番外編 ~ Tea breaker ~ あるいは、デスサイズな茶宴

The your god size ?

 height: 99㎝

 weight: 19㎏

 B-W-H: 39-39-39

 hair: moon white

 type: bratty




今は昔の物語

今は昔の物語


かつてそらに誕生し

ういなる姫神ひと柱

われら導き救わんと

神々統べる

風となる

風となる


かつて此の世を治めし

まったき神々八柱はちはしら

ういしき風と相容れず

八頭八尾の

竜となる

竜となる


かくて此のみ争いし

八と一つの九頭竜

されど多勢に抗えず

姫神敗れて

贄となる

贄となる


かつて此の地をおとないし

異邦が荒神ひと柱

贄が姫神に情けあり

八頭八尾の

竜を討つ

竜を討つ


今は昔の物語

今は昔の物語



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「元気してるかなぁ、スーサ」

 直に会うの、もう千年ぶりだよぉ。あんときは、家にも入れてくんなくってさ、おいら悲しかったよぉ~

「でも、今日は招待だから大丈夫だもんねぇ。ふへへ……」

 部下の死天使長ピリエルが、お茶会の参加者募ってるって聞いてさ。スーサ主催だったら、そりゃおいらも行かなきゃだよねぇ。

「神に二言はありません。……だよねぇ、スーサ」

 森ん中の道を歩いてくと見えてくる、オリエンタルな門。屋根の黒タイルが木漏れ日に輝いてて、ミステリアスにステキだよ。カワラって言うんだってねぇ。

 家もスーサの故郷の様式らしいし、見てるだけでワクワクするよぅ。木造なのは、この辺のログハウスも同じだけどさ、造りがスゴい繊細だよねぇ。はぁ……

「おいらも、一緒に住まわせてくれよぉ~」

 そしたらさ、おいらスーサの赤ちゃんいっぱい産むぅ。最低、百万人。

「ぐへへへ…… じゅるっ」

 て、よだれ垂らしてたら嫌われんだろ。おいらのバカ! ほら、もう門の前だし…… 身だしなみ整えてさ。オリエンタルに呼びかけるぜぇ。

『たのもぉ~』



「ふわぁあ 誰さんなのです?」

 ホウリィは、テーブルを引きずる手を止めて、門の方を見た。

「おいら、ユマラ。よろしくな!」

 門をくぐってズカズカと、遠慮なく庭に入ってくる美少女。足下まで伸びる白髪に褐色肌、完璧なバランスの顔に生意気そうな瞳が赤く光る。純白のフリルドレスに包んだ体は華奢で、ホウリィよりもさらに小さい。身長は百センチほどだろう。

「はわぁ ……ゆまら さん」

「そうそう」

 初対面の相手に怯えるホウリィに、歩み寄るユマラが人懐っこく笑う。

「ああ…… こわくない、恐くない。招待されたんだよぅ、お茶会」

「ふにゅう そなのですか…… ようこそなのです」

 ホッとしつつも、人見知り発動中のホウリィ。おずおずモジモジするその様子に、ユマラはキュンと薄い胸を突かれてしまう。

(かわいぃぃ! ……じゅるり)

「きっ 君ぃ、名前? 名前は?」

「ホウリィ…… なのです」

「ふむ…… 聖なる、聖なるかな。最高の名前だねぇ」

「はぅうう ありかと…… です」

 少しは打ち解けたのか、可愛らしい笑顔を浮かべるホウリィ。

 お餅みたいにぷくぷく愛らしい顔、オレンジ色のふわふわ髪に垂れウサギ耳、クリクリ動く茶色い瞳。身長百十センチほどのふくよかな体に、ふわふわなメイド服。

「何してんの? テーブル運んでんの? 手伝おうか? ねぇねぇ」

「はひぃ お願いするのです」

 はにかむ様子がまた、いじらしくて、ユマラは発情しかけてしまう。

(最高かよぉ! ウサギ娘ぇぇぇぇ……)

 感極まりつつも、なんとか自重するユマラ。何か小さく唱えると、手も触れないのに彼女の長い白髪がうねうねと動き、後頭部でシニヨンに纏まる。

「はわぁあ 髪の毛、しゅごいのです」

「へっへぇえん、凄いだろ。さあ、テーブル運ぼうぜぇ」

 六人掛けの丸テーブルは、おチビさん二人の手で危なっかしくも、ゆっくり運ばれていく。テーブルの下で、ユマラの発情した男根がフリルドレスのスカートを持ち上げたが、ウサギ耳の少女には見えていない。

(ぅうう…… 押し倒してぇ 孕ましてえぇ)

「スンスン…… 何か匂うのです」

「うっ きっ 気のせいだろ。んんっ ……おいら、お茶会って久しぶりだぁ」

 あわてて誤魔化してみても、ホウリィは何の疑いもなく、愛らしく笑いかける。

「みんなでお茶会、きっと楽しいいのです。うふふ……」

「そうだなぁ アハハ……」

 処女の無邪気な笑顔に魅せられ、男根はますます堅さを増していった。



「これはもう、運びますね」

 配膳台に並ぶスウィーツを指し、そう問いかける美少女。濡羽色のショートヘア、透きとおる白い肌、鋭い切れ長の目に、黒い瞳。身長百三十センチの細くしなやかな体に、青色のセーラー服を身につけ、今日はパステルピンクのエプロン姿。

「うん、お願~い。チエ」

 オーブンに向かっていた美少女は、振り向いてそう答えた。お団子に纏めた金色の髪、透きとおった青い瞳に白い肌、身長百二十センチの華奢な体。可愛らしいピンクのフリルドレスをたすき掛けで腕まくりした、パステルブルーのエプロン姿。

「スーさんのお料理の腕、さすがですね」

 チエは、ピーラッカやプッラを皿に盛り付けて、盆に載せる。

「ありがとう。でも、リニューアル出来たの、チエが教えてくれたおかげだよ」

 スーサがそう言って見渡す台所は、江戸時代かよとツッコみたくなる半土間に、かまどや水瓶、石の流し台が並んでいる。かと思うと、板間には近代的な流し台に水道の蛇口、IH式らしきレンジにオーブンまで備えているという、チグハグな光景。

「かまど、まだ要ります?」

「かまどで炊いた方が、ご飯おいしいのよ」

 まだ、使っているらしい。

「そうですね」

 チエは無表情に淡々と、ツッコむこともなく盆を運ぶ。

 畳を敷き詰めた座敷に入ると、ちゃぶ台の上に所狭しと並ぶスウィーツと軽食。開け放たれた障子の先に濡れ縁があり、庭は日本風の庭園造り。その庭が、茶会の会場となる。家の中を見れば、和室ばかり十数室の平屋造り。無駄な装飾もなく華美ではないが、森の中の一軒家とは思えない立派なお屋敷である。

 もっとも、これだけ和風の家を構えておきながら、当の主人はゴスロリ風のフリルドレスを好んで身につけているとは、神の趣味も解せぬものであるが。

(招待客は三人なのに、こんなに必要かしら?)

 事前の連絡によると、茶会の客は三人。死天使長ピリエルと部下の伝令天使パヌ、あと一人はピリエルの上司にあたるシリエルという天使らしい。

 もちろん余った料理は、ホウリィとチエにお土産に持たせようというスーサの先輩心もあるし、天の国で食物が腐るはずもなく、作りすぎても問題はない。

(ここが終わったら、ホウリィ先輩を手伝いましょう)

 会場設営はな少女三人ではなく、招待客にやらせるとスーサは言ったのだが、張り切り過ぎたホウリィは一人で走って行ってしまったのだ。

 庭の方を見てみると、大きな丸テーブルを掲げてヨチヨチ歩く二人の姿。

「なに? ふたり…… いる?」

(一人はホウリィ先輩だけど、もう一人は…… もっと小さい女の子?)

 招待客の誰かだろうか? そうだとしても約束の時間には、かなり早い。

 と思っていると、小さい方がテーブル放ってウサ耳少女に抱きついた。女子どうしのハグにしては、何やら慌ただしい。嫌な予感に、チエの体が動き出した瞬間。

『ふっにぃい なにするますかぁああ!』



『何してんだ やめろぉおお!』

 悲鳴を聞いて瞬時に跳んで来たスーサが、ホウリィを組み伏せる不審者に怒鳴る。

「スーサ、ひさしぶりぃ~ ちょっと、このウサギ孕ますから待っててねぇ~」

『ユマ? ……止めろってんだろ! 私の友だちから離れろ!』

 ここまで怒りを表すスーサを初めて見る、動きかけたチエはペタリと座り込んでしまった。その視線の先、渋々立ち上がるユマラのたくし上げられたスカートの中から、小さな体に似合わぬ男根が禍々しくもそそり立っている。

「なんでぇ? これ見た瞬間、発情してんだぜこいつぅ。孕ましてだろ」

 ホウリィは今しがた挿入されかけた男根を凝視して、ガクガク震えて動くことも出来ない。涙をポロポロこぼしながらも、ひっしに訴えた。

「……ボク ボク、ご主人じゃないと いやぁ ゆまらさんはちがうのれすぅ……」

「えぇ~? 神の子種だよ、いらないわけないよねぇ」

 やはりこいつ何も解ってないと、今さらながらにスーサは呆れてしまう。

「体が発情したからって、誰でもいいわけないだろ。おまえ持ってんだから、そんくらい解れよ!」

 スーサの体が大きく跳躍して迫ると、ユマラもまた後ろに跳んで避けた。

「う~ん そだね、おいらのはスーサ専用だしぃ」

 ユマラが自らの陰嚢を持ち上げると、その下から露わになる女性器もまた熱をおび始めていた。スーサはホウリィを背後に庇うと、得物の日傘をたぐり寄せる。

「相変わらず、解ってて止めないんだな。ユマ」

「アッハハァ わかってるじゃん、おいらの旦那さまはぁ~」

ヴォフッ!

