本屋さんがあればこそ【KAC20231】

朝風涼

本屋さんがあればこそ

 子どもの頃から本好きでした。


 小学校では、学校の図書館で、江戸川乱歩をたくさん読みました。ちょっと大人びた表現もあって、ドキドキしながら読みました。もうすぐ閉館となる図書館の、黄色く染まった本棚の片隅で、一人読みふける自分を思い出します。


 中学校でも、図書館に入り浸り、本にどっぷり浸かる毎日でした。

 新刊本を見つけると、貸出カードの一番上に名前を書いて、一人悦に入っている自分でした。


 さて、私の家は、ど田舎です。一番近くの本屋さんに行くのにも、10kmほど自転車をこがないと行けませんでした。そのため、ようやく本屋さんに行けたのは、中学生になってからでした。


 お小遣いをもらうとすぐに、10km離れた本屋に行って、大好きな「レンズマンシリーズ」を買ってきて、夢中になって読みました。月に一度の本屋さん通いは、とても貴重な思い出です。


 ただ、今になっても不可解なのは、母親に、

「本を買うな。読むな」

と言われた事です。


 貧乏だったので、一冊本を買うと小遣いはすぐに無くなってしまいます。

 本を買うお金は、もっと他の事につかえ、という意味だったのか。

 本を読むより、家の仕事をしろという意味だったのか。

 今もってわかりませんが、無性に悔しかった思い出です。



 月日は流れ、退職後。私は、突然、梨園を引き継ぐことになりました。


 梨栽培について全く知らない私が頼れたのは、近所のおばちゃんのアドバイスと、梨栽培の本だけでした。


 梨栽培の専門書を買うのには本当に苦労しました。なかなか売っていないのです。


 遠くの大きな本屋さんを何軒もはしごして、ようやく欲しかった梨栽培の専門書を手に入れました。


 梨の専門書というマイナーな本を置いておいてくださった本屋さんと、その一冊があったおかげで、なんとか梨栽培を始められたといってもいいと思っています。


 今は、私のバイブルとなっている一冊ですが、本当に貴重な一冊となりました。なぜなら、その後、同じ本を買おうとしても、既に絶版となっていたからです。


 インターネットが進んだ今では、売れない本はどんどん淘汰される気がします。専門書ならなおさらです。


 専門書を売って下さる本屋さんには、なんとか残って欲しいと思うのです。





 


 

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