最終話 『だいしゅき!』って、言ってほしいなあ。


 華が階段に直撃する寸前でその腕を掴み、肩掛けのスポーツバッグを背中に回しながらくるり、と体を入れ替える事に成功した隆太りゅうた


 だが、とっさの事に全ての衝撃を避けられる訳がなく。


 ●


「いって……!尻に……背中に階段が刺さりまくった……大丈夫?ケガ、ない?」

「ううう……は、はい」


 階段から背中を起こし、痛みに悶絶しながらも華を気遣う隆太の腕の中で、頬をその胸に預ける華。


「よかった。危ないから、階段は走ったらダメ」

「ご、ごめんなさい。もうしません……ありがとうございまし、たっ?!!」


 頭を下げて謝る華は、そこで異常事態に気づいた。

 好きな男子の腕の中にいる事に。


「きゃ?!ごめんなさい!」

「あだ?!ふう……よし、大して痛くな、い」


 慌てて飛び退いた華のその動きで、階段からダメージを受ける隆太。

 何とかやせ我慢に成功して腕をさする。


「ま、ケガがなさそうでよかった」


 隆太はクセで、華の頭に手を置いた。

 不安げに、そんな隆太を見つめる華。


「…………な、んで」

「え?」

「何で私なんかをかばって……こんなに優しくしてくれるんですか」

「ええ?普通じゃない、かな?」


 そうは言っても、隆太自身も信じられないくらいの動きだった。

 何で、と言われたら。


 隆太には、理由が一つしか考えられない。

 そして、その一つだけで力が湧いてくる。

 何でもできる気がする。


 そんな事を考え、何とかできてよかった!と安堵の表情を見せる隆太に華は唇を尖らせた。


「絶対普通じゃないです!それに……こんなに痛い思いをさせてごめんなさい。私、治療費払いますから!病院に行きましょう!」

「大丈夫だよ。男子の体力、なめんなっ…………?!」


 そう言ってたはいいものの、やせ我慢が効かずに腕をびくり!と跳ねさせた隆太。

 

「俺が好きでやった事。治療費なんてとんでもない。ツバつければ……あ!じゃあさ、腕に『痛いの、飛んでけ!』ってオマジナイしてくれたら治るかも」


 からかい半分にぶつけた腕を差し出した隆太。

 

「わ、わかりました!……飛んでけ、飛んでけ!痛いの、痛いの、飛んでいけ。痛いの、私に来てください!」

「うっわー?!もう治った!めっちゃ治った!」

「もっと気持ち込めれます!痛いの、痛いの……」


 涙目で隆太から視線を外さずに、一生懸命腕をさすり続ける華。その可愛らしさに悶絶する隆太。


 そこに。

 隆太と共にいた、ゆるフワ女子が駆け込んできた。


 後ろめたさと申し訳なさで華は俯いてしまう。


「隆太、おっそいよ!せっかくのプレゼント……あんた!何、女の子泣かしてるの?!ねえ、大丈夫?うちの弟が迷惑かけてない?!」

「あー、うっさいのきた。これ、うちの姉ちゃん」

「そう……え?!お、お姉さん?!」


 好きな人の彼女と思っていた女子が、お姉さんだった。

 喜びより、華の思考がついていかない。

 

 だが。

 自分のせいで隆太がケガをした事を告げる華。


「ご、ごめんなさい!私のせいで、お、弟さんが……!」

「ん?いいのいいの!コイツ、ってしてるけど格闘技してるから!」

、お前、言い方!!」


 隆太のジト目にも全くひるむ事なく、くるくると二人の周りを歩きながら騒ぐ隆太の姉、


「うわー!何、腕掴みあってんのよ!隆太、アンタまさか本屋の片想いちゃんに相手にされなくって……ってご本人様じゃん!」

「ぎゃー!!うわー!お前帰れよ!帰れー!!」

「え?え?」


 興奮しきってニマニマなと、顔色をコロコロと変えながら叫ぶ隆太に、目を点にした華。


「片想いちゃん、やっばぁ!!眼鏡っ娘で黒髪ロング、あどけない美人顔!めちゃめちゃストライク!……あ、あのさ。『お姉ちゃん、だいしゅき!』って、言ってほしいなあ。弟より妹、欲しかったんだあ……隆太、何してんの!じれったいな!早くプロポーズしろぉ!この腑抜け男!」

「ざっけんな!ぶっ飛んでんじゃねえよ!ホントに頼む!るか、ハウス!」

「え?え?」


 ●


 そう、結局は。


 本屋で出会ったお互いの事を忘れられずに、片想いをしていた二人、なのでした。



【終わり】


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【KAC20231】和風女子とチャラ寄りのチャラ男子と、本屋さん マクスウェルの仔猫 @majikaru1124

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