世界

ヨコタワーる

世界

ーー『世界を終わらせる存在』ーーside

何度望んだだろうか、この世界の終わりを。

世界から不幸が消える瞬間を。

今やっと、願いが叶う。

死ぬのはつらくない。

生きて不幸な目にあう方がつらい。

皆死ねばわかるさ。

ふと幼い頃の思い出が頭をよぎった。

『ーーー世ーは平和がーーいー番』

遠い昔の記憶。完璧には思い出せない。

けど、これを言った少女の顔は鮮明に思い出せる。

悲しみなど知らないのではと思えるような性格に、日陰すらも照らす太陽のような無邪気な笑顔。

そして同時思い出す少女の惨たらしい死。

そうだ。俺はあんな不幸を誰にもしてほしくないから終わらせるのだ。

死こそ救済。

けれど、彼女が今の俺を見たらなんていうだろうか。

きっと怒るのだろう。そして失望するに違いない。

自分でもわかっている。

救済と言いつつも、単純に俺は世界が憎いのだ。

彼女を殺した男が。

男を守る王国が。

この世界の理が許せないのだ。

もう俺が止まることはない。

終わりは目の前だ。

そしてどこか期待している自分がいる。

自分を倒し世界を救ってくれる存在が現れることを。

全てを救う英雄が誕生することを。

来るわけがない。来るわけがない。

何度も頭の中で思いつつも期待してしまう。

…誰もいない城内に足音が聞こえた。

階段を上がるゆったりとした足音。

そして、英雄は私の前に現れた。


ーー『英雄』・『不幸の英雄』・『救世主』・『世界を終わらせる存在』・『世界の反逆者』ーーside

階段を上った先にそいつはいた。

世界を終わらせる存在。絶望の塊が。

俺はこいつに勝てるのだろうか。

きっと勝てないだろう。

それでもやらないといけないのだ。

何もしない者に明日などないのだから。

なんせ世界は厳しい。

努力しても、成功しても明日がないこともあるのだ。

けれど世界は存外に優しい。

俺たち一人一人のことを見てくれている。

だから俺はここに来たのだから。

俺の力ではきっと勝てないだろう。

俺の力なら。

世界は言った。

この戦いの間だけ俺に力を貸してくれると。

俺は戦う力を得た。

この戦いの間限定の仮初の力を。

だから俺は引き返さない。

なんだって世界に頼まれたのだから。

目の前の男は剣を構えた。

それに合わせて俺も剣を抜く。

剣を抜き終えたその瞬間、世界の命運を賭けた戦いが始まった。


ーー『世界』ーーside

私は城に足を踏み入れる彼を見送った。

私が彼に与えたものは何もない。

強いて言うならきっかけだけだ。

彼の背中をそっと押しただけ。

私は自分をずるいと何度も思う。

自分が死にたくないから、何も関係のなかった一人の少年の運命を捻じ曲げてしまったのだから。

彼はこの戦いで死ぬかもしれない。

彼は死んで私も死ぬかもしれない。

彼は相打ちになって死ぬかもしれない。

そして私は生きるかもしれない。

どの結末でもさして私にマイナスはない。

ダメ元で彼を送っただけだ。

けれど、彼が勝つのではないかと淡い期待をしたのも事実。

彼が望んだものは力だった。

単純な武力ならこの少年は大丈夫だと思い精神的な力を与えた。

それにしても何か特別な魔法を施したわけではない。

ただ一言、

「貴方の頑張りを私は見ていました。きっと貴方なら大丈夫。」

だった。

私はこの期に及んで嘘をついた。

彼のことなんて今の今まで認知してなかった。

けれど彼はこの言葉を聞いた瞬間、決意をしたのか城の中に入っていった。

私は人間を見くびっていた。

そして認識を改める。

人は言葉一つであんなにも輝けるのだと。

もし彼が世界を救ったなら、私は人間を観察してみようと思う。

私が生んだ多くの生物の中でも、自分たちの力で進化していった彼ら人間のことを。

私は心からで彼を応援した。

「がんばれ少年」

と。


ーー『世界闘争』ーー

その日世界に光が満ち溢れた。

久しく人類が見ることのできなかった日の光。

とうとう世界の夜が明けた。

その日を、のちに人類はこう呼ぶ。

『世界の夜明け』

と。

同時にその日、一人の英雄が誕生した。

万人を救い、世界を救った英雄が。

英雄は名を名乗らなかった。

だから人々は彼を救世主と呼び、祭った。

現在では彼を信仰した一大宗教ができている。

彼の行方は誰も知らない。

文字通り誰も。

世界ですら彼がどこにいるのか知らなかった。

しかし誰もがそれならそれでいいと思った。

世界さえも。

何か理由があるのだ。

感謝を伝えたいが、彼が姿を現したくないのならそっとしておこうと誰もが思っていた。

のちに人類と世界はこの選択を後悔する。

彼は救世主としてではなく世界を終わらせる存在として人類の前に立ちはだかった。

