書籍巡栞は書店員である。

山岡咲美

書籍巡栞は書店員である。

「あの~」


 お子さんづれのお母さんが私に声をかける。


「はい! なんでしょうか?」


 私は運んでいた五、六冊の本をライトノベルコーナーの平積みの本の上に置きそのお母さんの話を聞く。


「あの、娘が本を買いたいと言ってるんですがどれを選んで良いのか分からなくて……」


 お母さんの後ろに隠れる様に小学校中学年くらい小さな女の子が隠れる様にこちらの様子をうかがっている。


「ライトノベルをお探しですか?」


「……さあ」


 お子さんの様子を見るとチラチラとライトノベルコーナーの書籍に目が行っている。


 最近興味がわいたって感じだ。


 時期的に読書感想文って事はなさそうだし、もしそうならお母さんが「……さあ」なんて言わない、そもそもそれなら課題図書があるはずだ。


「お嬢さんはどんな作品がお好みですか?」


 私は後ろに隠れている本来のお客様、つまりは本が欲しいとお母さんに言った女の子の方に膝をおり、目線を下げて話しかける。


 少女は何かを思い浮かべてる様子だが、視線はライトノベルの棚をフワフワ移動するばかりだ。


「特定の作品のご希望がないなら、有名な作品がいいかもしれませんね」


 私は平積みの書籍に手のひらを向けて話を続ける。


「こんな感じに[アニメ化決定!]とか[売上No.1]とか帯についてる書籍は有名な作品ですし、そういった作品ならお友達とも話題にしやすいですよ」


 ……でもそれだけじゃ視野が狭くなりすぎるかも?


 せっかく本に興味をもってくれたんだ、間口は広い方が良い!



 私は眼鏡の奥で目を光らせる。



「あとは本のイラストで選ぶのもアリですよ、ライトノベルのイラストは作品の内容を表しますから、イラストが気に入った作品なら文章も気に入る可能性が高いですね」



「そうする?」


「…………」



 お母さんの問いに女の子はうつ向いたままだ。


「お嬢さんはライトノベルを読むのは初めてですか?」


 読んだ事無いの? は少し失礼な質問かもしれなけれど仕方がない。


「ええそうなんです、なんだかイラストのついた小さい本が欲しいらしくて、でも私はそういうのに詳しくなくて」


 お母さんの影で女の子は今にもここから立ち去りたいって感じになってる……。



 このままだと本の事を嫌いになっちゃうかも?



「初めてお読みになられるなら、読みやすい本が一番ですよ」


 私は思い出す、初めてライトノベルを買った時に何を買った?


「そうですね、例えば見たことがある映画やアニメの原作小説なんかがおすすめですね、映像作品として見たことがある小説ならキャラクターや背景が想像しやすいですし、初めての方でも読みやすいですよ」


 私は女の子に微笑む。


「わかば、そうする?」


「…………」


 女の子、わかばちゃんは言葉には出さなかったが希望が叶ったようで、恥ずかしそうにうなづいてくれた。


「では何かあったら、また声をかけてください」

 私は平積みの上に置いていた本を持ち上げて二人に会釈えしゃくをしてその場を立ち去った。


 私がずっと見ていたんじゃ買わないで帰る選択がしずらいだろう……。



 私は本屋で働いている、私の仕事は本と人をつなぐ仕事だ。


 私、書籍巡栞しょせきめぐりしおりは本と本を読む人が大好きだ。



 そしてあの女の子、わかばちゃんが嬉しそうに本を持ち帰る姿を忘れない。



 書籍巡栞は書店員である。

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