第11話 幸運な宿泊
「また来たいわね!また企画してね!楽しかったわよ!」
イベントの解散式では三姉妹や高校生グループ以外の参加者は、恐ろしい思いをしていないこともあって、満足顔でイベントの成功を喜んでいた。
三姉妹は解散式が終わると七未子や高校生グループを呼び止めた。
「ねえ、占い師さん、よかったら、うちのホテルに泊まらない?」
「そりゃ、泊まってみたいですけど、肝心かなめの泊まるお金などありませんわ」
「そんなこと気にしなくていいわよ!私たちを占ってくれればその占い料でいいのよ!」
「えっ!それで泊まれるんですか!それは、願ってもない幸運に出くわしました!ぜひともお願いします」
七未子は躍り上がるように喜んで三姉妹に感謝した。
「宇慈ちゃんも今日、うちのホテルに来ない?あなたもいっしょに占い師さんに占ってもらったらどう?」
「わたし、もう、この人に占ってもらったんです。今はあまりいい時期じゃなくて二十歳まではいいことないって言われたのよ」
《あら、そうだったの!当たってるわね!》
市子は心の中でほくそ笑んだ。
「それはがっかりね!じゃ、ごちそうするから、ゆっくりして行ってよ!そうだ、今日はたいへんな思いをしたから、高校生グループのみんなも招待するわよ!」
「やったぞ!蚕子んちのホテルに泊まれるなんて夢みたいだ!」
勇太が宙に浮かぶほど飛び上がって喜ぶと、迷っていた宇慈子もしぶしぶ承知するしかなかった。
三姉妹のホテルは豊かな緑を背にして、静かに流れる台川を目と鼻の先に臨む、広い敷地に建っていた。
「まあ、どうしよう!とびきり豪華なホテルじゃないの!こんな私なんかが気安く泊まれるホテルじゃないわ!こんな場所へただで泊まれるなんて夢みたいだわ!」
まさに、りゅうとしたつくりの建物に足を踏み入れた七未子は、うやうやしい口調で本音を吐いた。
「見ろよ!すげえぞ、あのシャンデリア!」
ふいにさまざまな調度品が目に入った高校生たちは目をまるくして館内を見回している。
「さあ、まずは温泉につかって汗でも流してから……そうね、高校生くんたちは食べ放題がいいかな!」
ざっくばらんなもの言いで市子の口からくつろいだ言葉が出たが、宇慈子だけはむっつりして冷ややかなそぶりを見せていた。
「ええと、占い師さん、いや七未子さんだったわね。あっちで部屋のキーを渡すから、ちょっと来てくれる?それで、あとの人は蚕子からキーをもらってね」
七未子は、すぐに丹子のあとをついて歩いて行くと、広々としたラウンジに案内され、ここでもまた、窓にはめられた大きなガラスの向こうに透けて見える和風庭園の見事さに目が釘づけになった。
すると、市子や丹子が二人でじきじきにやって来て正面に座ると七未子の目をじっと見て市子が言った。
「これ、部屋のキーよ!それからね、食事のあとだけど、宇慈子ちゃんを呼ぶから、もう一度、占ってあげてくれる?前に占ったはずだけど、おそらく宇慈ちゃんは、今、何に困っているか詳しく言わなかったはずよ……」
「ええ、そうです……ひょっとすると、生い立ちにもウソが……彼女、これまで何の問題もなく育ったって言ってましたが、本当でしょうか?」
「それはウソっぽいわね!なにしろ、あの子が幼いころに、失火が原因で旅館が火事になってね。何もかもごっそり焼けてしまったのよ。だから、ご両親は大変に苦労して再建したのよ。だって、あの子も聞かされて知ってるはずよ」
「いや、そんなこと一言も言ってませんでしたわ。だとすると、あの子は、まぎれもなく困難な人生のスタートを切ったわけですね。でも、どうやら今は順調な人生を歩んでいるように見えますが……」
「とくだん、困っている様子はないわね。ただ、考え方が幼いから両親が手を焼いてるわけよ。そんなこともあってね、わたしたち、あの子のご両親に頼まれてるのよ。ぜひ力を貸してくれる?と言うのはね、本当に望むものを手に入れたかったら、とりわけ、人の多いところに行けと、あの子にすすめてほしいのよ」
「まあ、私の占いは、ご先祖から受け継いだれっきとした秘伝書でやっておりますので、占った結果がそう出ればしっかりそのように話しますわ。いずれにせよ、あの子の望むものを聞き出して、あと三年したら不運期に入るので今のうちにやりたいことをやらねばできなくなるって言うことならできます」
「そうそうそれでいいわ!」
市子と丹子は七未子に無理強いすることなくあっさり受け入れた。
「ところで、皆さんの占いは、いつやればいいですか?」
「ああ、それなら、考えておくので、また話すわ!ごめんなさいね、団体客が入って忙しくて時間を見つけるのに苦労してるのよ!じゃ、また後でね!」
話を終えた七未子は、花巻温泉のアルカリ性のヌルヌル感のある泉質に満足し、そのあとも、黒毛和牛、白金豚、海の幸と贅を尽した料理に舌鼓を打って最高のひと時を満喫した。
やがて、食事を終えた一行は解散してそれぞれの部屋に戻ると、市子たちの話の通り、宇慈子は七未子にもう一度占ってもらうことになった。
「宇慈子さん!この前、聞いた内容と違う点があるみたいだからもう一度占いたいんだけど、いいかしら!」
「えっ、何か違っていたの?」
「ええ、そうよ。あなた、たしか、生まれてからずっと順調だったと言っていたけど、市子さんに聞いたら、生まれてすぐ火事があって大変だったって聞いたのよ」
「ああ、それね……言い忘れたわ」
「なにせ、私の占いだと大事なことだから、あなたにウソを占うわけにはいかないし……だからもう一度占いをさせてほしいのよ。つまり、さっきの事実を付け加えると、あなたは今が安定した時期のクライマックスよ。やりたいことがあったら今やらないと、いい結果が出るのは、二十五歳をすぎてからになるわよ!」
「えっ!そんな先なの?二十五歳か……」
「差支えがなければ聞きたいんだけど、いったい、あなたは何がやりたいの?この前は言わないと言っていたけど……」
占い師は本来、踏み込んではいけない世界、つまり、本人が何をやりたいかは本人の自由であって、それがどうなるかを占うのが筋であったが、宇慈子のことが気になった七未子は、本人の希望なるものを思い切って尋ねてみた。
「だって、私、人間になりたいのよ」
「えっ、あなた、人間じゃないの?」
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