カップル棚大作戦

丸子稔

第1話 カップル棚大作戦

 昨今の電子書籍ブームの煽りを受け、俺の経営する本屋『菊池書房』は年々、目に見えて客が減っている。

 十五年くらい前に現れた電子書籍は、年々幅を利かせ、現在はもう無くてはならないものになっている。

 また、若者の本離れも重なり、菊池書房は連日、閑古鳥が鳴いており、このままでは存立自体、風前の灯火だ。


 俺はこの状態になるまで、手をこまねいていた訳ではない。

 これまで様々な企画を考え、それを実行してきた。

 まず最初に考えたのは、『面白いポップを書いて、客の目を引かせる作戦』。

 普通の文言だとインパクトに欠けるため、俺は様々な用語を駆使してポップを作成した。

 そのうちの、いくつかを紹介しよう。


『笑い過ぎたせいで、この本を読み終えると、腹筋が八パックに割れていました』

『この本を読めば、親に勘当されても平気なくらい感動します』

『無人島に一つだけ持っていけるものがあるとすれば、私は間違いなくこの本を持っていきます』


 無論、これらは全部嘘だ。

 というか、読んですらいない。

 それが客にも伝わったのか、この作戦はあまり効果を得られなかった。


 次に考えたのは、『ドリンクを用意して、客を引き寄せる作戦』。

 それにより客の数は増えたが、ほとんどがドリンク目当ての冷やかしだったため、この作戦は早々に断念した。


「松田君、何かいい作戦はないかな?」


 中々思うようにいかず、大学生のバイト店員に訊くと、彼は「実は前々から考えていることがあるんですけど」と、意味深長に言った。


「ほう。じゃあ、その考えを聞かせてくれよ」


 松田君は、その具体案を聞かせてくれた。


「おおっ! その作戦、大いにだな!」


「でしょ?  じゃあ早速、実行しましょう」


 


 三日後、俺は『菊池書房』を『菊池カップル書房』に変更し、ある方法で他店と差別化を図った。

 それは、名付けて『自分のお気に入りの本を持ち寄って、読み合おう作戦』。

 具体的に言うと、客は自らが気に入っている本に、手書きのポップと年齢の書いた紙を添えて、当店に持ってくる。

 例えばそれが女性なら、その本は通称カップル棚と呼ばれる棚の女性欄にジャンル別に置かれる。

 男性はその棚の中から気になった本を購入し、その本が気に入れば、後日当店に自分のお気に入りの本を持ち寄り、俺はその本を相手の女性に引き渡す。

 その後、女性がその本を気に入ると、俺は男性の連絡先を彼女に教え、めでたくカップル成立という訳だ。


 この作戦は見事に功を奏し、カップル棚は連日大盛況となった。

 付き合う前に、既にお互いの趣味が合うことが分かっているのが、その一因だろう。

 このカップル棚のおかげで、ネットに取られていた客が再び足を向けるようになり、『菊池カップル書房』に変更してからの一ヶ月の売り上げは、先月に比べて倍僧となった。


「店長、出だし好調ですね」


「ああ。これもすべて君のおかげだよ。これからも、いいアイデアがあったらどんどん出してくれ」


「はい。それより店長、さっきカップル棚に自分の本を置かれてましたよね?」


「えっ! ……はは。なんだ、見られてたのか。でも、既婚者もOKというルールだから、別に構わんだろ?」


「ていうか、そのルール作ったの店長ですよね? 僕は独身限定にしたかったのに。まさか、自分も参加したいから、そのルールにしたんじゃないでしょうね」


「何言ってるんだよ。君も人が悪いな。はははっ!」


 松田君に図星を突かれ、俺はもはや笑ってごまかすしかなかった。


   了


 


  


 

 

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カップル棚大作戦 丸子稔 @kyuukomu

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