ろうものなら無数の声にたかられる。

 耳鳴りがして、具合が悪くなる。

 声が私に留まらないうちに急いで本屋を離れる。

 本屋の外までは追ってこないから。

 怖気おぞけに思わず首をすくめそうになるが、反応を見せるとあいつらはずっと耳元に留まる。

 必死に我慢して速やかに立ち去るだけ。


 霊感の強い友人からは「霊の声が聞こえてるんだよ」と言われた。

 信じたくない。

 今までの人生で霊を見たことはないし、本屋以外では聞いたことないから。

 気のせいだとずっと自分に言い聞かせ続けてごまかしてきた。

 でもそのおかげか最近はあまり声を聞かなくなった。

 立ち読み防止カバーに電子書籍。

 あいつらも読んでもらえないと諦めたのだろうか。

 本屋にもようやく行けるようになった。

 夢の本屋!

 今では本屋は大好きだ。

 あいつらの声はまだ少し聞こえるが、無視できる程度には小さくなった。

 本屋では。

 つい先日、本屋ではない場所で聞こえた。

「読んで」

 読書好きな友人の部屋で、友人の方から。

 友人は聞こえてないようだが、無意識に耳元を掻いていた。

 反応しているから、あいつらはずっと友人に留まっている。

 あなたは大丈夫?

 読書中に耳元や首のあたりが痒くなったりしていない?




<終>

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【KAC2023】本屋 だんぞう @panda_bancho

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