消灯時間
倉沢トモエ
消灯時間
「やややや?」
トコトコさんが目を覚ますと、そこはいつもの部屋ではなかった。
「しいっ」
あちこちから注意もされた。
「そうじゃった。病院じゃったのう」
まなちゃんの幼稚園の友だち、ひなちゃんが足を折ってしまった。
そのお見舞いに、黒い犬のぬいぐるみ、トコトコさんもいっしょに行ったのだ。
「わしが明日までお供をするのじゃった」
ここはひなちゃんの枕元。静かな寝息が聞こえてくる。
「静かにしなきゃ。せっかくシノブお姉ちゃんが絵本読んで寝かせたのに」
隣のベッドのサイドテーブルにいる、バスケットボールに叱られた。体中、応援メッセージだらけだ。
「面目ない」
トコトコさんの使命は、ひなちゃんが安心して眠ることだ。
明日の朝、出勤前のお父さんが様子を見に来てくれる。それまでひなちゃんのそばにいるのだ。
「でもひなちゃん、手術もがんばったよ」
向かいのベッドから、折り紙のペンギンが小さい声で言った。
「『ひなちゃんもがんばったから、こうちゃんもがんばる』って、こうちゃん言ってたよ」
「ほう」
トコトコさんは、同じ病室の三人、励ましあっているのだな、と感心した。
それからずっと、夜の病院は静かだったのだが、突然表が赤い光でまぶしくなり、廊下も少し騒がしくなった。
「こわい」
こうちゃんが目を覚ましたみたい。
けれどトコトコさんは、ぬいぐるみ。じっとしていることしかできない。
「大丈夫だよ」
シノブお姉ちゃんの声がした。
「だいじょうぶだよ」
トコトコさんのすぐ隣で、ひなちゃんの声がした。
またしばらくして、病室は静かになった。
* *
朝になって、こうちゃんのおばさんと、ひなちゃんのお父さんが様子を見に来た。
「夜は、大丈夫だった?」
ひなちゃんも、こうちゃんも、シノブお姉ちゃんも、
「大丈夫」
と、言った。
トコトコさんと、バスケットボールと、ペンギンの折り紙は、うん、大丈夫だった、と、こっそりつぶやいた。
消灯時間 倉沢トモエ @kisaragi_01
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