 答えを聞いた刹那、スーサの背から漆黒の翼が飛び出した。同時に、手にした日傘が一振りの剣に変わる。それはかつて八頭竜の首を落とした、天羽々斬剣あめのははきりのつるぎ本来の姿。

『この子たちに、手は出させない!』

バッササァアア

 スーサの変化に反応し、ユマラの背からも純白の翼が飛び出した。左右四対、ぜんぶで八枚の白翼と長い白髪をひるがえし、褐色の美少女は不敵に笑う。

「アハハ 全開じゃん。最終戦争 あ れ の続き、ここでやちゃうぅ?」

 漆黒と純白の羽毛が舞い狂い、空中で交わり、地に落ちて、重い衝撃波を放つ。せめぎ合う神の威が地を揺るがし暴風を起こす中、チエの小さな体が走り出す。

『それが、余が妻の望みならなあ!』

 荒ぶる神が、ふた柱。チエは衝撃波に怯み暴風に煽られながらも、ホウリィのもとにたどり着き、ブルブルと震え怯えるウサギ耳の少女を抱きしめた。

「うぁあ…… ちえぇ ごわぁいよぉお…… ぐしゅ」

「ホウリィ先輩、きっと大丈夫。スーさんを信じましょう」

「えらいよ、そのまま動かないで」

 振り向いたスーサが何やら唱えると、二人は半透明の泡に包まれる。



「でも、いいのぉ? お腹の子、流れちゃうかもよぉ~」

「…………くっ」

 強がってみても、否定は出来ない。身重でなければ遅れを取る相手ではないのだが、後悔するつもりも屈する気さえ、毛頭なかった。

(私もここまでかな…… おじ様ごめんね)

 子宮を撫でて、かつて愛を交わした愛しい我が子にわびる。たとえ刺し違え親子夫婦ともに果てても、背後の二人だけは守りきる。神に二言はないのだから。

「やっぱ、やめようよぉ~」

 猛然と神威をぶつけながらに、声だけは情けなく提案してくるユマラ。

「今さら泣きごとか? ユマ」

 隙は見せられないと、気を張りつめるスーサ。

「だってぇ おいら死ぬのヤだしぃ~ 旦那さま泣くのもっとヤだよぉ。もうお友だちに手ぇ出さないって誓うからぁ~ そんな怒んないでよぉお ぐすっ」

 最後には泣き始めるユマラに、スーサも剣をひく気になった。

「本当に誓う?」

「ちかうぅ 誓うぅう! やさしい旦那さまにっ!」

 甘えっぷりのあざとさはさておき、ここが収めどころとスーサは悟る。

「ちゃんと、反省しろよ。ホウリィにも謝りなさい」

「はーい!」

 急に八枚翼を引っ込めた妻を殺しそうになって、スーサも翼と剣を納める。軽い足どりで近づいたユマラは、抱き合う少女たちの前に膝をつき、神の頭を垂れた。

「ごめんなさい。もうぜったい乱暴しないから、安心してねぇ」

「ひぃ ぐしゅ ぁああうぅ……」

 謝られて恐怖が蘇ったウサギ耳の少女は、ただ震えて泣くばかり。そんなホウリィを抱きしめたチエの鋭い瞳が、土下座したままの神を冷たく睨みつける。

「あやまるくらいなら、最初からしないでください。変態さん」

「あうぅうう…… ごめんよぉ~」

 謝罪を否定されたうえ、変態認定されたユマラは滂沱の涙を流した。

「スーさんが許しても、私は許しません」

「そんなぁ もうしないからぁ……」

 最高神でありながら、ちっぽけな少女に睨まれ頭を上げられない

「? ……先輩?」

 チエを引き寄せたホウリィが、声も出せずに首をブンブン振っている。

「許すのですか? あんな酷いことをしたのに……」

「ぅあっ だめ、チエ…… あぶない」

 神に逆らう後輩を案じて、かろうじて声を絞り出すホウリィ。

「私のことなんか……」

「うっ ぐしゅ ちえぇ ……じぬ ぅう だめぇ ぐすん」

 泣きじゃくりながら頑なに首を振り続けるホウリィを、チエはギュッと抱きしめた。そして地獄に突き落とさんばかりに冷たい声を、神に向けて放つ。

「誰が許しても、私は許さない。でも今はもういいです、二度としないで」

「しない、しないよぉ ……ありがとう」

パシッ

「先輩に触らないで!」

「あうぅぅ ……ごめん」

 慰めようと伸ばした手を払われて、落ち込むユマラ。そんな変態から距離を取ろうと、チエは大切な先輩を優しく立ち上がらせて、後ずさっていく。

「妻が悪さしてゴメン、ホウ。チエも」

「スーさんは悪くありません」

「ぐしゅ ……すーさ、たすけ ありかと……」

 謝罪を口にするスーサと、それに応える少女ふたり。

「旦那さまぁ おいら、ちゃんと謝ったよぉ」

 一方の変態な最高神は、上目遣いにあざとく甘えてみせる。

「はいはい、えらいえらい」

 にへらっと笑う褐色美少女の白髪を、ガシガシ少し乱暴に撫でてやりながら、なんでこんなの嫁にしたんだろうと、スサノオは遥か遠い記憶をたどってしまう。



「ところで、おまえ何しに来たの?」

 スーサの足に纏わりついているユマラの、赤い瞳が嬉しげに光る。

「お茶会ぃい! おいらもお茶会ぃ」

「は? 呼んでないし、来るとか聞いてないんだけど……」

(聞いてたら、断わるけどね)

「だって言ったら、おいら入れてくんないだろぉ」

 それは自覚できているらしい。ということは、

「だからおいら、勝手に来たんだよぉ うへへぇ……」

(頭痛た……)

 スーサは、得意げに目を輝かせるクソガキを殴りたくなる。

「客のフリして結界あざむいたのか? 気配まで消して……」

「そうそう! おいら完璧だろぉ」

(完璧にストーカーだよ、ホントに神か? おまえ)

 さらに頭が痛くなる。

「おまえにも立場あるだろ。前のケンカの後、八竜会議で死天使堕ちの私とホイホイ会ってたらマズいから、こっちで気をつかってんの解るよね?」

「だってぇ~ さみしぃんだもん!」

(まあ、竜の巣に一人置き去りってのも、確かに酷だな)

 いっそ、八竜ぜんぶ消滅させるかと思うが、そうすると天地冥界はおろか、後ろの二人にも累が及ぶだろう。神といえど、しがらみからは逃れ得ない。

「何万年セックスレスだと思ってんの! 人間だったら離婚案件だよぉ」

「人間はそんなに生きないよ。ああ…… わかったわかった、来てしまったのは仕方ないね。一晩くらいなら泊まっていくといい」

 お泊まりの許可に「わっ」と、はしゃぎだすユマラ。実に嬉しそうだ。

「やったぁ! 旦那さま大好きぃ!」

「あ~ 知ってると思うけど。私は出産終わるまで、男に戻れないからね」

 常に両方持っているユマラと違い、スーサは都度ごとに体を新しく造らねばならない。性別はその際に、どちらかを選択することになる。

「じゃあ、じゃあ 今晩は、おいらの慰めてくれる?」

「乱暴にするなよ、お腹の子に障る」

 惚れられた、惚れた弱みで無下にもできない。

「おっけぇ おいらマグロにドンで、スーサにぜんぶおまかせぇ へっへぇ~」

「なっ! 言うな、恥ずかしい……」

 閨のことを具体的に言われて、思わずスーサは赤面してしまった。後ろの二人にも聞こえたと思うと、かなり気まずいではないか。

「はじめましてぇ おいらがユマラだよ ちゅっ」

 最高神はスーサの子宮の上から、お腹の子に祝福のキスを贈る。

「おいらぁ、パパになってあげるねぇ へへ……」

 ユマラと交わり神気を受けてしまえば、お腹の子に少なからず影響するだろう。新しい血が新しい風を起こし、世界を導くのかもしれない。

「天を統べたる最高神ユマラよ、余は汝を愛す」

 スサノオは愛しいクソガキな妻の唇に、やさしく優しいキスを落とした。



「それでぇ どっから片付けよかぁ?」

 神々の暴威に曝された庭は、酷い荒れようだ。ぺしゃんこのテーブルに薙ぎ倒された木々、芝生も池もボロボロで、屋敷の瓦まで吹き飛んでいる。

「……ここは私がするよ、ユマはお客さんのお出迎えね」

「え~ やだよぉ! なんかいっぱい来てるしぃ」

(気づいてて逃げようとしたな、このクソガキ)

