【夢じゃなかった】

その日の夜。

私は、どこか懐かしいものを見た。

そこには暗く汚い路地に巻き込まれるように

座り込んでいる痩せぎすでボサボサ髪の少女がいた。

その目は虚ろで

何もかも諦めてる顔付きで錆びついたトタン壁を見ていた。

   ずっと ずっと

そこからしばらくすると覆いかぶさるように、

黒い人影が映り、少女はその人影に気づくと

そのまま顔を向けた。


 顔を向けるな 逃げろ 逃げろ 逃げろ 今すぐに


わかっていた。これは、ドキュメンタリー映画やドラマの記憶の断片ではない。

私の昔の記憶だって事。

そして私がこの後どうなるかも知らないはずがない。ああ、あの時に。

やめておけばよかったのに。


「__つっ!!うわっああ!!」

飛び起きて目の前を見てみると、そこに広がっていたのは

苔むした路地裏ではなく、昨日入居したばかりのまだ家具なども新品のままの

部屋が広がっていた。

どうやらあのまま疲れて眠ってしまっていたらしく、

私は昨日の服とメイクのまま見るも絶えない状態になっていた。

「はぁぁ…最悪すぎる」

変な夢を見てしまったのもあってか、がっつり疲れた体と頭を起こすと

洗面台があるシャワールームのほうに歩き入っていく。

白を基調とした洗面台の鏡に私のくちゃくちゃになった顔が映る。

「これは夢じゃなかったか…」

前髪を手でどけ、眼帯をすこしずらし外し見てみると

そこだけ暗闇が広がっていて、失った片目が

この状況が現実だと切実に訴えている気がした。

「まぁとりあえず着替えるかぁ」

このまま、鏡で見ていてもしょうがないので

顔を洗って髪を整え軽くメイクをする。

なぜか片目に水は入らないし傷口ぽいのはあるがまったく染みない。

本当に謎ばかりだ。

その後、リビングのほうに戻ると、置いてあったスマホを手に取る。

まったく記憶がないがまきさん達と連絡先を交換していたらしく

何件かメッセージが来ていた。

 昨日は、お疲れさん!!よく眠れたかい?

 今日よかったら街を案内しようと思ってね!準備出来たら玄関前に

 降りて来てくれる?


「へっ??」

ここでの生活二日目も、忙しくなりそうだ。

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