第2話 未来の王太子妃は取巻き令嬢と仲良し
「本当に助かったわ。連れ出してくれてありがとう!リリー様!」
無事、元通りの髪型と顔色に戻ったジュリア様と教室をでて、第二温室へ向かう道中。ジュリア様は本当に嬉しそうに、ニッコニコと隣のリリーへと笑いかけてくれた。
「とんでもない。私はただお化粧直しにお誘いしただけですから。お茶会デートが続行できるのは、サフィール様のお力です」と苦笑すれば、やはりご機嫌なジュリア様は更に笑顔を深くする。
「うふふ。わたくし貴女のそういうスマートで謙虚な振舞いにいつも助けられているわ。今日も殿下と私のために時間を作ってくれてありがとう」
いえいえそんな、お力になれてなによりです、と静かに微笑み返す。実はこのお茶会はリリー発案のもと、中等科の頃より定期的にひっそりと開催されていた。名目としては、「未来の王太子夫婦とその友人たちによる親睦を深めるお茶会」だが、実際は「とんでもなく奥手のお二人に自然と会話をさせようの会」なのだ。
中等部にあがり、王太子様とジュリア様は順調にお互いを異性として意識し始めたまではよかった。ところが、ジュリア様限定でポンコ…慎ましくなってしまう殿下と、同じく初恋の殿下に舞い上がってまともに目も合わせられないジュリア様。王宮庭園で2人っきりのデートを開催しても、ろくに会話も続かなかったらしい。どうにか助けて欲しいと、その頃既に一番の仲良しとなっていたリリーは、ジュリア様直々に「一緒に来てほしい。」と泣きつかれたのだった。
大切な友人をなんとか助けたいが、常識的に考えて、呼ばれていない王宮のお茶会に邪魔者が乗り込むことはできない。そこで、放課後に学院の庭園で別途、王太子の友人も呼び、少人数でのお茶会を開いてはどうだろうかとジュリア様に提案したのだ。お互いの友だちがいれば、話す機会が増えて相手に慣れたり、共通の話題が増えたりして、王宮のデートのためになるのではないか、と。
婚約者と会う機会も増えて、自然な会話にも繋がる一石二鳥のこの提案に、ジュリア様も王太子様も飛びついた。王家と侯爵家の大人達も、奥手な二人に手をこまねいていたのだろう。翌週には「親睦会」の開催が決まっていた。さすが王家。
ジュリア様には秘密だが、この提案にはほんのちょっとだけ私の下心も含まれていた。その頃、既に王太子様の友人兼お目付役に落ち着いていた初恋の人、サフィール・アルベルト様がお茶会の「お友達」の席に座ってくださる可能性が高いと踏んだうえで提案したのだから。実際問題、たかだか伯爵令嬢の私が王太子様の個人的なお茶会に参加できるなんて、ジュリア様のはからいがある今回限りだろう。それならせめて、身分違いと諦めいていても、一度でいいから一緒にお茶してみたいなって乙女心が過ってしまったのだ。もちろん神様に誓って、王太子カップルの親交を深めるため、友人を介した親睦会が最も有効だと思っての提案というところに嘘はない。ただ少し、アルベルト様の顔がよぎってしまったのは確かで後ろめたい。……ごめんなさいジュリア様。
結果から言うと、私の妄想通り、王太子・フランツ様のお供はアルベルト様で、初めてのお茶会はアルベルト様と私の取巻き二人によるアシスト合戦が功を奏し、無事にお開きとなった。夢のような時間をありがとうございます…としばらく王太子カップルに心の中で平伏しつづけていたのは内緒だ。
ところが、私の思惑に反し、微笑ましい理由と沢山の人の下心満載なこの奇妙なお茶会は一度では終わらなかった。奥手二人はなかなか大人達の思うようにいかなかったのだ。お互いの気持ちには全く気づかず、周りにはバレバレの関係を見守る会は定期開催されるようになり、気がつけばもう三年近く経っていた。
一度のお茶会の参加人数は四〜八人ほどで、参加者はお二人の「良きお友達」の中からその日に参加できる者がやってくるスタイルで現在は落ち着いている。とはいえ、だいたいお目付役のアルベルト様とお茶会発案者のリリーはそのアシスト力からかほぼ固定メンバーとして扱われ、その他もだいたい皆、顔馴染みになっていた。
本来ならば、そうそうたる上位貴族の皆様と同じテーブルに着くなんて伯爵令嬢としては、身に余ると二回目以降は辞退を申し出たが、やはりアシスト力を評価されたのか、ジュリア様からの強い要望で私はすっかりお茶会固定メンバーの地位を得てしまったのだった。役得万歳‼︎
「サフィール様のおかげ、ね。うふふ。本当にリリーは彼に夢中ね。さっきも、二人でこっそり目配せしたかと思えば、息ピッタリって感じで温室でのお茶会の準備が始まって!幼馴染ってやはり素敵ね」と、少しぼうっとしていた私への急な揶揄いに、訂正のため慌てて隣のジュリア様に顔を向ける。
「ジュリア様!サフィール様とは幼い頃、何度かお庭で遊んでいただいただけですから!あと、そのお話は秘密って言ったじゃないですか」
私の10年来の初恋は、そのたった数度のお庭遊びから今まで未練がましく引きずっている。そして、どうやら途中で私の気持ちが、ジュリア様にすっかりバレてしまったことも固定メンバーになれた要因なのだろう。奥手な友人は、私との恋バナが大好きなのだ。
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