「放っとくわけにもいくまい。ほら、いった行った」

「ぶぅ~ みんな殺っちゃえばいいのにぃ」

 爆弾発言に、溜息が漏れるスーサ。こんなクソガキ一人に任せていたら、世界は一分ごとに滅びかねない。だからこそ、古い神々も尊重すべきなのに。

「アホ、無責任なこと言うな」

「だってぇ~ おいら、スーサとふたりでいいよぉ。世界なんて知らなぁい」

 そこまで想われては、いじらくは感ぜられるが……

「私はね、今の世界が気に入ってるんだよ。できたら、壊さないでほしいな」

「……そのスーサの世界、おいらはいる?」

「当然。真ん中にね」

「うぇへっへぇ~ ちゅうぅ アハハ、行ってきま~す」

 デレデレなキスかまして、元気よく門から出て行くユマラ。大人しくお茶できたら、今夜は望むだけ可愛がってやろうと、スーサは誓った。

(さあて、片付けよりも大事な……)

 振り向くと、屋敷の縁側に腰掛ける少女が二人。チエがハンカチで、ホウリィの顔を拭いている様子が見える。スーサは歩いて行って、二人をギュッと抱きしめた。

「二人とも大丈夫? ホンっと、ゴメンね」

「私はなんとも。でも、ホウリィ先輩が……」

「はぅ ホウリィも、たいじょぶれす。ていそう守れた、スーサありかと」

 少しは落ち着いたホウリィと、まだ怒りが冷めやらないチエ。か弱く儚い友達ふたりを守れたことに、スーサはホッと息をつく。

「あのひと誰なんです? なんとなくは察せられますけど」

「ふにぃ ゆまらさん、恐い人なのれす?」

 はあ…… と溜息を漏らしつつスーサは、抱き寄せた二人の耳に囁く。

「あいつはユマラ。簡単に言うと…… 神様界のボスで私の嫁だよ」

「……あの変態がトップ? 世界終わってますね」

「はわわぁ お嫁さん? お嫁さんがホウリィをお嫁さん? ……にぃ?」

 ユマラの変態認定は譲れないらしいチエと、理解が追いついてないホウリィ。スーサは二人にも解りやすいように、かみ砕いて説明を重ねた。

「…………て、感じかな。とりま約束は守るヤツだから、よっぽどのことがない限り君たちに手は出さないと思うし。私が出させない」

 最後に安心させるように、濡羽色の髪とオレンジの髪を優しく撫でるスーサ。

「感謝を、スーさん」

「ありかと、なのです! ふひぃ」

 さて、と二人の服から埃を払ってみるが、けっこう汚れている。臭いに敏感なホウリィも、変態に体を触られたままじゃ気持ち悪かろう。

「二人でお風呂に入っといで、乙女は身だしなみが大事だよ」

「しかし、あと片づけをしないと……」

 庭の惨状は先に述べたとおり、とても茶会どころではない。

「あ~ これは、人力でやってても終わらないよ。私が魔法でちゃっちゃとやっちゃうから、気にしなくていいよ。チエ」

「……分かりました、では遠慮なくお風呂をいただきます。先輩行きましょう」

「うん チエ」

 ホウリィを守るように抱きよせ、チエは家の奥にある風呂場に向かう。

「着替えとか、何でも使ってね。なんだったら、フリドレ三姉妹になろ、ね」

「……はい。あっ、一つ聞いていいですか?」

「もちろん、何でも聞いて」

 チエは、ふと立ち止まり疑問を口にする。

「あの人…… 神さまは、元からあんなに…… 変なんですか?」

「……う~ん、鋭いねチエは」

 出来のいい教え子の質問はいつでも歓迎と、スーサは微笑む。

「すみません、失礼を」

「いいのよ。……そうね、私が初めて会った頃はもっとちゃんとしてたわ」

「そうですか、少し安心しました」

「あら、どうして」

「あのノリで世界が創られたのかと思うと、少し不安に」

(人間の認識って、そうなのよね)

 神が世界を創ったわけもなく、神や天使、天地冥界も人間と同じ自然発生物にすぎない。ただ、人間には観測できず認識外の存在というだけで、万能でもない。

「ずっとむかし大ゲンカしちゃって、それからかな? 世界滅びかけたし……」

(なんて迷惑な…… 夫婦喧嘩?)

 チエはホウリィとともに、先ほど荒れ狂った神々の暴威を思い出していた。そしてケンカの理由を、犬も食わないものと勘違いして興味を失う。

「喧嘩は、ほどほどにしてください」

「そうなのです、けんかはだめなのです」

「うん、そうする。……強く叩きすぎて、変になっちゃったのかもしれないしね」

(DV神か?)

 いつも優しいスーサからは、想像できないのだが。スーサの方も、叩かれすぎて変になったのかもしれないと思うと痛々しい。

「夫婦って大変なんですね。変なこと聞いてすみません」

「いいのよ、気にしないで」

 それでは失礼してと、風呂場に向かう二人。先ほど世界が滅びかけたことなど知るよしもなく、知る必要もないとスーサは思う。

「ふわぁ チエとお風呂、初めてなのです。洗いっこしよ」

「いいですよ、ホウリィ先輩」

 なおこの後に、発情がおさまらないホウリィをチエが慰めたり、チエの体と心の傷に驚いたホウリィがチエを癒そうとしたりと、二人の間で百合展開が花開くことになるのだが、それはまた別のお話。

「さあて、大変だわこれ。ぶん殴ってやろうかしら、あのクソガキ」

 スーサは庭の惨状に溜息をつき、物騒な呟きを漏らした。



「何してんのぉ? こんないっぱい来てぇ~」

「ユマラ様こそ、何をされているのですかな?」

 クソガキな最高神に尋ねたのは古い神が一柱、ヴァイナモイネン。彼を含む古き八神が並び立つ背後には、幾億という天使と精霊たちが森の木々の隙間を埋め尽くし、臨戦態勢で屋敷の結界を囲んでいた。

「お茶会だよぉ、みんな大げさだなぁ~」

「ご冗談を申されますな。世界の滅びが、かいま見えたのですぞ」

 緊張解けやらぬ面々に片手をヒラヒラと振り、ユマラは笑い出す。

「アッハハ ホントに殺り合うわけないじゃん。あんたたちバァかぁ~?」

「くっ ……とにかく立場を考えて、自重願いますぞ」

 ユマラは内心、おまえら隙あらば主神の力を削ごうと狙ってるだけだろうと笑い飛ばす。そんな八神の思惑とは別に、天使と精霊たちは「夫婦喧嘩のたびに世界滅ぼすなよ」と呆れつつも、かつて仲間の半数を失った神々の暴走を畏れていた。

「はいは~い んじゃあ、お茶会参加者以外ぃ解さぁ~ん」

「ユマラ様も、招待されておりますまい」

「へっへへぇ~ 旦那の茶会だぜぇ、嫁のおいらが顔出さなくてどうするよぉ」

 痛いところを指摘したつもりのヴァイナモイネンに、ドヤ顔で応えるクソガキ。

「ぬぅ………… シリエル、ピリエル、パヌ」

「「「はい!」」」

 ヴァイナモイネンは反論を抑えて、背後に控えていた三天使を呼びつける。

「此度の招待客は、そなたらのみ。心して行くがよい、我らは帰る」

「……仰せのままに」

「承りました」

(あああ…… 死にたくないぃぃぃ)

 シリエル、ピリエルは粛々と命に応じ、パヌも内心はともかく無言で頭を垂れた。既に細大漏らさずの報告と、緊急時の対処が言い含められており。ただの懇親会と思っていた下級天使たちは、過大すぎる任務に冷や汗が止まらない。

「は~い いらっしゃ~いぃ」

 ユマラが三天使を招き入れる傍ら、八神らと天使、精霊が引き上げはじめる。

「我らは戻ります。ユマラ様もどうかお早いお帰りを、決裁が滞りますゆえ」

「う~ん 明日には帰るよぉ。はい、ごくろうさん」

 ユマラは主人面で客を誘い、門をくぐっていく。後に続く三天使の最後尾、パヌの背に密かに張り付いていた精霊が結界に弾かれ、転げ落ちた。

「ちっ」

 配下の失敗に舌打ちしたのは、八神が一柱であるポホヨラのロウヒ。

 彼女は配下の精霊たちを森に配し、居残るつもりだった。主神たちの暴走に備えてか、あるいはカレリヤの七神とは、別の思惑を持っているのかもしれない。



 深いふかい森の中、和やかに佇む一軒のお屋敷。

 初春の陽光が木漏れ日となり、屋敷の庭先に優しく揺れている。

 ちち…… とさえずこずえを揺らす小鳥たち。

 散りかけの椿に、咲きむる梅花、出番を待ちきれぬ様子の桜花に躑躅つつじたち。

 池のたもとにニョッキリ顔だす、つくしんぼう。

 素朴ながらにも美しく、よく手入れされた日本庭園。

 屋敷と池のあいだ、芝生の上に西洋風の丸テーブルに椅子が七脚、サイドテーブルが一つ。いずれも木なりの素朴な造りで、和風な庭にあっても違和感はない。

 いっぽうで屋敷の修復は手抜きのまま、瓦が剥がれ飛んだ屋根は板葺きとでも、主人は騙るつもりであろうか。その主人がもとに二人の少女が集い来て、待たされていた客たちも、ようやく茶席へと招かれる。



「旦那さまのぉ となりがい~いぃ ぶぅうう」

「だめだよ、主賓は主人の向かい」

 スーサの隣りに座りたがるユマラを、丸テーブルの向かい側に座らせた。その左右の椅子をシリエルとピリエルに奨めておき、後輩二人を庇えるようスーサの左にホウリィ、右にチエを座らせる。そうして両者の境界線に、パヌが窮屈そうに座った。

「スサノオ様、此の度はお招き頂き感謝を申し上げます」

 ぐだぐだなユマラに代わり、シリエルが招待の礼を述べた。ピリエルとパヌも深く頭を垂れるが、頬杖をついたクソガキは、ただデレデレ笑っている。

「ようこそ余の庭へ。……誰かさんのせいで、ゴタゴタしてゴメンね」

「だぁれぇ? そのバカぁ」

 天使たちが何とも言えずただ俯く中、ユマラがひとりボケかます。

(((あんただよ!)))

