第4話 取巻き令嬢になる前の伯爵令嬢の話
今やジュリア様の良きお友だちの令嬢という地位を固めた私だが、弟が生まれるまでの間、家業を継がせるべく、父から服飾販売の英才教育を受けていた時期があった。
周りの子より、少しだけ賢かった私に目をつけた父は、お前は跡取りになるのだといって色々な仕入れや販売といった商談の場へ私を連れまわした。私も私で、家にいる時とは違う働く父の姿に憧れ、大好きなお絵かきも外遊びも我慢して父の後ろについて出かけていた。通常の現場では、商談内容を聞かせるため、私をわざわざ近くの席に座らせるなど大人の世界へ容赦なく同席させた父だったが、同年代の子どもがいる家へ商談に行く時だけは違った。
「いいかいリリー?子どもの君にしかできない特別ミッションを任せよう」
なんて、ニヤリと笑う父に課されるお題はいつも同じ。"必ずその家の子どもに気に入られ、良き遊び相手になってこい"というものだった。今にして思えば、人脈作りの練習と子ども服の販路拡大を狙っていたのだろう。当然、商談帰りの馬車の中では、どういった方法で仲良くなったのか、あるいはなれなかったのか、次はどうすれば距離を縮められると思うのか、を報告させられていた。
そして、この課題に幼い頃の私は見事にハマってしまった。同年代の子どもと遊べる楽しさが一番の理由ではあったが、「相手にとってよきお友だちになる」という目的のため、試行錯誤を繰り返すという作業自体も性に合っていたようだ。すぐに私はメキメキとちびっ子人脈を作りあげ、どんなに気難しい上流貴族の子どもとも1度遊べば、すっかり"仲良し"になれる処世術を身につけた。
そしてそれは"リリーとまた遊びたいから呼んでほしい"や"お友だちのリリーみたいな服を着たい"という子どもからのおねだりとして、親たちへと伝わった。"子どもが喜ぶなら"と親である上流貴族たちが、いつもより少しだけ多く商談に呼んでくれることが増え、僅かだがトラス家の売上に貢献し始めた。"仲良し大作戦"の成果は私にとって思わぬ形で現れた。
もちろん父にとっては狙い通りであったが、予想以上でもあったのだろう。売上に繋がってきたこともあり、父はいつも大変熱心に、数々の"仲良し大作戦"へ試行錯誤する私の話を聞いてくれた。時には褒めたり、一緒に次の一手を考えてくれたり……。そして最後にはいつも、同じ話を繰り返した。
「リリー、これだけは覚えておいて欲しい。商売のために仲良くなる訳じゃないんだよ?仲良くなった人のためなら、どんな服や小物が似合うか、何を勧めるか、あるいは勧めるべきじゃないかを自然と一生懸命考えられるだろう?そして、それが実った結果として、はじめて売上になるんだ。まずは信頼される人になることが一番大切なんだぞ。君はまず、目の前のお友だちに信頼される人になりなさい」
と、父は必ず真剣に諭してくた。最初は何故そんな当たり前のことを言うのか分からず、はい、と返事をしていた。しかし次第に、お友だちと仲良くなることが、我が家の売上に繋がることを理解してからは、その言葉に救われていた。商品が売れた時、お金のために仲良くなった訳じゃないのにって思うこともあったから。それでも、父の話を思い出し、父と私の積みあげた信頼が相手から返ってきたのだと理解できた。きっと、帰り道の父との時間もこみで、私はあの課題が好きだったのだと思う。
そして当然、初めて伺ったサフィール公爵家での商談でも、アルベルト様との"仲良し大作戦"は決行された。ところが、その当時、出会った同年代の誰よりも賢く、慎重で、礼儀正しかった彼に私は見事、玉砕してしまったのだった。
未来の王太子妃の取巻きをしていたら王太子の取巻き腹黒イケメン(初恋の人)と両片想いになっていました…!? @yodakanostar
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