【この街と異形病】


「あんたも災難だよねぇ

ただ生きてるだけでこんな事になっちまってさ」

「はい‥まぁそうですね」

「ま、住めば都って言うしここも

良いところさね!(慣れるまで生きれるかによるけど…)」


「えっ?」

「カカカッごめんごめんただの独り言よっ!と」

「うわぁっ!!」


その瞬間何か

不都合を急いで消したように女性は笑いながら

ハンドルを大きく切り、その時油断していた私は間抜けにも

体を浮かしてしまう。


今バンは、閑散としたロータリーを出発してから

たぶん整備がしばらく停止されてると感じる道路をずっと進んでいた。

少しばかり広々としたバンの中では、

絶え間なく女性の明るい声がからからと響く。

ロータリーまで私を向かいに来てくれた

この女性はこれから住む場所の管理人で

乗り込んだ時、運転席からさっと差し込まれた

名刺には施設管理人「東上稲希」と

書かれていた。

「住んでるやつらからはまきねぇって呼ばれてるよ!

でっあんた名前はなんて言うんだい?」

「あっ!蛍火所縁って言いますっ…!」

「ゆえん?いい名前だね〜!」

100%聞き返される

もの珍しい自分の名前だが

こうゆう時に空気を柔らかくするには

手っ取り早いのでそこは感謝を

覚えていた。それ以外は感謝なんてない。


「ありがとうございますっ」


でも、それを悟られたら気まずいから

私は曖昧に笑いごまかす。

「んでこの辺りが繁華街みたいなとこね」

まきさんは、そう言いながら街道を指をさす。

気が付くとバンは道路を抜け

酔っぱらった建築会社が三社ぐらい寄ってたかって

作ったような雑多な印象の街沿いを走っていた。

まきさんの話によると、この先に

管理区域があり

この辺りはまだ働きたい人を

雇っている部品工場などがあるらしく

大体のここに来た人で動ける人は、

そこでとりあえずの時間を

過ごすらしい。

「給料も出るけどさ

ぶっちゃけ言いたかないけどここじゃあ最低一か月

どうかも分かんないんだよ」

そう言いながら、手をひらつかせ【やってらんない】とばかりに

少しばかりオーバーなリアクションを取る。

少しづつ移動していくにつれて

空気が解けていくのを感じる。


そしてしばらくすると

少し時間を調整すると

言ってまきさんは車を駐車場らしき

場所に停めた。

このタイミングを

見計らって私は、ずっと感じていた事をぶつけてみる事にした。


「あの…まきさん」

「うん?どしたんだい?」

「まきさんの頭のそれって‥角ですか?」


ロータリーで始めて出会った時には、

そういえばキャップをかぶっていて

気が付かなかったが

今、まきさんの額には白い角が小さく二本生えていたのだった。

「あ~そっか!ごめんごめんっもう知ってると思ってたわっ」

まきさんは、自分の額を撫で少しおどけた風に言う。

「ウチはまぁ見てくれでわかると思うけど、鬼だよ。

鬼みたいになっちまった。

朝起きたらね、ゆえんちゃんもそうでしょ?」


「まぁはい‥私は、片目が取れてました」

そう言いながらずっとつけていた眼帯を外し、目を隠すように

伸ばしていた髪の毛をかきあげた。


「おー結構軽く済んだんだねぇ よかったよかった」

「へ???」


かなり引かれると思って覚悟していたのだけれど、

私の今は、白いまくで覆われて何も見えていない片目を見るやいなや

うんうんと頷き

まきさんはあっけらかんに笑った。

「ひっ引いたりしないんですか?」

その言葉を言うと同時に

なぜだか体の強張っていた力がふっと抜けていくのを感じた。


「うーん…なんだろうね難しいねぇ‥ あっそうだ」


そう言うとまきさんは、ここから少し歩くしその道中で

教えると言ってバンから降りていき、少し戸惑いながら私も

降りてついていく。

車から出るとすぐさま風が吹きつけていき、少しばかり

体を震わせた。

「ああ、荷物はあたしが持っとくよ長旅で疲れているだろう?」

そう言うとケースを引きながら歩いていき、それについていく。

「まずさ ここの事をなんて聞いてたんだい?ゆえんは」

「えっと、昔の戦争と同時にこの病気が流行って

差別とかを防ぐために作られたって 学校で習った気がします」


「おっ正解〜!!