 内心はげしくツッコみながらも、口には出せない天使たち。かわりに、

「おまえだよ、ユマ」

「えっ おいら? そっかぁ~ ごめんねぇ~」

 スーサがツッコんでみるが、このクソガキは、空気は読めても気にしないらしい。相も変わらずデレデレ笑いながら、スーサの顔を覗いている。

「お茶をいれます」

 冷たく無表情なチエの声。ついで席を立つと、サイドテーブル脇の鞄から茶葉を取り出す。ちなみに服装はスーサのコーディネートで、パステルブルーのフリルドレスにお洒落なレース柄のエプロンを着けている。

 ホウリィはオレンジ色で、スーサがピンクのフリルドレス。ユマラの純白のフリルドレスも合わせて、幼けない少女四人の装いが茶席を華やかにを彩る。

 天使たち三人は揃って、ワンピース風の正装らしい。

 テーブルの上には、各々のティーカップに取り皿、木製のカトラリー。軽食のピーラッカにビスケットやプッラ、フルーツの皿。中央には、クラウドベリーの手作りケーキ。神の手料理に馨しい紅茶の香り、心づくしのおもてなし。

「どうぞ」

「ありがとぉ~ ……はむぅ うまぁい!」

 チエが主賓から順に、各々のカップに紅茶を注いでまわる中、ユマラが不躾に手を伸ばしたかと思うと、テーブル真ん中のケーキを素手でちぎり取って頬張った。

「こら! よしなさい、行儀わるい」

「だってぇ~ おいらの大好物ぅ」

 注意されてなお、ケーキを引き寄せるユマラ。スーサは呆れ、ナイフを手にする。

「ひっ!」

 緊張が高じていたのか、ビビったシリエルが短い悲鳴を漏らした。

ザクッ ザクザク ザクッ

 ユマラの手に半分ほど残し、クラウドベリーケーキをざっくり切り分けるスーサ。そのまま各々の取り皿に、ひと切れずつ分け入れる。

「皆の分がなくなるだろ。独り占めは神げないよ、ユマ」

「おいらのケーキぃ…… ぐすっ」

 指に付いたクリームを舐めながら、涙を滲ませるユマラ。

(やっぱり、一本ぜんぶ喰うつもりだったな。こいつ)

「また作ってあげるから、今はそれで我慢なさい」

 そのが千年先か万年か分からぬところが、存外に神も哀れであろうか。

「ホント? やったぁ!」

「ユマラ様、お手が汚れてしまいますよ」

 一瞬で泣き止んだユマラの手を、ピリエルが甲斐甲斐しくハンカチで拭く。可愛い頰っぺに付いたクリームも拭き取られ、小いさな手にフォークを握らされる様は、まんまファミレスで親に世話を焼かれる子供である。

「う~ん、お茶もいい香り。結構なお点前てまえだねぇ」

「そう、お加減はいかが?」

 皆に紅茶を注ぎ終えたチエが席に戻りながら、ユマラに冷たく返した。

「おいしいよぉ、スッゴくぅ」

 ユマラが紅茶を一口飲んで褒めると、各々がカップに手をつけて、めいめいそれぞれの褒め言葉を口にする。

「大変美味しゅうございますよ、チエ」

「はわわぁ しゅごいおいしいのです」

 スーサとホウリィに褒められると、チエは頬を染めてニッコリ笑う。

(おっかないけどぉ この娘もカワイイねぇ)

 初めて見る笑顔に、ユマラは「ほぅ」と溜息をついた。

「さあ、たいした支度もありませんけど、ゆっくりお召し上がりください」

 主人役のスーサが宣言すると、ケーキを頬張ったユマラ以外の者が、頭を垂れた。

 こうして神と天使らの茶会は、ぐだぐだと始まったのである。



「お茶会、よくやるんすか?」

「たまにね。……二、三人でお茶するのは、よくあるけど」

 伝令天使のパヌがふる話題に、スーサは気さくに応じる。

「庭もキレイで気持ちいいっす、いいなぁ」

「ありがとう。手入れが大変なのよ、誰かさんが荒らすから。うふふ」

「あはは たいへんすねぇ~」

(うひっ 誰か喋ってくださいよ~)

 沈黙に耐えられず、当たり障りのない話題で場を繋ごうとするパヌ。頼みの上司ふたりは、用意していた話題を切り出せず、料理の感想をモゴモゴ口にするのみ。

 ただ、それも無理からぬことだろう。一般的な会社組織で想像してみてほしい、降格された元重役と腹を割って話せると思って来た懇親会に、社長その人の降臨である。気まず過ぎて、口も重くなろうというもの。

「おかゆのピーラッカ ぅんまぁあ~」

 しかもその社長が、何を考えているか解らないこのクソガキである。下手なことを言って、世界の滅びを招いたと同僚や幹部に非難されては堪らない。

「そういえば、ユマは日本米好きだったわね」

「はわぁ にほんの、お米なのです」

 ホウリィはユマラに怯えながらも、茶会を楽しんでいた。人見知りながらも寂しがり屋なので、友だちと一緒の宴席などは、とても嬉しいのである。

「お屋敷の裏で、栽培されているんですよね」

 チエも言葉少なに身内と話すばかりで、対岸との溝が埋まる様子もない。

「ほよぉ しゅごいのです」

「凄くはないよ、普段の管理は妖精トントゥ任せだし、魔法でちょっとズルしてるからね」

「さすがっすねぇ」

 畏るべきを解さぬ、お調子者のパヌ。愚か者であろうとも、チエたちと天使らの会話の糸口にはちょうどよかろうと、スーサは思う。

「パヌには、いつも世話になってるね。あらためて礼を言うよ」

「え~ そうっすかぁ?」

 会話にのってきたというより、何も考えていないような疑問符。

「仕事中、照会への回答が早いからね。凄く助かってる」

「ああ、この前の「こいつら殺っちゃっていい?」てやつっすね」

「そう、おかげで邪魔なヤツらを即行で消せた」

 パヌの仕事が特に早いわけもなく、ただの社交辞令なのだが。

「へへへ、おやすいごようでさ~」

「ホウもチエも、仕事中に困ったら照会なさいね。ちゃんと答えてくれるわよ」

「はいなのです」

「はい。よろしくお願いします、パヌ様」

「よろしく任されました~ 何でも聞いてね~ へへへ」

 無害な愚か者は、おだてて使うに限る。扱いに困るのが老害どもだ。さて、向こうの二人はどうだろう?

「現場の調整が円滑なのは、良いですね」

 シリエルが会話に入ってくる、言っていることは当たり障りない。

「早いばかりが良いとは限りません、疑問に思ったらまず聞くことです。パヌもね」

 ピリエルからは、より具体的な助言。立場が現場に近いせいもあるだろう。

「対象にセックスを求められたら、応じなくてはいけませんか?」

ぶっ!

 あくまで真面目なチエの質問だが、天使たちは茶を吹き出した。どう答えるだろうとスーサは見守り、ホウリィが俯き、ユマラはイチゴを頬張る。

「え…… と、最近疑問に思いましたので、聞いたのですが」

 相変わらず無表情だが、頬が少し赤い。クールな彼女なりに恥ずかしいのだろう。

「そっ それは、なるべくなら…………」

「それは、あくまで自由意志です。あなたがしてあげたいと思うならしても良いし、そうでなければ応じる必要はありません」

 しどろもどろになるシリエルを遮り、ピリエルがきっぱりと答える。

「そうですよね、安心しました。ご丁寧に、ありがとうございます」

「いえいえ。せっかくですから、何でも聞いてごらんなさい」

 ピリエルが優しく微笑み、シリエルは部下に任せておこうと口をつぐむ。

「えっと アイスは、何個までおっけぇなのです?」

 勇気を出して、口を開くホウリィ。それでよりによって、その質問か? とはいえ、彼女にとっては大切なことなのかもしれない。

「……お小遣いの範囲なら何個でもかまいませんが、お腹を壊して仕事に障ってもいけませんね。普通は一個ずつにして、ご褒美で二個までにしましょう」

「はいなのです! うふふ……」

 こんな質問にも優しく答えてくれるピリエルと、実に嬉しそうなホウリィ。

(ここは幼稚園ですか? 実にくだらない)

 シリエルは、爆弾発言に続く子供のやりとりに、うんざりした。早く自らの出世につながる話にならぬかと、隣でプッラをパクつく最高神の方を見る。

「よかったすねぇ~」

 ヘラヘラと、調子を合わせているだけのパヌ。こっちの方が、よほど無害だ。

「肉ぅ おいら肉喰いたいよぉ スーサぁあ~」

「ティータイムに、肉かよ? おまえ」

 対岸との溝が埋まってきて安心しかけたところに、水を差してくるクソガキ。おまえを肉塊に変えてやろうか? などと物騒なことを考えてしまうスーサ。

「だってぇ~ スーサの料理ぃ ひさしぶりだもぉ~ん」

 この甘えっぷりは、認めたくはないが…… ちょっとカワイイ。

「はぁ、まったく。おまえ来るって聞いてたら、ミートパイくらい作ったのに…… しかたないね、夕飯に用意してたトナカイのシチューでも出すか」

「ステーキもぉ!」

「はいはい。他は…… 一人前でいいね」

 皆を見回して、注文を確認。スーサは、後輩二人を促して席を立つ。

「空いたお皿を下げちゃって、お茶うけも追加だね」

「はいなのです」

「はい、スーさん」

 主人側の三人が、皿を抱えて「失礼」のひと言を残して行く。ちなみに、テーブル上の軽食と菓子の大半が、ユマラひとりに喰い尽くされていた。

(ふわぁ ボクより小さいのに、どこに入りますたか?)

