丘を越えて

赤城ハル

第1話

「はあ……、はあ……」

 私は立ち漕ぎでペダルを漕ぎ、自転車で坂道をのぼっていた。

「しん……ど……」


 最近本屋が減った。

 それは以前から言われていた読書離れ問題だけではなく、電子書籍やネット通販が大きな原因だろう。

 駅前の本屋が閉店して、国道沿いの大型書店も閉店して、近くの本屋は丘を二つ越えた向こうにある隣の市のモール内の大型書店となった。徒歩なら距離はあるが自転車ならさして苦ではない。

 ──そう。距離は。

 問題は坂だ。丘を二つ越えた先。つまりそれはのぼり坂が二つあるということ。

 だから本を買うためだけに汗かくのは割に合わない気がする。

 なら通販で買えばいい。そう思うだろう。

 でも私の住んでいるところはネットで買うとどんなに早くても2日はかかる。

 それじゃあ駄目。

 私は今、読みたいのだ。

 どうしても続きが気になるのだ。

 すると皆は「購買に時間がかかるなら電子書籍で読めばいいのでは?」と思うだろう。

 けどスマホでは小さくて読みにくいし、それに実物感が欲しいのだ。

 時にはここから読んでみたいとか、そういうのは電子書籍にはできない。

 あれは最初か続きか、ページ数の選択でページが表示される。

 あと、漫画だと見開きができないのも電子書籍の欠点だ。

 だから私は実物の本を求めて、汗をかきながら坂をのぼる。


 そしてモールに辿り着き、自転車置き場に自転車を停める。

 モールへと歩き始めると汗が急に出てくる。

 歩幅を短くして少し息を整え、額の汗を拭う。

 今日は休日のため大勢の客が出入り口から出たり入ったりしている。

 モール内に入ると涼しい空気が……なかった。

 でも外の気温よりかは幾分涼しく、大型書店に着いた頃には汗も引いているはず。

 私は他のお店に目を向けず、大型書店へと足を向ける。

 休日のためか人は多く、私は人の間をくくり抜けて進む。

 が、少し気になることがあった。

 大型書店に向かうほど人が減っていた。

 大型書店は本だけでなくゲームやビデオ、トレーディングカードゲームの販売、そしてレンタルサービスを行っている。

 休日はトレーディングカードゲームの大会まであり、賑わっているのだ。

 だから本来は大型書店に近づくほど小さい子供からが目につくはず。

 だから人が少ないのは不思議だった。

 その原因は大型書店に辿り着いてわかった。

 シャッターが降りて、その前には看板が立てられていたのだ。

『改装リニューアル 下記の期間中は改装作業のため休店とさせていただきます』

「……まじかよ」

 私はスマホを取り出し、ネット通販で目的の本を購入した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

丘を越えて 赤城ハル @akagi-haru

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説

夢散歩

★15 現代ドラマ 完結済 1話