彼が世界を救い、世界を終わらせる存在として現れるまでの10年間に何があったのか、人類は知ろうとする。

しかし、その時には何もかもが手遅れだった。

彼を止めたかったのなら、10年前、彼が英雄に成ったその瞬間に殺すしかなかったのだ。

人類は知らない。彼がその時すでに、世界を終わらせると決意してたことは。

10年、短い時ではなかった。

世界も10年で人を知り、自分自身を見直した。

世界はこの時少年の前に立つ。

10年前己がかってに運命を捻じ曲げてしまった少年の前に。

そして世界は知る。

彼の歪さを。

彼が理不尽にも世界を終わらせようとしているのならどれほどよかったか。

その時は世界も、若干の後悔を感じながらも少年と戦うことができた。

しかし世界は納得してしまった。共感してしまった。

そして自分を呪った。

自分のせいで彼はこうなった。

結局結末は変わらない。

問題が先延ばしになってただけ。

因果応報なのだと。

世界は泣きながら、身を焼き尽くすような罪悪感に苛まれながら少年と戦った。

その戦いは1年にも及んだ。

何も遮るもののない草原で、二人の戦いの幕が閉じた。

最後に立っていたのは世界。

何もない場所で世界は悟る。

自分は『呪い』そのものだと。

あの時も、少年ではなく自分で立ち向かうべきだったのだと11年の時を経て気づく。

世界は少年を優しく抱き上げ泣いた。

出てくる言葉は謝罪。

そして最後に感謝と決意の言葉。

世界は立ち上がる。

自分は呪いなのだと言い聞かせ一人で永遠を生きることを決意した。

世界が向かうは無の世界。

四方八方何もなく無限に白い色が続く世界。

世界が自我を持った始まりの世界。

その後、世界…彼女を見た者はいない。

彼女は誰にも見つけられることなく、世界を存続させるためだけに、これまでも、これからも一人で生きて行く。

自分の罪を忘れないまま。


ーー『千年後』ーー

『世界の夜明け』

その10年後に起こった、世界と世界を終わらせる存在との戦いは

『世界闘争』

と呼ばれた。

そして、世界を終わらせる存在を

『世界の反逆者』

と人々は呼んだ。

『世界闘争』後人類は二大勢力に分かれた。

世界そのものを信仰する『世界真理教』

『世界闘争』で世界、人類の敵となった不幸の英雄を信仰する『英雄救済教』

多くの国や種族がどちらかに属し、互いに争う日々が続いている。

世界と世界の反逆者。

彼らの選択は、現在の文化、生活、世界情勢に多くの影響を与えている。

そして、これは『世界闘争』から千年後。

英雄が再び世界と出会う物語。


そして、再び世界と英雄が対立する物語。


歴史は繰り返す。


ーー『世界の意思』ーーside

私はこの力を呪った。

世界と繋がることのできることができるこの力を。

『世界の意思』と呼ばれるようになったのはいつからだろうか。

身の安全の保護という名で監禁され続ける毎日。

何か不自由しているわけではない。

けれど、私は外の世界を見たいのだ。

私は時々夢を見る。

それは私でない誰かの記憶。

何もない草原の中にただ一つ、黒髪の男性が横たわっている。

私はそれをそっと抱き上げ涙を流す。

きっとこの記憶は世界の記憶。

決して私の記憶ではないのだ。

そして、最後は決まって何もない白い部屋にたどり着く。

この夢の中で私は何もできない。

ただ見て聞くことしか。

他にも、未来予知のような夢を見る。

そして夢で見た未来は必ず現実に訪れる。

だからなのか、私はこんな場所にいる。

何もできない。何も成し遂げることなどできずに私は死ぬのだろう。

齢16歳ながら私はそんなことを思っていた。

私の前に彼が訪れる。

『世界の反逆者』

私は彼を知っている。直接会ったことはないし、お互いに初対面だ。

彼も私を知らない。

きっと彼は私に興味はないのだ。

きっと彼も私の力を望んでいる。

誰も彼が『世界の反逆者』の生まれ変わりであることを知らない。

私だけが知っている。

彼は私を鳥籠の中から攫いだす。

その姿は小さい頃に読んだ物語に出てくる騎士のようだった。

私は彼についていく。

彼は私に興味はないだろう。

けれど、私は見てみたい。

彼の物語を。

千年前から続くこの物語の結末を。

ただそれだけのために私はついていく。

こう見えて私は『世界の意思』なのだ。

その性格は、世界に似ている。

私はこれから訪れるであろう様々な出会いに胸を高鳴らせ彼についていく。


そして私がその選択が間違えであることを知るのは1年後。

『世界の闘争』決着の地であった。


歴史は繰り返す。

そして、『世界の反逆者』は、千年前からずっと『英雄』であったことを知る。





























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