 ホウリィは、最高神の食べっぷりに、不思議そうに首をかしげる。



「これとこれ、あとシナモンロールも追加しよう、ピリが好きそうだったし」

「はいなのです」

「お料理も手伝います、スーさん」

 菓子を持たせて二人を戻そうとすると、チエが手伝いを申し出る。

「一人前だし、こっちはいいよ。それより……」

 チエを抱き寄せ、耳元に囁く。

「ホウをお願いね、大丈夫だと思うけど」

「はい、気をつけます」

 それからホウリィも抱き寄せて、かわいい後輩二人に言い含める。

「せっかくのお茶会だ。ピリは話せそうなヤツだから、何でも聞いてみるといいよ。その他のヤツらは…… まあ、仲良くなっといて損はないだろうし、うまくやんなさい。私も聞き耳は立てとくから、安心して」

「はい、お気遣いありがとうございます」

「はぅ うまくやるのです」

 スーサは、カワイイ後輩二人の頬に、軽くキスを落とした。

「がんばりな、ね。愛してる」

 茶席に二人を送り出し、台所に入ったスーサ。騒ぎの間も煮込みっぱなしだった鍋のフタを取り、中のトナカイ肉を菜箸でつついてみる。

「うん、もういいかな」

 まるでユマラのために用意していたみたいなのが、ちょっと癪に障るが…… まあいいと、気をとりなおす。ジャガイモも茹でてあるし、マッシュポテトも直ぐ作れる。リンゴンベリーも新しいのがあるし…… と、ステーキだ。

「これでいいかな。食えるだろ、あいつ」

 保管棚から出したトナカイ肉を、悪意を込めて超ぶ厚い塊に切る。塩胡椒をしながら、ふと思いついて冷蔵庫を漁った。

「夕飯には、寿司つくってやるか」

 冷凍ネタを解凍庫に移して、米も研いでおこうか…… などと、だんだん作業が増えていくあたり、普段は邪険にしながらも無自覚に、愛が深い。



「天使不足の解消が喫緊の課題でしょう」

 シリエルがクソガキ社長に、政治向きの話題を吹き込んでいる。要は、賢いアピールで幹部に取り立ててもらおうと、ボスに取り入っているのである。

(こんな席で、困った上司ですね)

 ピリエルは、同類と思われては堪らないと、会話から距離を置く。

「ふっ~ん そいでぇ?」

「解消には、大胆な人事が必要かと」

(最高神がこんなアホの子だったとは、ツイてるじゃない)

「たしかに、天使少ないすよね~」

 聞きかじりの受け売りを自説と思い込み、熱心に語るシリエルと、特に考えもなく追従するパヌ。ユマラは、退屈そうにベリーの粒を摘まんで口に運んでいる。

「管理職の兼任も悪しき慣習で……」

パシッ

「は?」

「うるさい」

 ユマラの平手打ちに面食らうシリエル。天使の端正な顔に、菓子の油やベリーの果汁がべっとり付いている。さらに、ピリエルが神に差し出したハンカチを無視して、シリエルの正装を掴むと、その美しい衣で両手の汚れを拭った。

