第60話 神隠しの世界へ
「昨日、研究室を訪れたという配信者達は、関係ないんですか?」
警察署の一角で、
「ああ、多分な。あいつらは、そんな事をするような連中じゃなかった」
「それは、あなたの印象でしょう? 事実がそうとは限りません」
「いや。ぶっちゃけ、犯人は分かってるんだ」
ソウは、一枚の小さな封筒を取り出した。
「研究室に、これが残されてた。部屋の真ん中にあったんだ、郵送で届いたとかじゃない」
アズサは、ソウから封筒を受け取ると、中身を取り出して、見た。
「これは……!」
その内容は、「アルティメット・カップ」と呼ばれるDレーシングの大会の、招待状だった。
「『アルティメット・カップ』……勿論アズサも、聞き覚えがあるだろ?」
驚いて目を見開くアズサに、ソウは言う。
「聞き覚えどころか、毎日見てる名前ですよ」
アズサが答える。
「『アルティメット・カップ』、別名“神隠しレース”……住所まで記されたものが、ニナさんの攫われた場所に……?」
「いつかは、行こうと思ってた。ただ、今までは場所が分からなかった」
ソウは言う。
「大会の場所だけは、関係者に訊いても口を割らなかったからな。それをわざわざ教えてくれたって事は、メッセージは一つ」
「『来い』って言ってるんだ。“神隠しレース”の方が、俺に」
「行ってはいけません、罠です」
アズサが釘を刺す。
「他に残された物は? とにかく、警察の調査を待って――」
「それじゃ、手遅れになるかもしれない」
「いいですか、一条さん」
アズサは、ソウを睨む。
「あなたはレーサーとしては一流です。でも何かあって、戦いとなったら、あなたはただの一般人です」
「言いたい事は分かるよ。けど、この招待状には何も書かれていない。警察に通報したら、ニナがどうなるかも」
「一条さん」
「俺は行く。大丈夫、わざわざ俺を呼んでるんだ。俺を殺すのが目的とは考えにくい」
「なら、せめて私も同行します」
「駄目だ」
「一条さん!」
「アズサが警察の一員だって事は、闇レースの配信で知られてる。一緒にいたら、警戒されてニナと会えなくなるかもしれない」
「……じゃあ、なぜ私にこの情報を? 『俺に何かあったら仇を取ってくれ』って言いたいなら、お断りですよ。死なないで下さい」
「違うよ。『情報提供』さ」
「『情報提供』?」
眉を潜めるアズサに、ソウは話を続ける。
「別に、俺が戻るのをアズサが待つ必要は無い。この情報を元に、警察は警察で、摘発の方法を考えてくれりゃいい」
「だったら、最初から警察と一緒に考えればいいじゃないですか、どうするかを」
「苦手なんだよ。警察とか、そういう組織と足並み揃えるの。そもそも“神隠しレース”の場所が分かった所で、警察は動くのか?」
「……!」
「後援する企業の力が強かったら、警察は直接、手が出せない。闇レースの時がそうだった。だから、潜入なんて回りくどい事をしたんだろ」
「まあ……それは今も、危惧していた所です」
「だったら、今回は俺が先に潜入するようなもんだ。アズサは、最初から警察として“神隠しレース”と戦う事を考えてりゃいい」
「……止めても無駄みたいなので、説得はもうやめます」
アズサは、小型の通信機をソウに渡した。
「それは、携帯の電波が届かない場所でも魔力で通信が可能です。それに、傍受の心配も無い、警察特性の物です」
「……いいの? そんないい奴、貰っちゃって」
「貸すだけです。絶対、生きて返しに来て下さい」
「さて、今の機体は修理できてないけど……向こうで機体、貸してくれるかな」
招待状を見ながら、ソウは一人歩く。
「こいつら、ふざけやがって」
ソウの表情は、怒りと決意に満ち溢れていた。
「ニナは取り返す。絶対に」
レース界の闇の権化たる“神隠しレース”。
一条ソウがここへ乗り込み起こす事件は、裏社会のみならず、表社会のレース界をも変容を促す、転機となる。
<お知らせ>
この続きは、新作品「ダンジョンカートFREEDOM~(以下略)」で更新していく事にしました。
主な理由は「新たな主人公の追加」等、新しい要素もあり、改めて物語をスタートさせるのが良いか、という結論に至ったためです。
レースの新展開にご期待下さい。なお、新作品でも相変わらずソウは速いです。
ダンジョンカートDX(仮)無能整備士、レーサーになり成り上がる ~敵車の追尾攻撃は全部避けるのが普通だと思っていました。実はオレ以外、誰もできないらしい ぎざくら @saigonoteki
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