わたしの本屋さん 【KAC2023:本屋】

汐凪 霖 (しおなぎ ながめ)

幻想書店

 子どものころ、あまりにも本が好きで、大人になったら本屋さんになる! と、言っていた私。

 もう寝なさいって言われて布団に入っても、隣の部屋から漏れる電灯や、こっそり寝床に持ち込んだ懐中電灯の灯りで版面はんづらを照らし、夢中で物語の中に留まろうとした。

 本とともに成長し、生活している。

 離れては、生きていけない。


 当時から憧れていたのは。

 少し薄暗くて、外国の映像作品に出てくるような緑のランプシェードの卓上ライトや、赤茶色の地球儀なんかが机上に置いてある、広い部屋。

 まるで、古い王国の城館に造られた図書室のような空間。

 天井が高くて、床から天辺てっぺんまでぎっしりと本が詰まった壁。車輪が付いていて、書架に沿って横にスライドする、長い金属製の梯子。

 ふかふかのスツールが一定の間隔をあけて置いてあり、ちょっとの時間なら、試し読みできる。

 そういった家具も棚も、電話機も、レジスターまでがアンティーク。

 書物とは、これほど価値のあるものなのだと実感できる、贅沢品を扱うに相応しい店であればいい。

 本当に、魂の底から本を愛する人だけが、落ちつける場所。


 熱弁を終えると。

「なんかそれ、古書店のイメージだね。稀覯書専門店、みたいな。でもって洋書しか無さそう」

 ちょっと呆れつつ、面白がっているのが解る。

 ならばと返す言葉は。

「……『ギガス写本』とか『アブラメリンの書』とか、『ヴォイニッチ手稿』とか?」

 両眼が、きらりと光る。

「フラムマリオンの賛美者の遺言による『空の中の地』とかね」

 うえっと呻いた。

「それはイヤだ。普及版ならいいけど」

「そんなの稀覯書じゃないから駄目でしょ」

「魔導書ならいいけどゲテモノ書は無理!」

「失礼な~。本人自ら提供者が望んだものだから別に構わんでしょう。『スペイン王の法律についての実践的な質問』は生きたまま奪われたらしいから厭だけど」

「生きたまま……最悪……論外」


 人皮装丁本は却下だ。

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