「なっ! は? 何を……」

 ただただ、面食らうシリエル。そこに二人の少女が、何も知らずに戻ってくる。

「はいぃ お菓子、お待たせなのです」

「お茶も入れ直し…… ? 何をしているの」

 菓子の皿をテーブルに置いたところで、対岸の緊張した様子に気がつく。

「おまえぇ バッカぁあ! もう帰れよぉお」

「え? どうして…… あっ 今の話、難しかったですか?」

 自分の賢さがアホの子の逆鱗に触れたかと、救いようのない思い上がり。

「ぁあ アホォオ!」

「ひっ!」

 シリエルの椅子の背もたれに軽く跳び乗る、小っちゃな褐色美少女。大柄な天使の襟首を、二本の指だけでひょいと摘まみ上げる。

「んなぁこたぁ 言われるまでもねぇんだよぉ!」

「なぁあああああああ……」

 なぜ、持ち上がる? 身長で二倍近く、体重は三倍以上の体格差。物理を無視して、ベリーの粒を摘まむかのように軽々と、シリエルを池に放り込む。

バッシャーン バチャバチャ……

「んっなバカ、つける薬もねぇわ」

 ズカズカと怒りも露わに、池に向かうユマラ。その光景に釘付けになった少女たちに、ピリエルは手で逃げろとサインを送るが、二人は気がつかない。

「ごほっ ぶはっ ふぅ ……ひっ!」

 池から這い上がってきたシリエルを、乱暴に組み敷くユマラ。

「天使不足が喫緊の課題? じゃあ、天使が増えねぇ理由言えるかぁ?」

「え! へ…… どうしてでしょ……」

「はい、アウト」

ビッ ビーッ ビリビリ

「ああっ!」

 天使の衣が引き裂かれ、中性的な裸体をさらすシリエル。ほどほどの筋肉に滑らかな肌、小ぶりな乳房に股間には男根。尻を掴み上げられ、露わになる女性器。

「おまえらが、ガキつくらねぇからだろぉがぁ!」

 怒れる神はスカートをまくり上げ、自身の男根をシリエルの女性器に当てがう。

「ひっ 何を……」

「言ってわかんなきゃ おいらが手本見せるしかねぇだろぉ」

「ユマラ様、発言してよろしいでしょうか?」

 凶行の一歩手前、ピリエルの落ち着いた声。

「許す」

 静かに答える神と、救い主に縋るかのように見上げるシリエル。

「場所を改められてはいかがでしょう、ここはスサノオ様のお庭ですゆえ」

「スーサは気にしないよぉ したら、止めに来てるしぃ」

 二重に救いを断たれ、絶望するシリエル。

「失礼、出過ぎたことを申しました」

「いいよぉ あっ、もういっこ聞こうかぁ 誰か答えてよ」

 せめて少女らを避難させようと思ったところを、引き留められるピリエル。

「さっきの続きぃ 天使の多くは子を成さない、何故だぁ?」

 シリエルもパヌも答えられない中、ピリエルが躊躇いつつ口を開いた。

「役職の独占願望のせいではないかと」

「ふぅ~ん それってどゆこと?」

「……天使の寿命は長いものです。多くの天使は、長い時間を生きるなかで自らの地位を子や孫に奪われたくないと…… 無意識下の願望でしょうか」

「せいか~いぃ 君は賢いねぇ」

「恐れ入ります」

「ちなみに、君は産んでる? それとも孕ませてるぅ?」

「私はパートナーと二人で、この百万年の間に一万人は育てましたが……」

 その一言に、険しかった神の顔が優しく綻ぶ。

「えらいねぇ 祝福させてよ、パートナーと末永く幸せになっ」

「はっ 過分なお言葉を……」

 組み敷かれた上で部下を褒められても、シリエルは面白くないのだろう。

「子だくさんがなんだってんだ……」

「はぁ? 聞こえたぞぉ~ シリ!」

 無意識に小さく漏らした毒が、神の逆鱗に触れたようだ。

「え? はっ シリとは……」

「汝よりエルの称号を剥奪、只今より最下級天使シリと為す ……て、こった」

「……そっ そんなああ! 私が何をしたっていうんですか?」

 数百万年かけて積み上げたキャリアを一瞬で失う…… 哀れではあるが、その地位にあって何もしない、何も理解しないことこそが罪であろう。

「じゃあじゃあ ラストチャーンス」

 もう間違えられないと身構え、シリはアホの子の言葉を待つ。

「おまえは、何人子を成したか?」

「は? …………子などおりませんが」

「はい、スリーアウト」

ズプッ……

「いっ 痛い! 痛っ……」

 前振りもなく男根を挿入され、痛みに仰け反る。仰け反りながら(ツーアウト目はどこ行った?)などと、しょうもないことを考えてしまう、シリ。

「なんだぁ 初めてなんかぁ? …………悪かったよぉ、ごめんなぁ」

 処女かと察し、さすがに可哀そうに思う、ユマラ。

「……ちっ 違っ 濡れてないのに入れるから…… 痛っ」

パンッ! パンパンパン パン…………

「痛っ 痛た! そっ…… 痛たたたた……」

 ユマラは、気をつかって損したとばかりに、激しく腰を打ち付ける。

「濡らせよぉ 神が子種授けようってんだぜぇ、濡らさなきゃ失礼だろぉ~」

「そっ そんな無茶な……」

「おいらはぁ スーサに挿れてもらうとき、す~ぐ濡れるぜぇ」

 それは前戯あってのことだろうと思いつつも、恐ろしくてツッコめない。

グチュ ヂュッ チュクチュク……

 多少なりとも抽挿がスムーズになってきたのは、少しは濡れてきたのか、あるいはユマラの先走りのせいだろうか。

「まっ これきっかけに、子作りに励みなよぉ~」

「はぁ ……なんでそんな、天使の数にこだわり…… 今のままでも んっ」

パチュ クチュ チュ……

「アホぉ 手ぇ足りなくて、天も地も冥界も荒れまくってんの解かんね?」

「はぅ あっ そん…… な、考えもし…… ああっ」

 腰の動きが、単純なピストンから抉るような動きに変わる。

「……くぅううっ いいっ」

「うんうん、ここがいいのぉ? ……だいたいがさぁ、死者の魂だって、本来は再生の刻までじっくり癒し育てるものだったのにぃ、死天使に動員して数を埋めてるなんて現状ぉ、ありえないんだよねぇ~」

 説教は耳に入っているのか? いつしか、自ら腰を蠢かし始めるシリ。

チュプ ジュッ チュッチュッ……

「はぁ はぅ 考えもなく…… もうしわけ もっ んっ いっ」

「うんうん でもぉ、マジ自由意志だからねぇ。連れ合い亡くして操立ててるとかなら、強制はしないけどぉ。おまえは違うよね、愛より出世ってタイプだろ?」

 だんだん素直に受け入れ始める、神の言葉と愛撫を。

「ぅんっ ふぅ まこ…… と、そのとおり あっ んぁ……」

「うんうん 素直でいいねぇ。……ああ、おまえはぁどうなん? パヌぅ」

「は? ……じっ 自分っすか?」

 自分は無関係だろうと眺めていたところ、急に名前を呼ばれて慌てる、パヌ。

「そう、ついでだぁ おまえぇ、子を成したことあるぅ?」

 ついでなんて、とんだとばっちりと思いつつ、記憶を探るまでもなく……

「うっ 産んだのはないっす。でも、孕ませたのは…… たぶん、きっとあるかも」

「はい、フォーアウト。こっち来なぁ~」

(どうなってんだよ? そのカウントはぁ……)

 いつ、自分がアウト判定受けていたのか聞き返したいところだが、ヒラヒラと手招きする神に逆らうわけにもいかない。

「おまえはぁ ただ、遊びたいって口だなぁ?」

「…………はいっす」

 シリへの愛撫を続けるユマラの横に正座して、正直に答えるしかないパヌ。

「せっかくだ、シリのちんちん余ってっからさ、孕ましてもらえよぉ」

「「ええ!?」」



「産めよ 増やせよ 地に満てよ そして世界を救え 余が天使らよ」

 麗らかな、みどり溢れる庭。

 木漏れ日の中、まぐわい乱れる天使二人と、神の痴態。

「あっはっはぁ あんがい、いいっすねぇ ふぅん っん」

「はぁ パヌ…… くぅ あっ ユマラ さまぁあ…… あぅう」

「うんうん、愛し合うってステキだろぉ~」

 芝生に仰向けのパヌに覆い被さり、パヌの女を犯すシリ。その尻を掴み、シリの女に男根を突き入れる最高神ユマラ。三者三様の腰づかいがリンクし、快感の波を沸き立たせ、それぞれの体を駆け上がり、脳を蕩けさす。

パチュ パンパンッ クチュ チュク……

「んっ シリ先輩のちんちん、やばいっす ふっ 奥まで届い…… てっ ぃい」

「くっ はっ パッ ヌ…… イクっ わたし あぁ イクぅう ぅああ……」

「いけいけぇ~ おいらもぉ くぅ イクぜぇええ!」

 自らの男根を熱く締め付けられ、同時に膣奥を神のモノに抉られる。シリは男と女で同時に絶頂を迎え、ユマラも子種を解き放ち、パヌの膣も絶頂に痙攣する。

「「「っあぁあああぁああ!」」」

ビュビュッ キュン ビュービュー キュウゥ……

 三人同時に達し、注がれた子種が二つの子宮を満たす。余韻に感極まったシリとパヌが熱い抱擁とキスを交わし、ひと種付け終えたクソガキがもう一人を呼ぶ。

「ぉお~い こっち来て混ざらね? ひとりで発情してないでぇ ウサギ娘ぇ~」



(しまった!)

 チエは、神と天使の会話に興味を持ち聞き入ってしまい、その後の乱交に放心してホウリィのことを失念していた。そして今、後悔することになる。

「はぅう いやぁ ……れすぅ」

 ホウリィを見やれば、芝生にペタンと座り込み、敏感なところを押さえて真っ赤な顔で喘いでいる。神らの痴態にあてられ、自分で止められない本能的な発情。

「まんまじゃ 苦しいよぉ、孕んじゃえば落ち着くしぃ」

『やめて!』

 チエの絶叫に、ウサギ娘を気遣おうとしたピリエルの手も止まる。

「先輩…… 見ちゃだめ」

「ぅああ ちぃえ……」

 急ぎホウリィに走り寄って膝をつき、抱きしめて視界をさえぎる。次いで振り向くと、ニヤニヤ笑う最高神を睨みつけた。

「私たちに手を出さないと、スーさんに誓ったでしょう!」

「ハハ おいらは出さないよぉ~ 余ってるちんちん、これだしぃ」

 上の話も余所にパヌとシリは愛を語り合い、蠢く腰は二回戦を始めんとし。収まりどころのないパヌの男根がそそり立ち、先端から滴を垂らしていた。

(なんてヤツ!)

「ふぁうぅ ボク、いやぁあ…… ぐすっ」

 自分では押さえられない体の火照りに、震えて泣き出すホウリィ。守りたい、守ると約束したのに、どうしたら守れるのだろう?

「先輩をイジメるなら同じことです。今すぐ、それをやめなさい!」

「ええ~ やだよぉ あっ、君も交ざるぅ?」

 話しながらも、腰を動かすのは止めないユマラ。

 彼らの痴態にあてられたうえに、抱きしめた可愛らしい先輩の体の火照りに、チエの処女も濡れ初める。その事実が、常には冷静なチエを苛立たせた。

「くっ! ……先輩、目を瞑って耳を押さえて。そう、そのまま絶対動かないで」

「ふぁ ちえ?」

 ホウリィを後ろ向かせて、手を添えてウサギ耳を押さえさせる。本当は、抱いて逃げられれば一番いいのだが、チエの細腕には荷が重すぎた。

「大丈夫かい? ……何を」

 ピリエルの気遣いはありがたい。が、今は誰にも触れさせられない。チエはサイドテーブル脇の鞄を開け、愛用の得物…… チェーンソーを取り出した。

「……変態、ころす」



「! なっ やめなさい」

「止めるな!」

 ピリエルの制止をはねのける、チエの冷たい声。天使ですらない、臨時の死天使。その、ただの少女ひとりが、神に…… 世界に何をしでかそうというのか? 

シュィィィィィィ……

「「「えっ?」」」

 電動チェーンソーの軽い音に、二回戦目の快楽に夢中な三人も気がついた。

ズゥィィィ…… ギュァァアァアアア……

「アハハッハァ やぁ~るぅう~」

 うなじをチェーンソーに切り裂かれながら、ユマラは振り向き笑いだす。

「なっ 何が?」

「ひっ そりゃマズいっす!」

 下の二人も、神が殺られつつあることを悟って焦りだしたが、動けない。

(なんということを……)

 ピリエルは、世界の滅びの予感に呆然となり。ホウリィはチエの言葉を信じ、ただひたすらに怯え蹲る。

ジャァアアアァアア……

 神の鮮血が吹き上がり、白髪が舞い、肉と骨の欠片が芝生に跳び散る。

「あっ ばばばばぁばっばああ…… ひゅ……」

 口から盛大に血を吹きながら、笑い続ける…… 実に愉快そうなユマラ。

「うわわぁ ゆ ユマラ様!」

「ひっ ちっ 血ぃい」

 降り注ぐ血飛沫が二人の天使をパニックに陥れ、チエのブルーのフリルドレスを赤く染めていく。そうして切り放たれた神の頭が、芝生の上にゴロリと落ちた。

ジュンッッ ……シュィィィィ

「アーハッハッハハぁああ うけるぅうう…………」

 胴から切り離されて、なお笑い続けるユマラの首。いったいどういうことか?

