はじめての本屋さん

温故知新

はじめての本屋さん

「パパ、早く行こう!!」



 休日の昼下がり、お昼ご飯を食べて元気いっぱいの息子は、初めて来た地元の本屋さんに大はしゃぎしていた。



『パパ! 今度のお休みの日に本屋さんに行きたい!』

『えっ? それは、別に構わないんだけど......』



 果たして、うちのママは許してくれるのだろうか?


 6歳の誕生日に息子から唐突に言われた俺は、キッチンで片付けをしていた妻に目をやった。

 すると、視線に気づいた妻が手を止めてニッコリ笑った。



『あら、パパが連れて行けば良いんじゃないの? 陸ももうすぐで小学生だし、自分で貯めたお小遣いでお買い物をする良い機会じゃない』

『だってさ、パパ!』



 キラキラとした目で俺を見てくる息子と、ニッコリ笑いながら無言の圧力をかけてくる妻に負けた俺は、苦笑しつつ息子の本屋デビューを手伝うことになった。


 まぁ、仕事であまり構ってあげられていないから良いんだけど。



「パパーー!! 早く早く!!」

「はいはい、分かっているよ」



 人生で初めての本屋さんですっかり浮かれている息子に背中を押された俺は、笑みを零すと小さな手を取って店内に入った。






「わーー!! パパ!!ご本がいっぱいあるよー!!」



 息子と一緒に訪れた本屋は、地元では『豊富な品揃えがある本屋』として有名な店で、訪れた日が休日とあって、店内は多くの人で賑わっていた。


 そんな中、たくさんの本棚に陳列されている本達に目を奪われた息子は、繋いでいる手をブンブン振り回しながら歓喜の声をあげていた。



「こら、ここはお店の中だから大きな声を出しちゃダメ。小さい子がビックリするだろ?」

「は〜い。ごめんなさい。でも、パパ! 本当にご本がいっぱいあるよ!」



 反省しつつも興奮が抑えられない息子を微笑ましく思いながら、俺は息子と一緒に店内を歩き回った。


 久しぶりに本屋に来たが、こんなにもたくさんのジャンルを扱っているんだな。

 しかも、つい最近改装したお陰で、オシャレなカフェまで併設されてる。


 小さな本屋だった店が大幅リニューアルされて、建物ごと大きくなり、綺麗になった店内に物珍しそうに見て回っていると、突然息子の足が止まった。



「パパ! これ! このご本が買いたい!」



 そう言って指をさしたのは、大きな魚の絵が描かれた絵本だった。



「これでいいのか?」

「うん! 保育園でこのご本を読んだ時に面白かったから買いたい!」



 眩しい笑みを浮かべる息子に、思わず笑みを零した俺は、そっと絵本を取ると後ろを見た。



「うん、これなら頑張って貯めたお小遣いで買えるぞ」

「わ〜い! やったぁ〜!」



 再び大はしゃぎする息子を宥めすかすと、俺は大事そうに絵本を抱えた息子とともにレジに向かった。


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