本屋でよく会うあの子

白鷺雨月

第1話本屋でよく会うあの子

昭和から平成にかわってすぐのあの頃、僕は毎月かかさずに買っていたものがある。

それは僕が小学生六年の時の話だ。

それを購入することはクラスの誰にも言っていない。

ばれるのがなんだか恥ずかしかったからだ。今ならどうということはないんだけどね。


自転車を走らせて、駅前の商店街にある本屋さんに向かう。

そこで目当ての本を買うためだ。

店の前に自転車をとめて、店内に入る。

そうすると僕の視界にある女の子がはいった。

切り揃えられた前髪が特徴的なかわいらしい女の子だ。黒いスカートに白いフリルのついたブラウス。いかにもいいとこのお嬢様といった雰囲気だ。

あれは同じクラスの友永有紀子じゃないか。


僕はそっと身をかくす。

せっかく遠くの本屋さんまできたのに、こんなところでクラスメイト、しかも女子にみつかるわけにはいかない。

友永有紀子は手に雑誌と文庫本を持っていた。

僕は彼女が手に持っている雑誌を見て驚愕する。

それは僕が今から購入しようとしていたものと同じだからだ。


それはアニメ雑誌のNewtypeだった。


今ほどインターネットなんかが発達していなかった当時はアニメの情報を知りたかったらアニメ雑誌ぐらいしかなかった。そしていくつかあるアニメ雑誌のなかで僕が定期的に購入していたのが、Newtypeであった。

Newtypeはアニメだけでなく、映画なんかの情報ものっていてお得だったんだよな。


友永有紀子は買い物をすませたあと、本屋さんをでていった。

よし、彼女はいなくなったぞ。

これでゆっくりと本屋さんを楽しむことができる。

僕はNewtypeとゲーム雑誌、文庫本のロードス島戦記を購入した。けっこうお小遣いをつかってしまったな。でもNewtypeは一か月みっちり楽しめるぐらいの情報がのっているので決して損ではない。


自転車のかごに本屋さんで購入したものをいれ、いざ自宅に戻ろうとしたら誰かが僕を呼び止める。


「吉野君じゃないかしら」

それは友永有紀子だった。

僕は思わず振り返る。

「友永か……」

僕は言う。

「吉野君、何を買ったのかしら?」

友永有紀子は僕にきく。

アニメ雑誌を買ったなんて恥ずかしくて言えない。

「ファミ通だよ」

ゲーム雑誌ならまだましだ。

「他にも買ったのでしょう」

ジト目で友永有紀子は言う。

「Newtypeとロードス島戦記だよ」

降参して僕は答える。

「私もNewtype買ったのよ」

かわいい笑顔で買ったばかりのNewtypeの表紙を僕に見せた。特典のポスターはロードス島戦記だった。

「私が好きなのはカシュー王よ。吉野君は?」

「僕はやっぱりディードリットかな」

僕は答えた。

その後、僕たちは店先でアニメやゲームの話に花をさかせた。

それから本屋に行く度に僕は友永有紀子と話をするようになった。

わざわざ遠くの本屋さんまで出向き、友永有紀子とする話は何よりも楽しいものだった。


これがいわゆる僕と妻になる有紀子との出会いの物語であった。

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本屋でよく会うあの子 白鷺雨月 @sirasagiugethu

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