「やっ やめてぇ でっべべ……」

「シリせんぱぃい ……あっ あっ ああああ!」

ギュィイイィイイイ………… ジュバッ バッバッバババ……

 悲鳴を無視して冷静に、シリに続けパヌの首まで切断しきった、濡羽色の髪の美少女。斬殺体三つをそのままに振り返り、血に染まった頬に優しい笑みを浮かべた。

「終わりましたよ、ホウリィ先輩。……うふふ」

「ふぁあ ちぇ ……ぐしゅ」

 ホウリィはふらりと立ち上がり、涙でグシャグシャな顔で笑い返した。

 その二人のあいだを、ピリエルが遮る。

「神殺し…… 娘、キサマなんということを!」

「罰は受けます。だけど今は、そこを通して」

「控えよピリエル、その娘に手を出してはならん」

 大罪人を捕らえんとするピリエルを、制止する声が庭に響いた。

「! ユマラ様…… ご無事でありますか?」

 首だけで、ゴロリと転がり喋る様が、はたして無事と言えるか?

「余は、その娘らに手を出さないと誓ったのだ、条件も期限も無くな。その誓いを、余に違わせる気か? 分をわきまえよ」

「はっ 出過ぎました、お詫びを……」

 ピリエルが避けると、チエはチェーンソーを捨て、ホウリィのもとへ向かう。

「ピリエルぅ こっち診てよぉ~ パヌとシリもねぇ~」

「はっ ただちに!」

 しょせん人の道具で首を落とされた程度、神や天使が直ちに死ぬわけもない。だが、回復に手当てと時間を要するところは、程度の差こそあれ人と変わらない。

「手をかけるねぇ~」

「めっ 滅相も…… 痛みますか?」

 首と胴の傷口を合わせてみるが、ズタズタな切断面が接合するわけもない。

「ぅん? かゆぃよぉ。おいらはいいからぁ そっちは生きてるぅ?」

「……生きはありますな、意識は分かりませんが」

 天使に、神ほどの回復力は無い。とりあえず傷口を合わせて、木の枝を応急の添え木とし、裂いた衣を巻いて固定していく。

「うんうん 生きててえらいねぇ~ 治癒魔法かけたろぉね~」

「私が、多少は使えますが」

 先の最終戦争の際、必要に迫られて習い覚えた技だ。

「へぇ~ やるじゃん。じゃぁ、そっち任せたぁ~ おいらはセルフでやるから」

「承知しました」

「そうそう、そいつらぁ 結婚するってよぉ~ いいよねぇ」

「なんと、それはめでたいことで」

 これも神の導きと思えば、案外クソガキとばかりは言えないかもしれない。もっとも、もちいた手法はとても褒められたものではないが……



「にぅ チエ、だいじょぶなのれす?」

「わっ! ホウ先輩、汚れますよ」

 返り血の汚れを気にするチエに、ギュッと抱きついてくるホウリィ。

「にぅう えらいひと逆らう、チエあぶない…… ぐすっ」

「そんなこと…… 問題ではありません。それにもし危なくなったら、スーさんがきっと助けてくれますよ。心配するいらないです」

 先輩の涙を拭いてあげようと、出したハンカチが血で汚れていた。逆にホウリィがハンカチを出して、チエの顔や手の返り血を拭いてくれる。

「先輩、ありが…… んっ」

 ホウリィのふっくら愛らしい唇が、チエの薄めの唇をふさいだ。

「んん ちえ、しゅき…… しんじゃやぁ なのれす」

「……ん 私もです」

 小さな舌先が、ホウリィの唇を割って侵入する。素直に受け入れ、舌を入れ返すホウリィ。覚えたばかりの大人のキスを交わして、少女たちは愛し合う。

 細い指先がホウリィの背を伝い下り、ふっくら可愛いお尻を越えて、スカートの上から敏感なところを探り当てた。

「ぅあ! ふぅうん」

 スカートと下着越しとはいえ、すでに発情し濡れていたところを優しく刺激され、ウサギ耳少女の体がビクンと跳ねる。切なそうにチエを見つめる、茶色い瞳。

「はぁ ……かわいい」

「ありかと っん…… ふぅう」

 大人のキスを交わしながら、敏感なところを優しく刺激してもらって、ついには軽く絶頂を迎えたホウリィ。ビクンビクン震えながら、ギュッとチエにしがみつく。

「あぅん あぅう ちえぇ しゅきぃい……」

 ギュッと抱き返したチエは、ウサギの耳をちょっと持ち上げ、そっと囁く。

「あとでもっと、愛してあげます。だから、今はこれで」

「ふぁうぅうう……」

 真っ赤になって、はにかむホウリィ。優しく微笑み、口づけるチエ。

 もはやこの二人、カップルと呼ぶべきか。



「お肉お待たせだよ、ユマ …………?」

 注文の料理を持って台所から戻ったスーサ、庭の惨状に目を点にする。

「…………どしたの? これ」

 治療に忙しそうなピリエルは捨て置き、抱擁を解いた少女らに尋ねてみる。

「ご存じなかったと…… 聞き耳は立てると、言ってませんでした?」

「聞いてたよ…… でも初めのほうは、君たちに危害なさげだったし……」

 チエの反問に、珍しく曖昧に答えるスーサ。「よいしょ」と、手にした料理二つをテーブルに置く。うち一つの異様さに、目をひかれた。

「何です…… これ?」

「ステーキだよ。これ焼くのに集中してて、気づけなかったかも…… ゴメン」

 それはステーキというには巨大すぎる、大きなホールケーキほどの肉塊をこんがり美味しそうに焼いたもの。ホウリィが目をパチクリさせ、チエが溜息を漏らす。

「これ、食べられる人います?」

「ユマなら…… ああっ、正直に言うとイタズラ入ってます。重ねてゴメンって」

(スーさん、こんなイタズラするのね。夫婦喧嘩の原因って……)

「はぁ しゅごい、すてーき。レシピ教わりたいのです」

 ホウリィの発言に、自分が喰わされはしないかと、チエは不安になってしまう。

「あとでね。とりあえず、何があったか教えてちょうだい」

 やっと本題に戻り、チエの目から見た惨劇の経緯が語られた。

「………………です。無茶なことをして、すみませんでした」

「正直に話してくれてありがとう。謝るのは私のほうだよ、ぜんぜんフォロー出来てなかったし…… やらかしはぜんぶ、私の嫁の仕業だからね」

 ホウリィを守るためとはいえ、怒りまかせに凶行に走ったことは、やり過ぎだったとの自覚はあった。迷惑をかけていないかとの、不安も。

「奥さん殺してしまって、本当にすみません」

「いいって、いいって。ほら、殺しても死なないし、あの変態は」

 さらりと、旦那にまで変態認定されてしまうユマラ。聞こえているだろうか?

「はぅ 変態さん。三人でするの、びっくりしますた」

「本当、そうですね。スーさんは………… 奥さんとそういこと?」

「しない、しないよ。私は一対一じゃないと、ダメなんだ」

 夫婦でも、変態仲間と思われては心外なのだろう。ここは強く否定する。

「やっぱり、変態はあの人だけですね。安心しました」

「そうだよ、変態はユマのクソガキだけだよ」

「はわわぁ 変態さんは、こまるのです」

『だぁれが、変態だってぇええ!』

「あなたです」

「おまえだよ!」

「ゆまらさんです」

 やはり聞いていたクソガキが抗議しても、全認定されてしまう。

「ひどいなぁ……」

 傷つけられたユマラが、むくりと起き上がる。

 繋がりそこねた首が、ボトリと落ちてピリエルを慌てさせたが、首なし胴体がヒラヒラと手を振り制止する。それから白髪を掴んで立ち上がると、買い物帰りのスイカのごとく神の頭をぶら下げて、テーブルへと歩いてくる。

「ふぅあぅぅ……」

 怯えるホウリィと、警戒体勢のチエ。スーサが呆れる中、テーブルに「ドン」と頭を置いた首なし胴体が、ゆったりと椅子に腰掛けた。

「うわっ ステーキ! マジこれ、おいら食べていいのぉ!」

「……ああ、そうだよ」

 スーサも自席に座り、テーブルに顎をつけて妻と目線を合わせる。

「やたぁ! お肉ぅ~おに喰ぅ~ へへへ……」

「食う前にやることあるだろ、おまえは」

 しゅんとしたユマラは、名残惜しそうにステーキからホウリィに視線を移した。

「意地悪してごめんなさい」

「にぃい いじわるも乱暴も、だめなのです。めっ」

 素直に謝り、ウサギ娘に可愛らしく叱られて、最高神も形無しである。

「うんうん、もうしないよぉ。だいたいさぁ、恋人いるって知ってたら、おいら最初からしてないしぃ~ マジでごめんなさい」

 恋人と言われてホウリィとチエが真っ赤になり、スーサが首をかしげた。

「のど渇いたよぉ~ お茶が飲みたぁ~い ……です」

(首だけで飲めるの?)

