【ようこそ此方側へ】
「ぷはぁ〜!!!!」
まきさんは、そう言いながら
気持ち良さげに
缶ビールを飲み干し机に置くと
さっぱりとした笑顔で私達を
見渡し言った。
「それじゃさっそくだけど
ゆえんちゃんから
自己紹介お願い出来るかい?」
「あっはいわかりました!」
私はまきさんから言われ立つと
改めて他人の興味の視線が向けられるのが
感じ無くなってきたと思った緊張が
再び出てくる。
「きょ…今日からここでお世話になる
蛍火所縁って言います!!
皆さん改めてよろしくお願いします!」
私は緊張で口が上ずりそうに
なりながら勢いよく改めて頭を下げた。
「よろしく~!!」
あちこちから歓迎の言葉と一緒に
拍手が起こりなんとか無事に
終わったと私は心の中で安堵した。
「ありがとうね!
じゃ私から…ヴヴんっ!改めて
ここの管理人の東上稲希だよよろしく!」
まきさんは一つ咳払いをし言うと
私に手を差し出し私はその
暖かく力強い赤い手を握り返した。
「じゃあ次は我かな?」
そう言いながら
まきさんの横に座っている
黒白ボーダーのパーカをだぼっと着て
黒銀ツートンのツインテに
首筋には
大きく蛇とたばこのタトゥーが入っていて
見えているか分からない
白く濁った目に黒縁眼鏡をかけた
小柄な女性が手を上げた。
「あい ん〜とっ彫師してて姉さんの
恋人の凡骨ルミネって言いま〜すっ!
タトゥー彫りたかったら
我におまかせ!よろしくね〜」
ニコッと気さくな笑みを浮かべながら
マネさんはひらひらと私に手を振る。
(なんだか悪い人ではないみたいだし
良かった…)
「あっウチとコーシんとえみるんちゃんは
もう会ってるし大丈夫だし〜!」
もう2.3本飲んでいるのか
おねちゃんはかおを真っ赤にさせて
笑いながら言う。半分機械に
なってしまっても楽しそうに酔っ払う
幼なじみを見て私はなんだか安心する。
「おっそうかい!だったら後は…
ゆゆちゃんだけだね」
自然とみんなの目線は
最後になった奥の席に座る
車椅子の女性に集まっていく。
来たときから一言も喋らず
みんなの喧騒を肴に
缶ビールをちびちびと
飲んでいた。
「……玻座眞ゆゆって言います
よろしくっ」
そうポツリと口にするとまたゆゆさんは
ちびちびとビールを飲み始めた。
なんだか独特の雰囲気を醸し出している
人だなと思った。
「それじゃ改めてっ……乾杯!!!!」
そのまままた
まきさんの音頭に合わせて
皆 宴会モードに戻っていったので
私も言おうとしていた言葉を引っ込ませ
輪に加わっていった。
その後かなり飲み食いし
自然と解散になった。
私はおねちゃんから
私が使う予定の部屋に案内してもらっていた。
「ほらここやでぇ〜!ババーン!!!」
「お〜!!」
案内された部屋は1DKと少し狭めだが
シャワートイレ完備の寮のような部屋だった。おねちゃん曰く皆まったく
同じ内装の部屋が
割り当てられていて
そこを自分用に
カスタマイズして使っているらしい。
まぁあまり拘りのない私にとっては
丁度良い物件だった。
「結構いいとこやろ?」
「うん!ありがと〜!」
「気に入ったみたいで良かったわぁ〜!
ほなウチも隣だし寝てくるわぁ…」
そう言いながらおねちゃんは
玄関まで行き扉を開こうとした
所で何か思い出したらしくあっ!
と言いながら
ぱっと私の方を振り返ると
「せやせや忘れてたわ!
ようこそ此方側へ」
「ん?」
「こっちでの合言葉みたいなもんや
ゆーちんも今までいろんな事あったと
思うけどここじゃ何も
気にせんでええからな」
「うんありがとう!じゃね
おやすみ…おねちゃんありがとう」
「じゃね!おやす〜!」
そう言い残すとおねちゃんは
扉を閉めて千鳥足気味の足音を響かせて
帰っていった。
こうして、私蛍火所縁の新生活は
ようやく始まったのだった。
いろんな思いを残しながら
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