デジタル本屋

セントホワイト

デジタル本屋

 時代はアナログからデジタルへ。

 そう言われて久しく、もはや時計もハンコも契約も交友も恋愛さえもデジタルに置き換わろうとしている。

 そんな中で、やはり書籍さえも例外ではなく電子へと置き換わるのは必然だろう。

 インクのニオイは無味無臭のドットの黒へと置き換わり、作者直筆の読み辛い字が誰にでも読みやすいフォントに変わる。

 時計のチクタクという針の音がいつの間にか消え去って、誰にでも一目で分かる数字へと変わったように時代の変化は著しい。

 本の重さもニオイも色落ちさえも現実的ではなくなった世の中で、それでも実体のあるものが欲しいと、触れたいと思っていた頃のことだ。

 次々と閉店して建物だけが残骸のように取り残され、いつしか全く違う店に変わってしまう昨今だからこそ、新しい本屋が生まれるのも時代の変化に対応したものなのだろう。


「こんな店が出来たんだなぁ」


 自動ドアが開き、店内へと一歩入れば今までと違う本屋の光景が広がる。

 いくつもの液晶ガラスには人気の漫画や小説のキャラが動いてはPVが流れ、また3D技術が使われた二次元コードを読み込んで電子書籍をカートに入れている客もいる。

 購入を喜ぶキャラの声や姿に照れる客や、それを見て驚く客。また以前から来ている常連の客は登録した名前を呼んでくれてオススメの本も紹介されている。

 女性も男性も関係なく、レジもカゴもなく、盗むような実体を持つ商品さえもない。


「ここが、ニューブックス」


 新しい本屋の形。遠隔から商品情報を飛ばすことで店舗には従業員すらいないとニュースで取り上げられるほどである。

 物珍しさに呆然としつつも客は入り、そして自分もまた奥へと足は進んでいく。

 足下から投影される映像が目の前で切り替わり、新規登録をオススメするキャラが現れる。

 今なら一冊無料で購入可能の文字が踊り、YESとNOの文字が弾むように動いていた。


「い、YES」


 空間に浮かぶ映像のYESボタンを押せば、壁際のディスプレイに案内されて簡単な情報を打ち込むことでスマホに登録完了メールが届く。

 そしてメールに記載されたURLをタップすれば、ストアからアプリがダウンロードされニューブックスがスマホに入る。

 そしてそこには、自分だけの店員キャラクターが創造されるのだ。


「いらっしゃいませ、ニューブックスへようこそっ! お客さまっ!」


 あぁ…………まったく。こんな店舗も悪くない。


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