 ツッコミはともかく、反省した様子のユマラに紅茶をいれるべく、サイドテーブルに向かうチエと、くっついてくるホウリィ。置いてあったウサギのぬいぐるみをチエが指さすと、気がついたホウリィが小さく囁いた。

「もういいのです。カタキは、チエがとってくれますた。ありがとう」

 ウサギ耳の美少女のキスを頬に受け、濡羽色の髪の美少女は「ホッ」と安心した。



「どうぞ」

「ありがとぉ~」

 皆のカップに紅茶を注ぎ終え、チエとホウリィも席に着き、離席中の天使三名を除いて再開したお茶会。返り血まみれの二人に、巨大ステーキと生首がシュールだ。

「いただっきまぁ~す」

 首なし胴体の手が器用に、テーブルに鎮座するユマラの口にカップを運ぶ。

「ユ~マ、行儀がわるい」

 旦那に叱られてカップを戻すと、頭を掴んで肩の上の定位置へ。だが、載せてすぐ繋がるわけもなく、ゆらゆらと前後左右に揺れている。

「は~いぃ これでいい?」

「……まあ、少しはマシか」

 ユマラは揺れる首を片手で押さえ、あらためてティーカップを口に運ぶ。

「うんうん、やっぱりいい香りだねぇ 美味しいよぉ ……チエちゃん」

「ありがとう。……あの、ひとついいですか?」

 チエの問い掛けに、片眼を瞑ったユマラが頭を揺らして首肯する。

「先ほどは、殺してしすみませんでした。罰は私だけに、先輩には……」

「罰なんかないよぉ~ おいらも、あいつらも死んでないしぃ 大丈夫ぅ~」

 みなまで言わせず否定して、さらに続ける。

「それにぃ 君らのこと知りたくて、おいらから誘ったんだしねぇ」

「……私を、私たちを測るために?」

「そうそう、君に興味わいたんだよぉ~ 業を負わされし娘よ」

「私…… ですか?」

「見たとこ、君の魂って傷が付きすぎてんだよ。本来なら廃棄処分のはずなのに、何故か転生候補として生かされ、今は死天使だぁ。不思議だよねぇ、知ってたぁ?」

 やはり気がついたかと思う、スーサ。

(まあ、ユマなら今さら廃棄しろとは命令すまい)

「知っています。お迎えのとき、どちらがいいか選ばせてくださいましたから」

(スーさんに)

「ふむふむ、それで生きるほう選んだの。何でぇ? すっごい苦しいよね、今からでも消えれるよ~ そのほうが苦しくなくてぇ いいんじゃなぁ~いぃ」

 おまえ、チエに死ねと言ってるのかと、ホウリィが頬を膨らませて睨む。

「……わたし、私は…………」

 止めるべきか? いや、幾多の魂を導いてきた今だからこそ、再考の機会だとも言えよう。如何な選択だろうと、チエに選ばせてあげようと見守る、スーサ。

「生きます、絶対に」

「苦しいよぉ 苦しんで苦しんでぇ 転生なんてぇ それこそ永久に……」

『私は生きる! わたしは あいつの思う私ではない!』

 神の言葉を遮る、チエのかつてない、スーサしか聞いたことのない絶叫。

『縛りつけられて 薬に浸けられても 切り刻まれて 喰われても 喰い尽くされても 細胞の一片 分子の 粒子の一欠片ひとかけらさえ残らなくたって あいつの思うとおりに死んでなんかやるもんか! 世界の終わりまで苦しみ続けてもいい 私は生きる!』

 茶席に暫し、沈黙が流れる。

「ふむ…… 健気なる、健気なるかな」

 ぽつりとユマラが洩らす、神の言葉

「よい! 気の済むまでいばらの上を歩むがよかろう。されど、汝に倦み迷い疲弊あるときは、いつでも夫と余を頼りとせよ。そこな、ピリエルでもよかろう」

 そう言いつつ、繋がっていない首を、手を使って百八十度まわす。

「聞いたかピリエル、良いな?」

「はっ 御心のままに」

 ピリエルの首肯を確認すると、そのまま首を百八十度まわして、濡羽色の髪の少女に笑いかけるユマラ。チエも微かな笑みを返し、礼を口にする。

「お気遣い、感謝します」

「うんうん、ガンバんなぁ 頑張るぅ子にはぁ、祝福あげなきゃねぇ~」

 そう言って自らの白髪を一房ちぎり取り、テーブルの上に。それが、まるで意志を持っているかのように自らを編み込んでゆき、やがて一本の細いリボンとなる。

「はわぁ 髪の毛、しゅごいのです」

「へへぇ~ しゅごいだろぉ~」

 気に入ったのか、ホウリィの口調をちょっと真似るユマラ。リボンのほうは、驚いて見つめていたチエの濡羽色の髪の中へ、スルリと入っていく。

「あ! えっ、何これ?」

「プレゼントだよぉ~ いいねぇ、カワイイじゃん」

 リボンは勝手に結び目をつくり、チエの髪を可愛らしく飾る。仄かに青みを帯びた、ユマラの白髪で編まれたリボン。その、月光を宿したかのような月白色がチエの髪の艶やかな濡羽色を引き立て、切れ長で鋭い瞳を柔和に見せる。

「よく似合っていますよ、あとで鏡をご覧なさい」

「はぅ! ちえ、しゅっごいかわいいのです」

 スーサとホウリィに褒められると、戸惑っていたチエも落ち着いて微笑む。

「ありがとうございます。こんな…… いいんでしょうか」

「頑張るっ子への祝福だぁ 遠慮なく持ってけぇ ハハハ……」

 案外、根はいいヤツなのかもしれない。クソガキムーブさえなければ。

「あっ そうだ、銘は「神ころしりぼん」にしよぅよぉ かぁっこいぃいい~」

 何だそのネーミングはと、苦笑いを見合わせる三人。テーブルの向こうで、得意げに大笑いするクソガキが、いまだ繋がらない首を愉快げに揺らす。



「それはステーキというにはあまりにも大きすぎた、大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。それはまさに肉塊だった」

 巨大ステーキを前に、ナイフとフォークを手によだれを垂らす、クソガキ。

「なんなの? そのセリフは。あと、食べるのは首が繋がってからにしなさい」

「やだい! 熱いうちがぁ 旨いんだよぉ~」

 ユマラはスーサの忠告を拒否して、巨大ステーキに挑む。が、

ボテッ

 バランスを崩して、頭をステーキの上に落とした。

「ほら、言わんこっちゃない」

「うわ~んっ 食べる! 食べる! 食べゆぅ~ スーサのステーキぃ~」

 首なし胴体が駄々をこね、ユマラは頭だけでステーキに噛みつく。仕方ないなと、スーサがテ-ブルをまわって来て、首を定位置に戻して接合部に手を添えてやる。

「ありがとぉお! いただきま……」

 お礼もそこそこに食べ始めるユマラ。さすがに小さめに切り分けてはいるが、次々に頬張っては、凄い勢いで小っちゃなお腹を満たしていく。

「うっまい 旨いよぉ~ おいら幸せだよぉ~」

「ほらほら、喉に詰まらせんなよ」

 スーサは、首に手を添えユマラの介助を続ける。その手が仄かに光を帯びているのは、治癒魔法を発動しているのだろう。優しい旦那さんである。

「スーさん、あちらの方達は大丈夫らしいです。あと二時間もすれば歩けると」

「そう、よかった。ありがとう、チエ」

 ピリエルに紅茶を届けて戻った少女の報告に、ほっと息をつく。どうなることかと思っていた茶会も、死人も出さず無事に治まりそうである。

「おかわりはぁ~? 次は魚がいいなぁ~」

 まだ喰うのかと、さすがに呆れるスーサ。夕飯の食材まで食い尽くされそうだ。

「だ~め、手が離せないの解るだろ」

「私が、何か作りましょうか?」

 チエの提案に、「悪いね」と首肯する。

「はぅ お料理、ボクも手伝うです」

「お魚は妖精トントゥに頼んだから、台所の裏で受け取ってね」

「はい。行きましょうか、先輩」

 手を繋いで行く恋人たちを、スーサが優しく見守り、ユマラは肉に喰らいつく。



「いい子たちだねぇ~ もぐもぐ……」

「そうだよ、いい子たちなんだ」

(おまえもな)

 いつでもどこでも誰に対しても、クソガキムーブかましやがるのは別にして。天地冥界の荒れ様を誰よりも憂い、真剣に取り組んでいるのは認めるべきだろう。

 八神たちが縄張りや権力争いに耽り、天使たちは職分の範囲で思考を停滞させる。せめて、自分だけは理解して味方してやらねばなるまいと、スーサは思う。

「ステーキぃ ごちそうさまぁ~ こっちは、トナカイスープだぁ」

「はぁ~ 本当に、どんだけ食べるんだよ」

「スーサの料理なら、おいら無限に食べれるよぉ~」

(なに?)

 このままだと無限に作ることになると悟り、さすがに止めることにする。

「次で最後にしなさい、夕飯が入らなくなる」

「は~いぃ これも、うんまぁあ~い」

 まったく、クソガキムーブさえなければ、無限に甘やかしてやりたいのだが。

 かつて、八神の攻囲にあっても天地冥界を憂い、異邦神である自分に助力の見返りに嫁になると申し出た、気丈な姫神への尊敬と愛ゆえに。

「ねぇ 旦那さまぁ~」

 木漏れ日が移ろい、心地よい風が森の香りを運ぶ庭。

 睦まじく語り合う夫婦が、ふたり。傷を負った妻の首に手を添え、治癒魔法を施す異邦神のスサノオと、背中を愛しい夫にあずけている最高神のユマラ。

「ん、どうした?」

 妻の甘えた声に、優しく応じる夫。

「ううん…… お茶会、またやりたいなぁ~ って」

 最愛の妻の言葉にスサノオは穏やかな笑みを浮かべ、ユマラの馨しくも心地よい月白色の髪に顎をそっと触れ、優しく囁いた。

「そうだね、またいつか」


Fin



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