だけどね実際は少しばかり 違ったんだよ」

「えっ?」

まきさんは私の答えを聞くと

満足そうに頷き、私の頭を一つ撫でると

さっきとは打って変わったように

悲しげな顔で呟いた。

「それって…?」

「あれを見てごらん」

そう言いながらまきさんは、

落書きや

大きなものに打ち付けられたのか

無残にへこんだ街を覆うようにたっている壁に

さらに覆うように

みっちりと貼られた手配書のような張り紙を指さす。

「なんですか‥あれ」

「ちょっとおいで」

そう言われるがまま着いていき

もう一度張り紙を見てみるとそこには

 行方不明者捜索願い

情報持っているものは下記まで

と書かれた一文と


顔が無い人から、猫の被り物ような頭のような人

まで様々な写真が無尽蔵に張られていた。

なんだか異様な光景に私が飲まれていると

「驚いたろう?これはすべてこの街に来て人知れず消えてった人達だよ」


横からまきさんが一枚落ちた張り紙を拾いながら言った。

その張り紙には、にこやかに笑いながらピースサインを決めている

快活な印象の女性が写っていた。


「その人は?」

「前の管理人でもあり実の姉貴さね いい人だよ」

「‥‥」


私は、それを聞いた時

私はどうすればいいのかわからなくなった。 なんでこの人は

写真の中で笑うあの人はいなくなってしまったのか

この街は、病気にかかってしまったを救うために

あるんじゃ無かったのか。それとも…‥

「ああ、なんか変な空気にさせちまってごめんねぇ

この先にうちらが暮らす家があるからさ」


かける言葉が見つからずただ見つめる私に気が付いたのか

まきさんは、張り紙を張りなおすと取り繕うように笑って

壁ぞいに並ぶ住宅地のような通りを指さし

また歩き出す。


この世界が都合の悪いものをすべて押し込んだような

ガタついた建物や明らかに非合法な屋台らしきもの。

ちらほらコンビニらしきものや、スーパーらしきものが見えるけれど

あれは、本当にそうなのかもぶっちゃけ怪しい。

そして通りの真ん中にそのマンションらしきものは建っていた。


「はい!!到着 ここがうちらが暮らしている「マンションさざなみ」だよ」


私はいろんな意味で名前負けしている外観を見てあっけにとられていた。

と、言うのもいたる所に施されたスプレーアート (呪文みたいなのも書かれてるし

今も誰かが書いているのか裏でシュー シュー と音がしている)

なにか突っ込んだのか大きくかけている壁。

ここまでされてよく崩れないなと 逆に関心する建物がそこには建っていたのだ。


まきさんは反応に慣れっこなのか、ぽかんとなっている私に気にするでもなく

きょろきょろと上を見渡して

なにかを探しちょっとしたのちに見つかったのか

私のほうに振り返り言う。


「あっ!ゆえん~ちょうど一人外にいたから紹介するよ!こっち来て!」

いつの間にか裏に回ってたのかまきさんが手を振って合図していた。

私はそれを見て急いで飛びそうになっていた意識を

元に戻すと転ばないよう気を付けながらまきさんの元に行き

一緒に裏に入る。裏は庭なっているらしく一人壁に 

スプレーアートの主らしき女性がスプレーをさせていた。


「おーい!!ねねちょっといいかい?」

「まきっちどしたん?」

作業の手をとめ女性は、まきさんのほうを見る。

「今日から新しく入った子だよ」

「どうも、蛍火所縁って言います」

「わ~!!えっ待ってちょーかわいい!こちらこそ初めましてぇ!

ウチはおおk・・んえっちょ待って」

ギャルっぽい風貌の女性は、私の顔を見るやいなや急に

顔が強張りはじめる。


「もしかしてさ ゆーちん_?」

女性から出た名前に さっきからもしかしたらと思っていた事がその瞬間

ピタリとはまった。

「えっ…もしかしておねちゃん?」


なんと、先に来ていたのは小さい頃遊んでいて

今は疎遠になっていたギャルでした…

私の人生はこれからどうなっていってしまうのでしょうか‥‥?

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