南瀬戸内を行く

しもつ

第1話 深夜便乗船

「四国の鉄道はどれも魅力的だ」。

 誰かがそう言っていたのをふと思い出した。

 私は関西に住む一人の旅人。仕事がうまくいかずやめてしまい暇を持て余していた。

 そんな時にふと先ほどの言葉を思い出したのだ、金がないわけではないし、時間はたっぷりある。当然旅が好きである私は鉄道が好きなのもあり、四国の鉄道に一度乗ってみたいと思うようになった。

 旅をしたい。

 そう思ったならさっそく旅行の準備だ。鉄道に乗るのであるからどの路線に乗るのがいいのかを選ぶ必要もある。私はガイドブックや四国の鉄道会社のホームページ等を参照し、どの路線を乗り通してみようか探してみることにした。


 結果として、私は「ジェイアール予讃線」を選んだ。理由としては海が綺麗であること、そして景色の変化に富んだ路線のように見えるからだ。私が山よりも海が好きであることもこの路線を乗り通したいと思う理由の一つになった。

 観光をしてもいいが、まずは自分の興味のある分野から触れてみたいということを考えると、乗り通しから始めるのが自然だろうと思った。

 ゆえに、乗り通すのに最適なきっぷがないだろうかとジェイアール四国のホームページを探した。

 すると、幸運なことにいつでも三日間連続で乗り放題になる周遊乗車券のようなものがあることを発見した。値段こそ張るが、特急列車も乗れることを考えると随分とお値打ちだ。さらにさらに、大阪の駅近くにジェイアールの子会社にあたる旅行会社があり切符が直接買えるというではないか。来店予約こそ必要であり定休日もあるのだが郵送してもらうよりは楽だと考えた私は早速電車で大阪駅に向かい、切符を買うことにした。


 その後、結果としてきっぷはすぐに買うことができた。宿付きの旅行商品もお勧めされたが、それは次回以降にさせてほしいと旅行会社の人に言ってごまかした。(実際にとても魅力的な商品であったが今回は乗り通しが目的でありそれ以外はあまり重要なことではないと感じたから。)

 さて、切符を買い、宿も安宿ではあるもののかなり立地のいい場所を確保できたので私は家に帰って早速旅行の準備に取り掛かった。列車のチケットは持っているか、現金やカードは持っているか、着替えの準備はよいか。

 普通であれば関西から四国は自家用車、高速バスや新幹線と特急列車、松山であれば飛行機という手段も考えられる。

 しかし今回は乗り通したい路線の始発駅が香川県の高松であること、そして朝から出発したいという考えの元で運転の疲れや前泊の値段をごまかしたいということを踏まえて、三宮の港を深夜一時に出る船で四国に入ることにした。


 さあ、四国へ向けて出発だ。

 夜の十一時に電車で三宮駅にたどり着いた私は連絡バス乗り場で待機し、大量の客とともに連絡バスへなだれ込む。

 どうにかして席は確保できたものの、バスの車内は人でいっぱいだ。なぜここまで人がたくさん乗ってくるのか、ふと疑問に思った私はスマートフォンでカレンダーを開いた。するとそこには「金曜日」の文字が。なるほど、明日は土曜日であり、週末に四国へ遊びに行く人でごった返しているのだなと理解した。

 そのような混雑の中で窓際の席を取れた私が夜の三宮の街はキレイだな、と車窓を眺めているうちに連絡バスは港の「フェリーターミナル」と書かれた建物の付近に到着し、大量の客を吐き出す。私も人の流れに乗りながら吐き出される乗客の一部になり、建物の乗船券売り場へと進む。

 乗船時にはすべての乗客が「乗船名簿」なるものを書かなければならないらしく、私も住所と氏名、電話番号等々連絡先を書き込んで乗船券売り場へ提出する。

 売り場の方は随分と明るい笑顔で接客してくださったので、私も相手に伝わりやすいようにはっきりと行先の「高松」(正確には高松東港)と券の種類を伝え、大変速やかに発券をしていただけた。売り場の方には改めて感謝申し上げたい所存だ。

 発券が終わればあとは乗船の合図があるまで待合室で待機してほしいとのことで、階段を上がった先にある場所で待機をしていたのだが、随分と広い待合室だ。椅子がずらりと並び、仲良く話し合っている集団がいれば、トラックか何かの運転手であろうか、椅子を豪快に3つも使い寝転がっている姿も見受けられる。これが夜行船かと、夜の港の雰囲気を肌ではっきりと感じながら乗船時刻を待つ。


 ガシャガシャ


 ドーン


 バーン


 …と車両が甲板周辺を走るときに響く音を聞きながら待っていると、時刻が深夜12時半を回ったところで放送が入る。

「徒歩乗船のお客様、準備ができましたのでご乗船ください。」

 券を購入したのが日付をまたいだ直後だったので、三十分ほど待たされたが無事乗船できそうだ。大量の客とともに流れるようにして船の入口へ向かう。

 すると船の入り口の前に機械が置いてあった。乗船券にある「QRコード」をかざしてほしいとのことで、私も機械に券の「QRコード」が印刷されている部分をかざした。なんとそれだけで手続きが完了したようで、係の人にはその後何事もなく通してもらえた。

 私はその日かなり眠かったので寝れる場所が欲しかったのもあり、いわゆる「雑魚寝」ができる場所を探した。それは船の中でも中間の方の階にあるらしく、船内の階段を二回ほど登ることになった。

 だが思ったよりも「雑魚寝」のスペースは広く、大量に乗ってきた客の皆様方もほとんど床で寝ることなく途中の階にあった座席や雑魚寝のスペース等に収まっていた。(これは後から船内の売店の方に聞いた話だが、本当に混んでいるときは売店付近の床でも寝る人がいるらしい。)

 私も雑魚寝の一人分のスペースに収まり、出航を待つことにする。




 深夜の民族大移動のような雰囲気の中で、一隻の船は定刻一時、本土を発つ。目指すは四国、讃岐の国高松東港。朝の四国はどのような景色を見せてくれるのだろうか…

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